新型肺炎対策で中国が誇る「強み」は

長谷川 良

在ウィーン国際機関中国政府代表部王群(Wang Qun)全権大使(中国政府代表部の公式サイトから)

ウィーンの国連で31日、在ウィーン国際機関中国政府代表部らの主催で中国武漢の新型コロナウイルスに関するブリーフィングが開かれ、参加した。ブリーフィングには加盟国の外交官、中国メディアなどが多数参加。ブリーフィングでは在ウィーン国際機関中国政府代表部の王群(Wang Qun)全権大使が1時間余り、武漢の新型コロナウイルスに関する中国政府の取り組み状況などを説明した。

王群大使は、「中国は国際社会の責任あるパートナーだ。新型肺炎の対策でも責任を持って取り組んでいる」と強調。大使はその直後、中国が新型肺炎対策で3点のメリットがあると強調し、①重症急性呼吸器症候群(SARS)などの過去の経験、②中国は科学大国、そして3点目のメリットとして、「わが国は社会主義国だから、決定はトップダウンのため、新型肺炎の対策では迅速に対応できる。大きな強みだ」と自信あふれる表情で語った。

当方が気になった点は大使が挙げた3点目のメリットだ。「わが国は社会主義国だから、決定は即下す。(民主主義国とは異なり)、対応も迅速だ」と強調した点だ。一昔ならば、「社会主義国だからトップダウンで決定を迅速に下す」といえば、それは独裁主義体制を意味し、国民の意向を無視して強権を発動する体制と受け取られる懸念があった。中国外交官が国際会議で、「中国は社会主義国ですから、全てトップダウンです」とは口に出さなかった。

しかし、時代は変わったのだろう。中国は現在、米国に次ぐ世界第2の経済大国だ。国際社会も中国抜きでは、もはや何事も決定できないような状況だ。それだけに、中国外交官が自国の体制を誇りをもって世界で表明できるようになったのかもしれない。

そのうえ、疫病対策は時間との戦いだから、長々と議論をしている場合ではない。即対応しなければならない。だから、トップダウンで迅速に決定できるという点は確かに大きなメリットだ。ただし、そのメリットが「社会主義国だから」という説明には合点がいかない。

王群大使はブリーフィングの中でも何度も、「中国は新型コロナウイルスとの戦いに勝利出来る」と述べ、Capabilities(能力)という言葉を頻繁に使い、「中国は新型肺炎に勝利できる能力がある」と述べていたのが印象的だった。

大使の説明が、「新型コロナウイルスでは迅速に関連情報を公表し、国民に注意を促してきた」という段階に入ると途端にその信憑性が揺れだす。大使は、「そうではなかった」という欧米メディアの情報を意識してか、「わが政府はコロナウイルス対策では責任を持って取り組んできた」と熱心に説明した。

海外中国メディア「大紀元」は31日、「世界中を巻き込んだ今回の新型コロナウイルスによる肺炎のまん延は、防ぐことができたかもしれない。昨年12月には、新型コロナウイルスが研究機関で確認され、各病院はこの情報を受け取っていた可能性が高い」と指摘し、中国側が新型コロナウイルスの発生を隠蔽していた可能性を示唆している。

同時に、8人が肺炎関連でデマ情報をネット上に流したとして始末書提出の処分を出したが、その8人は全て医者だったという。武漢市の医師と中国疾病予防センターの専門家によれば、人から人への感染が昨年12月中旬にすでに発生していたという。浙江大学生命科学研究院の王立銘教授は、「怒りで爆発しそうだ。新型コロナウイルスの人から人への感染を示す証拠は意図的に隠蔽されていた」と証言しているのだ。

中国当局は、新型肺炎をめぐる情報統制の姿勢を崩していない。王群大使はそれを「社会主義国・中国の強み」というだろう。中国は社会主義国というより中国共産党独裁国家だから、共産党がトップダウンで全てを決定できると言い直すべきだろう。現場の医者たちの声を「国民が恐怖心を持つ」という理由で隠蔽するのもトップダウンで決められる国体だ。

残念なことに、世界保健機関(WHO)のトップ、テドロス事務局長は28日、北京を訪問し、習近平国家主席と会談、そこで中国のトップダウンの決定を称賛し、「中国政府は感染拡大阻止に並外れた措置を取った」「中国は感染封じ込めで新たな基準を作った。他国も見習うべきだ」と賛辞を繰り返したというのだ。

そのうえ、そのトップダウンの頂点にたつ習近平主席に対し「稀有な指導力がある」と持ち上げているのだ(以上、時事通信)。王群中国大使がブリーフィングで、「わが国はトップダウンで迅速に決定する」と自慢したのも理由があるわけだ。

中国共産党政権の新型コロナウイルス対策とその情報政策にはやはり隠蔽工作の疑いが払しょくできない。多くの関係者が中国当局とは異なる証言をしているからだけではない。王群大使が自慢する「トップダウンで決定する」中国共産党の歴史的な隠ぺい体質を知る者にとっては、中国共産党発の情報を完全には信頼できないからだ。

これは中国フォビア、中国共産党へのヘイトではない。中国共産党が過去、数多くの隠蔽工作、人権蹂躙を繰返してきた前科があるからだ。中国共産党が過去の負の遺産を清算しない限り、中国共産党政権発の情報は常に疑われる宿命から逃れることができないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。