政治家がテクノロジー通になれば、政治記者も変わらなきゃいけない

2019年12月23日 06:01

ここのところ自民党のだらしなさから保守層離反の可能性などを論じ苦言してきたが、前向きな動きはきちんと評価したい。自民党青年局が、小林史明さんの局長就任以来、続々と新機軸を打ち出す中、きのうアゴラで掲載した小林さんのブログでは、全国青年部長・青年局長ウェブ会議を始めたことを報告した。

小林史明氏ブログより

ネット企業で働く人たちからすれば、「今更か」と呆れるかもしれないが、政治の世界はまだまだ昭和のサイクルで動いているのが事実で、特に自民党のような老舗大所帯のアップデートは容易ではない。

45歳以下の党員で構成する青年局だけでも全国に一般党員22万人。地方議員で1144人、国会議員が44人と、これだけでも“中堅政党”ともいえる規模だ。

草の根レベルの日頃の政治活動は、地域のシニア層と対峙することも多く、トップダウンで誰かが音頭を取り、なおかつ同世代の仲間たちでアナログからデジタルに文化を変えていくという合意形成ができないと、物事は簡単には進まない。

中高生のPC普及に一役、政治のデジタルシフトに先鞭

そうした壁を乗り越える上で、NTTドコモ出身、テクノロジー通の小林さんの存在が大きいのは言わずもがなだが、脇を固める執行部の地方議員たちも含めて、社会人になる前からネットを使ってきた世代がやっと一定レベルで主導権を握りつつある。

読売新聞(12月18日朝刊政治面)より

読売新聞も青年局の新たな動きには注目しており、小林体制発足後の3か月、政治面のニュースや連載記事で数回、それも結構なスペースで取り上げている。青年局が全国紙政治面で立て続けに取り上げられること自体が異例だ。

こうした動きが10年でも早ければと思うのは、今年5月にも書いたが(参照「自民政調デジタルシフトも10年遅れ。省庁再編で巻き返せ」)、平成の30年の日本経済が停滞した一因が、デジタルシフトへの遅れであることは衆目一致だろう。

今年のベストセラー『アフターデジタル』を読めば明らかだが、中国のデジタル化には良くも悪くも日本は大きく出遅れ、研究開発投資の彼我の差からしても、ますます格差が広がりそうな懸念がある。

だからこそ政治側が本気でデジタルシフトし、民間に問題意識レベルだけでも合わせるように努力してくれないと、平成30年間の停滞を令和でも繰り返してしまいかねない。

このほど新年度の予算案に全国の小・中学校へのパソコン「1人1台」導入が盛り込まれたが、萩生田文科相に働きかけていた動きの一つがまさに青年局の新体制だった。早速成果も出てまずまずの「船出」といえるが、永田町のアナログ文化がなかなか払拭できない、もう一つの理由として、政治家にも危機感を与え、ひいては有権者にもデジタル化志向を訴えるべきはずの報道機関の側にも課題はある。

読者の皆さんも、菅官房長官の記者会見で一心不乱にパソコンにタイピングする若い記者たちの姿を見て不思議に思ったことはあるまいか。相手の表情も見ず、質疑で疑問を持ち続けられるのか、と。音声AIが進化している昨今、あの不毛な作業こそテクノロジー化できるのではないか。

政治部は、社会部に比べるとまだマシなほうだが、企業取材をしている経済部に比べるとITリテラシーでは劣るのは否めない。重点的に取材対象となっているオジサン政治家たちの中には、パソコンも触ったことがないのにサイバーセキュリティ担当大臣をつとめることが許されるような土壌があるわけだから、なおさらだ。

官邸サイトより:編集部

変わろうとする政治側に、報道側も今のままでいいのか

そして、冒頭でリンクした小林さんのブログでは、副次的に取り上げているが、実は政治メディア史的に画期的な取り組みをしている。

青年局で重要な会合がある際には、小林さんはその前後、記者たちにブリーフィングを行うようにしているが、地方メディアのように物理的制約、ネットメディアのように取材者の人数などに制約がある場合も考慮して、オンラインでブリーフィングに参加する試みもスタートしたのだ。

もちろん、報道側からすると、取材対象に過剰に「便宜」をはかってもらうことに異論はあろう。しかし、この10年、民主党政権時代の記者クラブ開放以後、SNSのインフラ化、ネット選挙の解禁、ネットメディアの台頭、メディアの多種多様化など環境は「激変」した。永田町に昭和の時代から陣取る記者クラブメディアだけでは、カバーしきれない or 深掘りしきれない領域も増えてきている。

特に「テクノロジー×政治」といったジャンルはそうではないのか。政策のデジタルシフトであったり、導入を検討するテクノロジーの中身について、これまでの政治部記者たちがある程度、基本的なことを抑えてきたかといえば微妙な人の方が多数派だろう。政治側も変わろうとしているわけだから、報道側も負けないように見識を磨かねばなるまい。

そういう私自身も最先端のテクノロジーに詳しいわけではないが、ブロックチェーン、暗号資産、5G、AI…意識しないといけないと思うことは何度もある。

テクノロジーの社会実装は時に既存の規制とぶつかることも多いが、11月下旬、小林さんが記者たちを集めて北村規制改革担当相に申し入れる提言の事前レクを行った際に感じたのが小林さんサイドと取材記者たちとの知識や問題意識のギャップだ。政治部の若い記者が本質的な質問がほとんどできず、大臣に会う日時の確認といった枝葉の話に終始しかけた。

記者たちにレクチャーする小林青年局長

彼らは政治家の一挙手一投足をそれこそ夜の赤坂まで追いかけていくことに熱心な一方で、ITや規制の問題には見識が深いとは言えず、無理はなかった。

せっかくの貴重な場面を台無しにするかと思いきや、幸い、元日経の経済ジャーナリスト磯山友幸さんが小林さんの隣にドンと座っておられて鋭い質問を連発。なんとか場を持てた印象だった。

社会を変えるには政治もメディアも“同志”

それと同時に、政治取材もこれまでのありようを見直し、記者たちももう少しIT、テクノロジーに目を向けて知見を広げていく必要も痛感した。小林さんたちの世代が将来、党の執行部や派閥幹部、あるいは大臣職を担うようになってきたとき、デジタル政策の本質的な問題を是々非々で論じ、問題提起や本質的な報道ができなくなるのではないのか。

そういう意味ではアナログなイメージのある我が古巣が連載などで政治のデジタルシフトに少しずつ関心を持ち始め、相応に記事を書いたことは明るい材料だった。もちろん、専門家を取材するなりしてむしろ古い世代を叱咤するくらいが理想的だが、専門メディアだけでなく影響力の大きい本流メディアも変わらないと停滞は打ち破れない。

社会を変えるには政治家や役所だけではできない。最後は社会に住む私たち一人一人の行動如何なのだ。そして新しい政策を実装するには、社会に理解を深めるための手助けが絶対に必要だ。メディアの仕事はそこにある。

今年の後半は与野党のひどい政治を見せつけられ、暗澹とする思いばかりだったが、政治とメディアの関係にほんの少しだけ未来の可能性を感じさせた出来事だった。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」

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