臨時国会の終盤にかけ、これまでネット上で安倍政権や自民党を支持していた保守層が離反するような空気が出始めたことはすでに指摘した。(「森ゆうこ放置」安倍自民のモラハラに保守層が爆発寸前)
その主な要因を簡単に振り返ると、まず挙げられるのが習近平国家主席の国賓招待。これはネット上だけでなく、産経新聞発行の論壇誌『正論』11月発売号のメインタイトルがずばり『習近平の「国賓」反対』だった。
そして、もうひとつが、同月号にまさに私も寄稿した問題でもある森ゆうこ氏の議員特権乱用問題。原英史さんに対する名誉毀損について森氏の懲罰請願を維新の紹介で出したものの、自民党が黙殺したことで採択されなかったのは周知の通りだ。私個人は請願の賛同人として当事者だったこともあり、ネットの右派の人たちの自民党執行部、安倍政権への困惑、苛立ちをひしひしと感じたことも以前書いた。
(ちなみに今週のVlogは国対政治がまかり通る現状にネット世代が苛立つ現状を構造化して解説した)
門田氏警鐘も、規制改革「やる気なし」が助長する不信
自民党の国対族、その後ろにいる官邸はなんとか国会を閉じられて束の間の休息といったところだろう。だが、そうは問屋が卸さない。「裏切られた」思いを持った人たちのマグマは国会閉会後はピークアウトしてはいても沸々としている。だから一朝事あれば小規模でも吹き出す。臨時国会を終えて一週が経った今週もネット世論の動きkら、あらためてそのことを再認識した。
まずは世論調査の動きへの反応だ。各社で若干の差異があり、NHKでは内閣支持率、自民支持率ともに微減傾向だったが、それに先立つ共同通信の調査では、今年に入って初めて内閣不支持率が支持率を上回った。
これについて保守層に強い影響力のある門田隆将さんは「野党のやりたい放題を許す自民党への怒りだ。無能を曝け出す森山裕国対委員長を放置する安倍首相への怒りでもある。安倍政権から“保守層離れ”が始まっている」と強烈に指摘した。
「呆れているのは野党にだけじゃない。3分の2も議席があるのに、このぶざまな姿は何だ」との声を最近よく聞く。野党のやりたい放題を許す自民党への怒りだ。無能を曝け出す森山裕国対委員長を放置する安倍首相への怒りでもある。安倍政権から“保守層離れ”が始まっている。お灸をすえられるのは誰か。 https://t.co/BM5JkQOPG6
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) December 15, 2019
門田さんが原英史さんの請願の件以降、自民党・安倍政権に非常に厳しい姿勢に転じたことも前回書いたが、その請願黙殺の背景で注目されたのが安倍政権、自民党の改革サボタージュだ。それに関連して、元日経のジャーナリスト磯山友幸さんが非常に気になる情報をおととい「現代ビジネス」で書いている。
アベノミクスの規制改革、もはや「やる気なし」というヤバすぎる現実
中身はタイトルどおりだが、未読の方は実相を掴むためにもぜひ読んでいただきたい。“モリカケ”の後遺症で特区関係者が尻込みし、安倍首相の改革意欲喪失が霞が関で取りざたされているという。さらに規制改革推進会議メンバーの人選からも熱心な改革派を外す動きがあるのだと、生々しく伝えている。
この記事を私がツイッターで紹介したところ、これまで安倍政権を支持してきた保守派・ライトな右派の人たちの反応はこんな感じだった(太字は筆者)。
古き悪しき自民党に戻ったように感じます。野党が酷過ぎるが故に支持していた無党派層は既に離れています。
安倍首相に疑問を持ち始めた今日この頃。
もう安倍さんのヤル気の消え失せたかもね。惰性でやってる感が満載だ。
安倍政権、強気な官邸主導から党主導に移行してしまっていますね。不味いっすよこれ。
もちろん全員が安倍自民批判一辺倒ではないが、何人かの“顔ぶれ”は以前と態度変容しているように感じる。そして、特に私が注目したのはこのコメントだ。
今までどちらかと言えば、選択肢として政権側を支持して来たけど、今回の件(※筆者注:森ゆうこ問題)でその気持ちが離れて行きました。もちろん選択肢が無くなったと言う感じですが、秋元議員の件もあり政権離れは加速するように思います。
いわゆる安倍自民の消極的支持だった無党派層の代表的な反応ではないか。
IR疑惑:産経が朝日より早く社説を書いたワケ
そして、その人が最後に指摘していた「秋元議員の件」、つまり、東京地検特捜部が、中国のIR企業の関係者が多額の現金を不正に日本に持ち込んだことを巡り、秋元司衆議院議員や秘書に事情聴取や家宅捜索を行った「IR疑惑」が、無党派層以上に保守層を敏感に反応させている。保守層の思いを“代弁”するように産経新聞がきのう(12月20日)の朝刊で社説を載せた。
産経らしい舌鋒の鋭さのある論考だが、実は特捜部の捜査が今週17日に表面化してから、在京主要6紙(読売、朝日、日経、毎日、産経、東京)でもっとも早く社説で取り上げたのが産経だった。アンチ安倍政権の急先鋒である朝日や東京ですらまだ書いてないのだ。
もちろん、まだ現段階の疑惑は不正に現金を持ち込んだ外為法違反容疑に過ぎない。まだ秋元氏が中国企業側から資金を提供されたという話では出ておらず、しかも19日時点では家宅捜査どまり。この段階での社説掲載は「異例の早出し」だが、そこは産経らしい安全保障への危機感が突き動かしたのだろう。
中国資本の参入については、かねて北海道などで、防衛拠点の周辺や水源地のある森林などが相次いで買収され、国会でも問題視されてきた。IRへの参入も、中国資本による侵食と同じ文脈で警戒を強めるべきだろう。徹底した捜査で事件の全体の構図を明らかにしてほしい。(太字は筆者)
社説としては議員と不正資金の関係についてギリギリまで攻めている感もあるが、それだけ保守層の「琴線」に触れる問題がIR疑惑の特徴と言える。
このあと仮に、逮捕者が出たり、あるいはロッキード事件のときと同じく、外為法違反は「入口」でほかに「本丸」となる事案が浮上したりすれば、習近平国賓招聘問題と合わせて大炎上のリスクを孕んでいるのはまさに“火を見るより”も明らかだ。
総務次官更迭で追い討ちする「古い政治」の記憶
加えて昨日夕方には総務省事務次官が、日本郵政のかんぽ生命問題での行政処分の検討状況について、元事務次官の上級副社長に漏らしたことが発覚。現次官は更迭されたとはいえ、典型的な「天下り」問題により、政官の古い体質が如実に残っていることが可視化されてしまった。
IR疑惑も、総務次官の問題もモリカケのような「から騒ぎ」ではなく家宅捜索なり、更迭なり、明確に本筋の動きがあって国民に可視化された点が異なる。2閣僚の辞任も含め、いずれもスキャンダルとしては古色蒼然としている。40代以上にはリクルート事件など金権政治全盛期のダーティーな記憶を思い起こさせよう。
アンチ安倍のリベラル、無党派層は言わずもがな、保守層もあまりに汚い政治を見せつけられ続け、IR疑惑で安全保障上の文脈も絡むとなれば、保守層といえど、ためらいなく政権支持を継続するのだろうか。
しかし、それでもいまの安倍政権や自民党執行部は守勢に回るばかりで、ネットで可視化された保守層の離反の声をないがしろにしそうな気がしてならない。
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新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」