いっちょかみと特権意識で国難を憂う「玉川徹」という欺瞞

秋月 涼佑

よせばいいのにいやなモノを見てしまった。8日(水)9日(木)朝日系全国ネット「羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜・午前8時)である。

前回アゴラに書かせていただいた、同番組のレギュラーコメンテーターであるテレビ朝日社員、玉川徹氏のあまりにも酷い煽りスタンスや、客観性を欠いた持論の押し付けに対して異議を唱える下記記事は驚くほどたくさんの方が読んでいただき、「いいね」などの支持も多くいただいた。やはり疑問を感じていたのは私だけではなかったのだと、大いにホッとした。

「モーニングショー」玉川徹氏、詭弁・開き直りの厚顔

とはいえ、上記記事末尾にも予め書かせていただいたが、彼らの番組や玉川氏のスタンスに聞く耳はないだろうとも確信していた。たとえ私の記事を目にしたところで、謙虚に何らかを省みる心境にないだろうことは、日頃のテレビ画面からも肥大した尊大さとして十分伝わってきていたからだ。

テレビ朝日系「モーニングショー」(4/9)より

案の定、玉川氏の春休みなどを挟み、たまにチラ見する限り私の予想通り相かわらずの番組内容であり、私自身も、幸い彼らの番組にかまける暇がないほどには忙しい毎日だったこともあり、この番組をしっかり見ることなく過ごしてきた。

しかし、ここ数日、自宅で時間を過ごす時間があったがために、つい怖いモノ見たさで見てしまったのが運の尽き。玉川氏の相かわらずの独善的なトークにやはり怒り心頭となってしまったのである。

「インフラ関係以外はみんな仕事を休んで家にいるべき」 で、あなたは?

8日の玉川氏は、とにかく「インフラ関係以外はみんな仕事を休んで家にいるべきだ」と結構な権幕で繰り返ししまくし立てていた。もちろん未曾有の国難いや人類的疫病である、ついに緊急事態宣言も発令され強い危機感は誰でも持っている。在宅勤務に切り替えた人もすでに多い。

一方で不安を感じながらも、どうしても出勤せざるを得ない判断の人も少なからずいる。玉川氏の主張は、ゼロリスクを目指し、海外のような強権をもって極めて厳格な外出抑制を初手から徹底的に行うべきという立場だろう。

他方、日本政府の立場は、日々慎重に情勢を見極めながら、できるだけ穏当な手段を選択できる範囲では選択し、経済や生活面でのパニックや損害を最小化しながらも、コロナウイルス流行の収束を目指そうというものだ。

もちろん議論自体は両論あって良い。しかし、私がどうしても納得できないのは、「インフラ関係以外はみんな仕事を休んで家にいるべきだ」と強硬に主張するこの番組が、当たり前のように自分たちだけを棚に上げて放送し何の釈明もないことである。

誰にとっても仕事はかけがえのないものであって、家族の生活の糧であり、社会の何らかを支え必要とされているから存在しているのであって、軽々に一日たりと休める筋合いのものではない。しかしながら、今回の深刻なウイルス流行をふまえて多くの企業が在宅勤務にしたり、断腸の思いで営業休止をしている。

自覚なくバカ騒ぎをしいるような愚かな人間はごく一部で、やむなく出勤するからにはそれなりのギリギリの判断があってという方がほとんどである。

そんな中で彼らの番組には、「インフラ関係以外はみんな仕事を休んで家にいるべきだ」の文脈に自分たちを振り返る視点は微塵もない。なぜか。骨の髄まで、自らの特権意識に浸っていて省みることがないからだ。

部品メーカーもお菓子卸も、デザイナーもこんな危険な状況だから「仕事を休んで家にいろ」。でも、自分たちは「天下のテレビ局だよ、マスコミだよ。我々には放送という社会的使命があり。云々」。聞かなくても頭で考えていることは分かる醜悪な特権意識に浸かっているだけのことである。

どんな商売も簡単には休めない。

かねてより自らの権利や立場を守ることだけには圧倒的な労力を振り絞る人々である。そんなことを指摘されれば、やれ放送免許の関係で放送は止められないだの、お馴染みの自画自賛の役割論で我々は社会的インフラであるなどと、速攻で100ほどの理論武装をしてくるだろうが、予め言っておくがすべて詭弁である。

営業自粛を実質的に強いられ抗議やむなしとなった銀座のクラブの方々が提供する情報価値やエンターテインメントと、客観性や公共性をかなぐり捨ててまで視聴率競争に邁進する朝のバラエティー情報番組が提供するそれに第三者視点でみた際に彼らが自認するほどの明快な差異は存在しない。「羽鳥慎一モーニングショー」が簡単に休めないと考えるのと同じ程度の理由でどんな商売も簡単には休めない。

良いではないか、緊急事態につき「羽鳥慎一モーニングショー」を休めば。玉川氏が主張する危機感を視聴者に伝えるこれを上回る方法は存在しないはずだ。

また実際的な番組制作面でも、この番組のコロナ対策はおためごかしという他ない。何人かのコメンテーターは遠隔カメラからの出演だが、スタジオには何人のスタッフがいるのだろうか。十数人ではきくまい。平社員という体でおなじみの玉川氏自身は毎朝タクシーだろうかハイヤーだろうか?定かではなないが、まあリスクの少ない処遇を受けている気はする。

一方で現場の制作会社スタッフの末端は公共交通機関に違いない。まして、換気の悪いスタジオ仕事だ。お世辞にも、玉川氏が口を極めて他者に求めているレベルのコロナ対策の徹底など図られているとは思えないのである。これを欺瞞的と言わなくてなんというのだろうか。

一見もっともらしいが新橋居酒屋の与太話レベルの正論

それにしても玉川氏が自ら正論とする主張は常に一面的で、一方的である。(一応カッコ内は筆者推察)

「全国民にPCR検査を実施せよ」(誰がどうやるかなんかオレは知らない。できないヤツは無能だ。オレ?オレがやるわけないじゃん。)

「全国民にとにかくすぐ現金を渡すべし」(財源なんか知らないよ。国が破綻しないように誰かが考えてうまくやれよ。え、収入が減ってない人もいるって?まあ確かにオレも安泰だけど、それを言っちゃ受けが悪いから黙ってよ)

田崎氏と激論する玉川氏=「モーニングショー」(4/9)より

唯一、9日の番組で救いがあったのは、田崎史郎氏が玉川氏の主張に対して「短絡的」と断じてくれたことだ。

(それにしても政権寄りで権威主義的な年配男性にしか見えない上、テレビ的な端的さに欠ける田崎氏を悪役に見立てるこの番組の底意地の悪い演出には毎度辟易する)

まさかの視聴率のための確信犯的八百長興行

疑問なのは、玉川徹氏の動機である。多少の理性があれば、自分の言説が多分に一面的なものであり、ミスリーディングなものであることには気が付くに違いない。

「モーニングショー」視聴率に貢献 玉川徹氏はあえて「悪役」に?(日刊ゲンダイ)

要は八百長であり、確信犯である。

視聴率はイコール広告費・利益であり、その差は莫大である。確かに身内の論理で言えば、玉川氏はヒーローなのだろう。番組が終われば「今日もブチかまししましたね」とゴマをするスタッフとか、「おいおい飛ばし過ぎるなよ」とまんざらでもない顔でたしなめる風情の幹部社員から声がかかるのかもしれない。

そんな中、こと玉川氏で言えばモチベーションは確かに利益、出世ではないかもしれず、単なる高揚感や持論をブチかます満足感ではあるのだろう。

玉川徹ファンは、同調圧力や権力に屈せず論陣を張る体の氏を頼もしく感じたり、スカッとしたりして支持するのだろう。私もかつて嫌いではなかっただけにその気持ちはよくわかる。

でも考えて欲しい。今の氏のあまりに一面的、短絡的な言説は、公共性の高い放送事業としては一線を超えていないか。まして未曾有の国難で無用の混乱や損害を巻き起こしていると思えてならない。

コロナウイルス流行以来、玉川徹氏は危機感を煽りに煽ってきた。それが上記記事にあるように、ある種のテレビ的分かりやすさやカタルシスを演出してきた。

もちろんコロナウイルス流行を軽視する気は毛頭ない。個人的にも研究している文明論の世界で主要な論者がウイルス流行に重きを置いて論じていたこともあり、かなり早くから私自身人一倍の危機感をもってきた。

(私の個人サイトの過去記事ですがよろしければお読みください。『第4回 Netflixがすごい】オリジナルドキュメンタリー「パンデミック」中国からのウイルス流行をズバリ予言。今起きているウイルス流行の怖さすべてが理解できる。』)

しかし、だからこそ冷静さや科学的視点が重要なわけで、自分が比較的に安泰な立場だからといって、日本を焼け野原にして良いわけがない。もっと衝撃を和らげる手段があったかもしれないのに、間違いなくこの番組や主要なワイドショーの煽りによって、現に生活に困る人が生まれる事態となっているし、これからもますます増えるだろう。まして、テレビ局を支えるスポンサー企業の事業にも深刻なダメージが及んでいる事態にも無頓着という、根本的な職業倫理に欠ける姿勢も理解に苦しむところである。

さすがに“いっちょかみ”で特効薬を語るのはひどすぎる

最後に、一線を超えていると思う象徴が、医薬品に対する軽薄なコメントをして憚らないことだ。「こんな新薬が有望だ」とか「こんな良い薬があるんです」など、新聞やネットの記事に出ていたレベルの情報をあたかもすぐにも臨床使用できるかの勢いでまぶしてくる。

さすがに医薬品に対して“いっちょかみ”のスタンスが許されるわけもない。万一誤った受け取られ方をすれば深刻な健康被害や後遺症につながりかねない。

(さすがに9日の放送では、アビガンの解説に医療の専門家が登場し、田崎氏もサリドマイドの例を出して特効薬の開発が待たれながら、一方で慎重であるべき理由を述べていたが。すでに何度もフライング発言が行われた事実を消し去るものではない。)

人類的な災厄に際し、“いっちょかみ”の浅はかさと自らはすべて棚にあげる特権意識で全知全能の神のごとく公共の電波で吠えまくる。あげく日本が焼け野原になろうとなんだろうが知ったこっちゃない。

私には、動機がなんであろうと許されざる所業と思えてならないのだが、いかがだろうか。