人材の流動化とテレワークなしに、日本企業の再興はあり得ない

長井 利尚

東急多摩川線・下丸子駅。ここは、キヤノン本社の最寄駅だ。朝は、この駅からキヤノン本社に向かうキヤノン社員と思しき人たちを多く見かける。私の気のせいかもしれないが、彼らの多くは、顔が青ざめているように見える。生気がないのだ。

東急多摩川線・下丸子駅(Wikipedia)

ニコン本社は、品川駅港南口にある。私は昨年、数日間に渡って品川駅港南口に立ち、ニコン本社に向かうニコン社員と思しき人たちを観察していた。彼らの多くも、キヤノン社員と思しき人たち同様に、生気がない。

2018年12月期のキヤノンの有価証券報告書の54頁「役員の状況」を読むと、暗澹たる気分になる。4名の代表取締役全員に、転職経験が確認できないからだ。

2019年3月期のニコンの有価証券報告書の44頁「役員の状況」を読んでも、銀行や生保から転じた人などはいるものの、広い世界を知らず、最新の情報には疎そうな高齢日本人男性ばかりが並んでおり、これではニコンの業績が奈落の底に沈んでゆくのは当然だと思う。

ぱくたそ

東京近郊に住み、役員になるまでは長年にわたって満員電車で通勤し、他の世界を知らない人たちだけで経営していれば、経営が悪化するのは当たり前だ。

人材の流動性が乏しく、外部の冷静な視点を持てない会社は、仕事の進め方に問題があることに気づけない。

また、キヤノンもニコンも社員の平均年齢が高く(43〜44歳台)、「良いモノを作れば売れるはず」という、過去の成功体験を引き摺っており、外部環境の激変に対応できていない。

日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した機関投資家が、増えてきたのは良い傾向だと思う。今後、キヤノンとニコンの株主総会において、取締役選任の議案が諮られることと思うが、現任の取締役の再任提案に対しては、「反対」の投票をされることを、全ての株主の皆さんに、強くお勧めする。

話は変わるが、群馬県高崎市内の中学校で私と同級生だった水澤安津美さんと旦那さんが、クラウドファンディングを始めた。スタートから1週間で目標額の89%を達成したという。私も、1万5千円の狩猟体験コースに申し込んだ。

クラウドファンディング・プラットフォーム「MotionGallery」より

安津美さんは、都内のIT企業を渡り歩いたという。結婚後、2016年に水澤夫妻は、安津美さんの出身地である群馬県高崎市(人口約37万人)に移住。その1年後、自然豊かな群馬県富岡市(人口5万人弱)に再移住。安津美さんは、現在も都内のIT企業に所属しながら、テレワークで働いている。

東京一極集中の時代は、近い将来、非常に高い確率で終わると私は考えている。日本は米国とは違い、人が住んでいるところなら、どこでも光ファイバーが敷設されている。地方に住んでいても、最先端の仕事はできるわけだ。人口密度が高く、家賃が高く、ストレスフルな都心に住む合理性は、どんどん失われている。

家賃などの生活費の高い東京近郊に住み、自由な発想を奪う満員電車に揺られて通勤し、パワハラ上司と週5日も顔を合わせている社員が多くいる会社の経営が悪化するのは当然だ。

キヤノン、ニコンだけでなく、人材の流動性が低く、同質性の高い高齢日本人男性だけで実質的な意思決定がされている会社が、近い将来、消え去る可能性は高いと思う。人材の流動性を高め、テレワークを広く実施すること。それ以外に、生き残る道を見出すことは難しい。