会社は誰のものか:経済事件から考えるコーポレートガバナンス

ネット通販の「送料無料プラン」に関する公正取引委員会 VS 楽天のバトルが熱くなってきました。両者の「優越的地位の濫用に関する哲学」論争は、企業コンプライアンスを考えるうえでたいへん興味深いですね。

昨年、楽天は「楽天トラベル」運営上の問題については、確約手続をもって公取の考え方に賛同していましたので、決して独禁法コンプライアンスに後ろ向き、というわけではないようです。ただ今回は、バトルを繰り広げるなかで、公取委とWIN・WINの関係を築きながら(まともに勝負できる相手ではない)GAFAに対抗していく考え(方針)ではないかと推測いたします。

願わくば、「楽天ユニオン」側にも、また楽天側にも、公取委で何年か審査官を務めた経験のある弁護士さんが代理人に就任すれば、さらに面白いと思います。私がブログで15年来、ずっと唱えてきた「闘うコンプライアンス」(儲けるためのコンプライアンス)の典型例であり、最近の金融庁の課徴金処分のように「行政側が勝ったり負けたり」するなかで、健全なリスクテイクを後押しする法ルールが(ビジネスの世界で)形成されることに期待します。

さて(ここから本題ですが)、当ブログを御覧の皆様に、かなり関心が高いテーマを扱った本が出版されましたので、ご紹介いたします。2月12日に発売ということですが、著者より献本いただき、さっそく通読いたしました。

朝日新聞経済部の記者として、長年、日本企業のガバナンス、監査制度、経済事犯を研究・報道してこられた加藤さんの新刊です(単著は初めてではないでしょうか?)

本書で取り上げられている経済事件はオリンパス、東芝、日産(ちゃんと逃亡の事実も記載あり)、関電、スバル(品質偽装)、その他ですが、それぞれの事件で登場する人物は、加藤記者が興味を抱いた人たちなので、事件を通じて浮かび上がる論点がとても新鮮です。

語られる情報は(記者さんなので当然といえば当然ですが)一次情報であり、また意見もはっきり述べられているので(賛同するか、異論が出るかはわかりませんが)、あらためてガバナンスや内部統制について考える契機となりました。ちなみに「終わらぬオリンパス事件」とありますが、そういえば「別のオリンパス疑惑」について、株主の権利弁護団が動き出したようですね。。。

なかでも日産ゴーン氏の事件については、「加藤さんらしさ」が前面に出ていておもしろい。実はゴーン氏の業績連動報酬部分が「0円」と記載されていることに違和感を覚えて、事件の数年前に日産に問い合わせをしていた方がおられたそうです。そのあたりから、(取材を通じて)日産の役員報酬の「ナゾ」について語られることになり「いま、ゴーン氏がいたら、個人別報酬額の上限枠と連動報酬制度との関係についてぜひ質問したい」と、私も思いました。

経済事件との関連やガバナンス最前線の話題として、日本公認会計士協会や日本監査役協会の活動状況なども出てきます。私は関西在住なので、そうそうおもしろそうな東京のシンポには出席できないのですが、この本では、その時代のキーマンの方がシンポでどんな発言をしていたか…といったことにも焦点が当てられていて「なるほど」と何度も頷きました(後半部分に少しだけ私も登場しますが…、ちなみに帯に出ている「会社における民主主義と立憲主義」というフレーズは、あるキーマンの方の発言でして、私も「なるほどウマいなぁ」と強く頷きました)。

会計士協会も監査役協会も、「自分の首を絞める」ことを覚悟のうえで(?)、ぜひ会員の方々に一読をお勧めしていただきたい!


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年2月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。