「日英同盟」復活とは、「インド太平洋」推進

2020年02月02日 11:31

1月31日に遂にイギリスがEUから脱退した。移行期間があるので、すぐには影響は見えない。だがこれからいよいよブレグジットの余波が具体的に立ち現れてくることになる。

これにあわせて日本では「日英同盟」復活論が盛んだ。イギリスがEU域外諸国との連携を強く模索しており、日本への関心を強めていることは、事実だ。経済面のみならず、安全保障面でも、強力なアプローチが続いている。

注目度が高まる日英関係(写真は外相時代に来日したジョンソン首相:官邸サイトより)

日本の側にも、これに反対する理由はない。欧州における特別なパートナーとして、さらにイギリスを位置付けていくべきだろう(離脱の余波を見極めながらになるが)。

ただし、「日英同盟」が、1902年に締結された実際の条約に基づく概念だとすれば、言うまでもなく、この「日英同盟」の復活などありえない。多くの事柄が当時とは異なっているからだ。一番は、今のイギリスと当時の大英帝国が、全く違っている。大英帝国は、東南アジアにも領土展開するアジアの大国でもあった。極めて素朴な地理的環境から、極東におけるロシアの南進を懸念するのが、日本の次には大英帝国だった。

現在のイギリスに、そのようなレベルでの東アジアに対する関心はない。それは日本の側に、ヨーロッパに対する関心が乏しいのと、同じだ。

いわゆる「日英同盟復活」論とは、日本がアメリカとともに、オーストラリアやインドを主要パートナーとして推進しようとしている「インド太平洋」構想の強化を意味するはずだ。

2019年2月、来日した英陸軍スミス参謀総長と山崎陸上幕僚長の懇談(陸自ツイッター

イギリスは現在でもインド洋の島嶼部に海外領土を持っている。地中海東端でトルコとギリシアが係争を抱えるキプロス島に軍事基地を持ち、小規模だが長期に渡って展開する国連PKOにも派兵して影響力を維持している。地中海西端が大西洋と接合するジブラルタルを、スペイン王位継承戦争後の1713年ユトレヒト条約以降、保持し続けている。

イギリスは、単に「インド太平洋」と無関係ではないだけでなく、「インド太平洋」が欧州と接合するために一つのカギを握る国である。

ブレグジット後のイギリスが真っ先に関係を強化したいのは、コモンウェルス構成諸国だが、その筆頭が近年に著しい経済成長を果たしたインドであり、その周辺に位置するバングラデシュなどであることは、言うまでもない。イギリスの関心は、「インド太平洋」に注がれた後で、極東の日本につながる。日本だけに関心があるわけではない。

日本にとってイギリスが、アメリカと同格の同盟国になることはないし、それはイギリスにとっても同じだ。イギリスはEUは脱退しても、NATOからは脱退しない。イギリスの軍事同盟国は、依然としてNATOを構成する28カ国だ。日本は含まれない。

NATOは、現在もアフガニスタンで展開中の「Resolute Support」ミッションをはじめとして、域外展開を含めて、活発な活動をしている、人類史上最も成功したとも言われる巨大軍事同盟組織である。

2018年8月、英ポーツマスに寄稿した海自練習艦のレセプション(海自ツイッター

そもそもEUの安全保障ミッションに対しても、ブレグジット後のイギリスは関与を続けるだろう、というのがもっぱらの見方である。現在のEUは、6つの軍事ミッションと、11の文民ミッションを展開させる、巨大な安全保障貢献組織でもある。

(参照)EU公式サイト:Military and civilian missions and operations – European External Action Service

これらの共通安全保障・防衛政策の領域で、イギリスがEUと決別していくという兆候はない。

NATOやEUと、日本が、「日英同盟復活」を通じて、間接同盟関係を持つ、ということは、日本国内では想像されていないだろう。

もっとも私個人は、これらの組織と、パートナー関係を強化すべきだと考えている。少しずつでも要員をNATOやEUのミッションに参加させるべきだ、と考えている点で、おそらく日本国内の誰よりも具体的に、そう考えている。

そのためにイギリスとの関係は、さらに強化していくべきだ。

ただしそれは1902年日英同盟の復活などとは全く異なる。21世紀の「インド太平洋」構想の強化の見取図の中で、日英関係の強化を進めていくべきだ。

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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