米国によるイラン司令官の殺害が金正恩に与える影響

松川 るい

米国がドローンによりイランの革命防衛隊の英雄ソレイマニ司令官を殺害した。これが金正恩委員長に与える影響について。金正恩委員長が合理的リアリストであるという前提に立てば、トランプ政権を舐めてはいけないという教訓と同時に核放棄は絶対にできないという教訓を得たのであり、今後の米朝協議については、プラスマイナス両面あるが、相対的にはマイナスが多いのではないか。

金正恩(朝鮮中央通信)ソレイマニ(Wikipedia)トランプ(Skidmore)

何より、トランプ大統領は予測不可能だ(トランプ大統領自身の論理の中では間違いなく一貫しているとは思うが)と捉えた可能性が高いと思うので、そこで命を懸けたディールはできないと判断するのが自然だと思う。なので、北朝鮮は今後は年頭の発表どおり、トランプ政権の方針に余り左右されることなく逃げ切り作戦(時間稼ぎをして最終的にパキスタンのごとく核兵器国としての現状を認めさせる)を主としていくことになるように思う。

無論、朝鮮民族はオポチュニストであり、米国が北朝鮮の希望する方向で応じるなら米朝協議を進めて得たい果実をえるよう努力するだろうが、選挙を控えたトランプ政権がリスクを取る可能性も高くないので状況は双方にとっての時間稼ぎになるような気がする。

1.  米国というかトランプ大統領を舐めると怖いことになるとは思い知らされた。イランとの軍事衝突を死ぬほど避けようとしていたトランプ大統領が最もリスクの高い選択肢を選んだという意味では、トランプ大統領という人物の予測不可能性についても思いを致したことだろう(トランプ大統領自身としては筋は一貫しているとは思うが)。

したがって、もともとどう考えていたかわからないが、米国が決定的に重要だと思っている米国の権益を簡単に犯すことはないだろう。具体的にいえば、ICBM能力は既に開発済である可能性があるが、しかし、これを大っぴらに公表するような実験はしないのではないか。米国に北朝鮮というか金正恩攻撃の名分を与えるに過ぎず、ブラフとして使うには危険すぎることになるからだ。そもそもが、米国と正面から戦うような能力は北朝鮮は持ちようがないのだから、そんなリスクを取ることは有害無益だ。

2. 金正恩は、益々核放棄しない意思を固めたに違いない。イランは、曲がりなりにも、米国ときちんと合意し、その核合意をIAEAの査察も入れて遵守してきた。しかし、米国から政権が変わったら合意を破棄され、しかも攻撃された。これは、①米国と合意をしても破られる可能性がある、②やすやす攻撃されたのは、いざとなれば米国を脅かすことができる核能力がなかったからである、と解するのが自然である。

松川 るい   参議院議員(自由民主党  大阪選挙区)
1971年生まれ。東京大学法学部卒業後、外務省入省。条約局法規課、アジア大洋州局地域政策課、軍縮代表部(スイス)一等書記官、国際情報統括官(インテリジェンス部門)組織首席事務官、日中韓協力事務局事務局次長(大韓民国)、総合外交政策局女性参画推進室長を歴任。2016年に外務省を退職し、同年の参議院議員選挙で初当選。公式サイトツイッター「@Matsukawa_Rui


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2020年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。