コンビニ問題、経産省の検討会が報告書案を公表:産経からは厳しいコメント

2020年02月09日 06:00

昨年末掲載の論考、「どうなる、コンビニの深夜営業・元旦営業?」(2019年12月30日)でも触れた、コンビニ問題に係る経済産業省の有識者会議、「新たなコンビニのあり方検討会」が2月6日、報告書案をまとめた(会議の場に提出した)。

写真AC

人口減少社会、人手不足による人件費の高騰、加盟店オーナーの高齢化、その他コンビニサービスの多様化(加重化)などの環境変化を挙げつつ、「こうした中で加盟店が疲弊し、事業の継続が困難となるという事態が顕在化しており、今やフランチャイズによるコンビニというビジネスモデルの持続可能性が危機に瀕している」と指摘している。その上で報告書は次の通り述べている。

これまでの統一的なフランチャイズモデルをそのまま硬直的に各加盟店に適用しようとしても、個別の加盟店が置かれた経営環境が多様化してしまっているがゆえに、場合によっては加盟店が過度な負担を抱えることとなるケースや、加盟店が本部から適切な支援を受けられず、経営状況を立て直すことができないといったケースが昨今の課題として浮かび上がっているのではないか。

報告書は具体的な提案として、

① 「統一」からより「多様性」を重視するフランチャイズモデルへの転換

② 本部の加盟店支援の強化、フランチャイズへの加盟メリットの可視化

③ オーナーとの対話の強化

の三項目について述べている。

簡単にいえば、これまで報道されてきたようなフランチャイジー(コンビニ・オーナー側)の実情(苦境)をより重視し、フランチャイザー(本部側)が柔軟に対応せよ(理解を示せ)、ということである。一律の24時間営業の要請、休日の在り方(取り方)、アルバイトなど人材の確保、人件費の一部についての本部負担などが言及されている。

一連の報道で、フランチャイザー側の「ブラック企業」感が国民に浸透してしまっている(そういえば少し前に、どこかの経済誌で「コンビニ地獄」といった特集がされていたのを思い出す)のだろうか、報告書も「この流れ」に乗った形になっているように見える。要はフランチャイザー側に問題があるのだからこれを是正せよ、と。

各紙は報告書の内容を簡単に触れるだけのものが多いが、産経新聞は次のように書いている(「コンビニ問題の有識者会議、業界への注文に終始 不十分な報告書」)。

コンビニをめぐる課題を議論す24時間営業への対応などが進んだ。ただ、議論の集大成と位置付けた報告書では、本部や業界への注文に文面が費やされた一方、もう一つの担い手である加盟店への言及がみられないなど、不十分な内容となった。

「本部と加盟店の双方がメリットを享受する」ことを促しながら、本部以外の重要なプレーヤーとなる加盟店やオーナーの果たすべき役割や姿勢についての提言には欠けた。

その他も産経の記事は、「報告書では各社に人材確保や定着に向けた店舗従業員教育の充実を求め、業界に特定技能制度の活用などを期待したが、目新しさには乏しい」などと手厳しい。

この報告書のストーリーは、コンビニはかつてビジネスモデルとして成功をおさめたものの、近年の環境変化の下、立ち行かなくなっており(「本部と加盟店の双方がメリットを享受するというフランチャイズの有する好循環が目詰まりを起こしている」と表現している)、「持続可能性」といった観点からのビジネスモデルの軌道修正が必要だ、と論じようとするものである。

持続可能性とは誰(何)に向けられた言葉なのであろうか。一般には、経済の、環境の、といった広く共通の対象に向けられているか、企業の、組織の、あるいは労働者の、といった特定の主体に向けられていることが多い。ここでは、持続可能性は「ビジネスモデル」に向けられている。

ビジネスモデルや業態が持続可能性を失い、新たなモデルや業態にとって代わられるのは、競争社会では通常の現象であり、むしろ歓迎されるべきものでもある。既存の企業が新興勢力に負けないためには、常に自社を環境の変化に適応させる必要がある。たとえGAFAのような巨大企業であっても進化し続けるテクノロジーの前には脆い存在である。

コンビニのような一般消費者向けの流通業は、人々の生活スタイルの変化が大きく変われば自らの存在も大きく変化させなければやってはいけない。コンビニはそれに適応するように登場し、その変化を加速させた。

自社に脅威を与える変化に対応できない企業は淘汰される。あるコンビニのフランチャイザーがそうなのであれば、その程度の企業だったということである。それを危惧するのは、誰の利益を考えてのものなのか。コンビニのオーナーなのか、それとも生活する人々なのか。

変化とは何か。一連の問題は主として、フランチャイジー側が置かれた環境の変化である。もともとフランチャイジーは契約に際して、(それが甘かったかもしれないが)一定の利益の見通しがあって開業に至ったはずである(そこに「詐欺的な要素」があれば全く別の問題になる)。環境の変化はフランチャイジー側を襲ったのであり、フランチャイザー側はこれを「契約問題」としてドライに扱おうとしている。ビジネスモデルの持続可能性の問題として、フランチャイザー側は認識しているのであろうか。

フランチャイジー側の悩みは、自らが苦境に立たされていてもフランチャイザー側が聞く耳を持たず現状維持での更新か解除かを迫ってくることである。フランチャイジーの直面する脅威をフランチャイザーのそれと同一視できていないことを意味する。「一部の」フランチャイジーのためにビジネスモデルを見直す必要が果たしてあるのか、と考えているのかもしれない。「全ての」フランチャイジーが撤退を余儀なくされるほどの深刻な問題を抱えているのにフランチャイザーが無視しているのであれば、あまりに鈍感であるし、無能である。

一律的に深夜営業が苦しいというのであれば、それを強制するビジネスモデルを(新規の)オーナーは望まず、フランチャイジーのなり手は激減するだろう。その時、困るのはフランチャイザーである。既存のオーナーが「逃げられない」状況に陥っており、市場の自律的調整機能が期待できないというのであれば、それはもう独占禁止法の領域に入っているということになる。

フランチャイザーが直営店ではなく独立した事業者をフランチャイジーとして使いたがる理由は、それが「手数料ビジネス」として意味を有するからである。手数料ビジネスということは、経営のリスクを分散することができるということである。自社の労働者ではなく契約相手として店舗を展開することができる。ウーバーとドライバーのような関係だ。

実質的に労働問題として理解できるが、独立した事業者として「ドライな契約」の世界に持ち込むことができる。フランチャイザーがそこにメリットを感じている以上、報告書の提言はフランチャイザーには響かないであろう。

コンビニ問題と、楽天、ウーバーイーツのようなデジタルプラットフォーマーが抱える一連の問題との共通性は、もっと強調されてよいだろう。つまり相手は労働者ではなく事業者である、ということであり、業態としてはマッチングビジネスだということである(コンビニをマッチング・ビジネスというと違和感があるかもしれないが、ブランド化された店舗=「場」で、フランチャイジーと消費者を結び付けるという意味では、そう捉え得るのではないだろうか)。

コンビニという流通の(画一化された)「場」の性質を取引相手の都合でコロコロ変えたくない、というのが本音だろう。ウーバーの例でいえば、ドライバー、配達員の都合でアルゴリズムを「受動的に」変えたくないというのと同じだ。構築されたビジネスモデルが自社の競争環境にマッチしているかどうかは自社が考えるのであって、消費者の声は重要だが外部の「知識人」にいわれたくはない、と思っているのかもしれない。

持続可能性とは誰に向けてのものなのか。問題となるのは、自社の利益と他者の利益が不整合を起こす時だ。「企業の社会的責任(CSR)」が問題になるいつもの場面である。マイケル・ポーター流の共有される価値の創造(Creating Shared Value)が可能でそれが有効ならば、それは現場に任せればよい。

報告書は「公正な競争、公正な取引」を語りたいのか、マーケティングを語りたいのか、あるいは社会的責任や価値創造を語りたいのか。「持続可能性」という言葉が、ターゲットを曖昧にしてしまってはいないか。

最後に、報告書案はその後半部分で「新たな時代に向けたコンビニの革新」として、

①リテールテックを活用した次世代モデル

②社会課題解決型ビジネス

③国際展開

について述べているが、これはフランチャイザー・フランチャイジー問題とは別の報告書で扱うべき問題だろう。ビジネスモデルの持続可能性の問題に結びつけたいのだろうが、前半部分の(産経新聞のいう)「不十分」=「消化不良感」を埋め合わせるための「抱き合わせ」のような感じがしてならない。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

過去の記事

ページの先頭に戻る↑