ゴーンの逃亡が「フライパンから跳び出し火中へ」と言える理由

2020年02月04日 06:02

逃亡劇を風刺するアイコラもあるが…(filckrより引用)

英語のことわざに「フライパンから跳び出して火の中へ」というのがあるが、ゴーン容疑者は今まさにそうした状況に置かれている。

彼が逃亡した先のレバノンは、1975年頃まではフランスの委任統治領だった名残を残し、中東のパリと言われた住みよい国だった。私がかつて在籍した財務省のずっと先輩の中には、いわゆるキャリア組だったが、若い頃レバノンの日本大使館に駐在した人もいた。

その後15年に及ぶ内戦で国は荒廃したが、1990年に戦いが終わると海外からの資金が流入し、もともと地中海に面した風光明媚な場所なので、アラブの金持ち達がヨット遊びなどに興じる、中東のリゾート地となった。

海外からの出稼ぎ者の送金と、高金利に惹きつけられたアラブ諸国などの金持ちの資金やゴーン逃亡犯が不正蓄財したような闇の資金に支えられて、レバノンはつかの間の好景気を享受した。

こうした資金がインフラの整備や産業振興に使われればレバノンは良い国になったのだろうが、宗教・宗派の派閥均衡政権の下で、政治家は国のことよりも自分と自分の派閥の利益確保に走ったため、汚職とコネが蔓延し、停電が頻繁に発生したり、ごみの処理さえ十分にできない社会となってしまった。

それでも海外から高金利で集めた資金の元利払いができている間は良かったが、資金の良い運用先があるわけがなく、債務の重圧が次第に大きくなり、ついに昨年10月には臨界点に達してしまった。ちょうどゴーン容疑者が日本から逃亡しようと計画を具体化しつつあった頃だろう。

昨年の10月、財政危機に陥ったレバノン政府がSNSのひとつのWhatsAppに税金を掛けるといったことから、汚職やインフラの悪化に業を煮やした民衆の不満が爆発してデモや騒乱が発生し、ついに内閣は総辞職に追い込まれた。

銀行は騒乱を避けるためと称して2週間休業したが、本当のところは外貨が底をついていたからだった。金持ちは、いち早く海外送金したり、クレジットカードでローレックスや車など高価な買い物をして資産を保全を図ったが、一般庶民は営業を再開した銀行の窓口に押し寄せたものの、1週間に200ドル程度の少額のお金しか手に入れることが出来ず、公式にはドルに固定されているはずのレバノン・ポンドのレートは、闇市場で半値以下で取引されているという。

ゴーン容疑者のことだから、不正蓄財した資金はレバノンの銀行だけでなく、カリブ海のタックスヘイブンや湾岸諸国に預金していることだろうが、レバノンに住んでいる以上は日々の生活の資金をドル建てか現地通貨のレバノン・ポンド建てで支払わねばならない。

ところが銀行の窓口では、朝から整理番号票を手に列に並んでもその日のうちに預金を引き出せる保証はなく、機能が停止されたATMは、怒った群衆の手で落書きをされ打ち壊されている。もちろんクレジットカードやインターネットバンキングもとっくの昔に使えなくなっている。こうした状況の中でゴーン逃亡犯は、レバノンの検察から出国を禁じられており、身動きが取れない状況にある。

ベイルート市街地(Georgia Cartharis/flickr)

1月末に新たに組閣されたレバノンの内閣は、経済の難局を打開するために海外からの資金援助を模索しているが、イランと結びついているシーア派のヒズボラが牛耳っているレバノンに、スンニ派の湾岸諸国はお金を出さないだろう。

また、イスラエルに近いアメリカのトランプ政権も、ロシアやフランスを中心とする欧州などの動きに注意は払いつつも、現状では率先して援助に動かないはずだ。

こうした中で、フランスはレバノンへの影響力を維持するために、いずれは助けの手を差し伸べるだろうが、おそらく現在は水面下でドイツなどの欧州主要国やアメリカなどに根回しをしているだろう。こうした場合、フランスだけで支援を行うことはせず、国際的な支援の形をとるのがいつものパターンだ。

私がフランス大使館勤務時代に参加していた、パリクラブというフランス主催の債務削減・繰延会議や世界銀行主催のこれもパリで開催されるドナー国会合、そして昨年秋の交代でフランス人ではなくなったが、過去何人もフランスから専務理事を出しているIMFなどの力を総動員するだろう。

通常こういった場合、IMFが経済再建のための処方箋をレバノンに提示してその実行を約束させると、まず短期のIMF融資をして当面の資金繰りをつけ、次に各ドナー国がレバノンへの経済支援を約束し、さらにパリクラブは経済再建がスムーズにできるように公的債務の削減や繰延をする。

日本は、こうしたIMFを中心とするレバノン救済のおぜん立てが整うと、それに加わらざるを得なくなる。なぜなら、日本はIMFと世界銀行でアメリカに次ぐ第2位の議決権を持っているものの、支配的議決権を持つアメリカがゴーサインを出せば、ゴーン逃亡犯をかくまっているレバノンに助け舟を出すのはいやだと思っても、国際政治上なかなかそれはできない話だからだ。仮に日本がレバノンへの新規の円借款は出さないこととしたとしても、既に供与している円借款について、パリクラブに参加して少しでも日本に有利な条件の削減・繰延になるようにする必要がある。

そうだとすれば、今のうちからトランプ大統領と手を組んで、フランスがレバノン救済を打診してきたときは、ゴーン逃亡犯を日本に帰すことを水面下での条件とし、フランスやレバノンがそれを呑まなければ、アメリカと一緒になってIMF、世界銀行、パリクラブでレバノン救済案をつぶしてしまうぞと言えばよいのではなかろうか。

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有地 浩
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®

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