足元で既に始まっているインフレに社会はどう向き合うか --- 中田智之・前田貴大

寄稿

最近様々な商品の内容量が価格はそのままなのに「減っている」現実に、気づいていない消費者はもはやいないだろう。

例えばポテトチップスの量。コンビニ弁当の大きさ。ファミレスの店員の数。
総じて価格に対するサービスの低下と言い換えることができる。

Kamalakannan PM/Pixabay

これは長く続くデフレの影響ではない。デフレーションでは需要不足・供給過多なので、商品は市場で競争に勝つために、価格を下げるか内容量を増やして、価格に対するサービスを向上させる。

価格が据え置きで内容量が減る場合、ポテトチップスのグラム単価は増額している。これはインフレが起こっているのだ。一般的にはステルス値上げと知られるこの現象には、シュリンクフレーションという名前がついている。

相次ぐ「シュリンクフレーション」いつもの菓子…小さく 牛乳パックは容量減少(産経新聞 2019年7月)

日銀「物価の眼鏡」は節穴? 国民は実感、容量減「シュリンクフレーション」(ニューズウィーク 2018年2月)

1. なぜシュリンクフレーションがおこるのか

昨今のシュリンクフレーションに対する記事は消費増税(2019年10月)に対する価格転嫁と結論づけられることが多い。しかし前出の記事は2018年2月。産経新聞の物品リストをみると数年以上前から始まっていたことになり、消費増税のみに因果関係を求めることはできない。

各記事をみると「原価の増加により経営努力の限界を超えたから」というのが最も納得できる理由だ。原価の増加とは、原油価格増加による輸送費増加、それに伴う輸入等原材料調達費の増加、人手不足と社会保険料増加による人件費増加などが挙げられるだろう。

これは総合的に考えると「供給不足」といって差し支えない。供給不足によってコンビニの弁当がシュリンク(縮小)し、昼食代予算500円のサラリーマンがお腹を満たせなくなるならば、これは正しくインフレといえるのではないだろうか。

2. 需要不足と供給不足は両立するのか

一方、従来の理解では原価が増加した分は小売価格に反映されるので、供給不足を反映して物価が上昇するインフレ局面になるはずだ。

しかしここで市場の状態を振り返るとそこは需要不足で、給与の増加もなく、強い値下げ圧力は相変わらず存在する。これでは価格を上げると競争力を失ってしまうので値上げができない。

苦肉の策としてメーカーは経営努力として無駄を削減し人員を最小限とするが、それも限界に達するとシュリンクフレーションする。

また経営努力の過程で作業に対し参加する人数を減らすと、一人当たりの作業量は増えるのでステルス給与カットが発生し、場合によってはブラック労働の温床となる。本来は小売価格が上昇する分をメーカーが体力に任せて受け止めるから、その内部の歪みがどんどん大きくなる。こうして市場の需要不足と、原材料の供給不足が両立する。

これは国単位で考えると捉えづらくことだが、実際の需要と供給の間には無数のプレーヤーが介在しており、それぞれ個別にバランスをとっている。だからメーカーや販売の供給能力が高いまま、原価が増加して生産活動のための需要を満たせないというのが、この歪みの発生源と推察できる。

写真AC

3. 日本再出発のカギがここにある

シュリンクフレーションは仲介プレーヤーの体力が限界に達し、既存商品ブランドを棄損しながら生存を図っている状態を示している。そうであれば需要と供給の仲立ちをしているプレーヤーが縮小することで、市場自体の縮小が起こるのが市場の原理に則った解決策だ。しかしこれはハードランディングだとも言える。そこに至るまでの混乱は大きいだろう。

現在しなければならないのは原材料側、供給側の上流部分の改善だ。この部分の需要が増大しているのであれば、仲介プレーヤーはそこに投資もしくは人員配置する覚悟があるか、このまま淘汰されるか、問われる局面になっていると考えられる。

一方これまで仲介プレーヤーから値下げ圧力を受けていた末端生産者は自分たちの価値を再確認して価格交渉の機会を伺える環境だ。規制により阻まれていた新規事業なども、低下したブランド力に対抗するチャレンジができるかもしれない。

結果的に通貨安で均衡するだろうが、これは少子化による市場の縮小を鑑みれば避けがたいことではないか。多少サービスやインフラがシュリンク(縮小)しても、長らくモノ・サービスの過剰と言われてきた日本、案外丁度よくなるかもしれない。

行政のすることは、生存競争に立ち向かう気概のないプレーヤーに無用な補助金を渡さないことや、あたらしい挑戦を阻害する規制を緩和することと、ソフトランディングできるような支援とののバランスとりだ。

以上のように、シュリンクフレーションは社会構造の歪みについて重要なシグナルを発していると考えている。この足元で起こっている現象をしっかりと見極め、日本再起の契機となればと願う。

本稿は前田貴大氏と討論し、共著として執筆した(記事内容は個人の意見です)。

中田 智之 歯学博士
専攻は歯周病学。国家資格である歯周病専門医を目指し勉強中。現在認定医。あたらしい党党員

前田 貴大 会社員
大学時代の専攻は憲法学・行政法・日本政治外交史。現在、一般企業に勤める。あたらしい党党友。