歯科医院スタッフに広がる新型コロナ感染の不安

2020年04月16日 06:00

acwork/写真AC

新型コロナウイルス蔓延に関して緊急事態宣言が発令される中、市中の飲食店は次々と休業となっている。特にスターバックスコーヒーが対象地域において早期に休業の判断を下したのは驚きをもって受け止められた。またヘアカットチェーン大手QBハウスも対象地域における休業を実施している。

このように町中が休業していく中で、様々なつながりから歯科医院スタッフで不安が広がっていると耳にする。

既に歯科医院の感染リスクが高いことが報道などで指摘されている中、感染対策として防護服などを用意する必要があるのか、あるいは休業が望ましい対応であるのか。

歯科医院スタッフだけではなく、いつ何時歯科治療が必要になるか分からない一般の方々とともに、この点を共有しておきたいと思う。

1. 現状休業は求められていない

東京都では13日に正式に休業要請が施行されたが、歯科医院は対象外である。歯科医院は医療機関として、感染防御について十分配慮した上で地域のインフラを担う役割が期待されている。

(参考)対象施設FAQ(令和2年4月13日19時00分)―東京都防災ホームページ

実際クリニックには、歯肉が腫れて咬むことができなくなってしまった方や、入れ歯を壊してしまった方などが現時点でも来院する。それらの患者さんに対し歯科医学的な対応がなければ、自粛解除まで流動食を余儀なくされ、明らかに健康を損なうだろう。

もちろん既に都内の大学病院が実施しているように急患・必須のみの対応とし、診療体制を縮小することは妥当だ。例えば定期健診や、歯周病軽症者の歯石除去などは情勢が落ち着くまで延期して差し支えない処置と言えるだろう。

2. 感染防御体制は十分か

まず前提として、歯科医院における感染リスクが高いというのは確かである。

そのため下記参考資料においては、過去2週間での発熱、呼吸の異常、嗅覚の異常、集会への参加、不特定多数の人間との接触、新型コロナウイルス感染者との濃厚接触があった者は、該当日から2週間経過するまで可能であれば歯科治療を延期すべきとされている。上記が問題なく受診日に検温して発熱していない場合は、診察しても差し支えないということだ。

(参考)Transmission routes of 2019-nCoV and controls in dental practice ―International Journal of Oral Science

これを受けて歯科医師会も受付に掲示するフォーマットを作成している。これに加えアンケートなどの記入を求める歯科医院もあるようだ。程度の差はあれど診療受け入れの部分で、患者から歯科医院スタッフへの感染、患者から別の患者への感染を防ぐ第一関門を作っているということになる。

(参考)院内入口掲示用 ―日本歯科医師会

次に最もリスクの高い施術者の感染防御はどうか。

感染防御というと、ニュースで見られるような宇宙服のような防護服を想像する方も多いだろう。あの防護服は新型コロナウイルス発症者に対するものである。

厚労省による下記参考資料 問16にあるように、外来診察時はサージカルマスクとグローブの着用、手洗い等、一般的な感染防御体制が厚労省より示されている。

(参考)新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)―厚生労働省

これに加え歯科の特殊性として、施術者は至近距離からエアロゾルに暴露されるリスクがあるので、フェイスシールドやゴーグルの使用などといった対策は妥当だと考えられる。

また下記参考動画にあるように、歯科医院はそもそもスタンダードプリコーションという、全ての患者さんが何らかの感染症を持っていたとしても防御できるような体制が敷かれている。

スタンダードプリコーションは歯科大学、衛生士学校では必ず学習しているはずなので、今一度自分の勤務先で必要十分に実施されているか確認するのは望ましいことだろう。

歯科医院は、新型コロナ感染のリスクが高いのか?

もちろん新型コロナウイルスは新種なので、一般的なスタンダードプリコーションと、厚労省の示す基準で十分であるかという問いへの回答は、厳密には難しいところだ。しかし予防策はやろうと思えばいくらでも拡大でき、相応の予算がかかること、既にガウンやN95マスクなどは入手困難であるから、一定の線引きは必要である。

厚労省の発信は国内医療機関における線引きの参考とすべきで、歯科医院が実施すべき最小限の感染予防対策といって差し支えないと考えられる。

もちろんそれ以上の対応は望ましいこととは思うが、努力義務の範疇であろう。今後厚労省が見解を更新する可能性はあるので、その場合は可及的速やかに追随するというのが理想的ではないが妥当な対応であると考えられる。

3. 院長と十分な意見交換と意思統一を

今回の不安に関して、歯科医院経営者が特に対話が必要だと思われるのは歯科助手だ。

歯科助手は法的には専門性が必要ないため、高校生のアルバイトも採用可能だ。人材募集の観点からは一般飲食店やコンビニバイトと競合している。残業が少ない点や、医療機関への安心感、収入よりも日常生活とのバランスを重視する方々や、将来歯科関係への進学希望者らによって支えられている。

彼女/彼らの人間関係の中で、自分の友人たちの職場は次々と休業しているのに、自分の勤務先である歯科バイトは休業とならない。そんな中でテレビ番組やニュースサイトから、歯科医院の感染リスクが高いことを指摘されれば、日常業務に対し改めて強い恐怖心を覚えても不思議ではない。

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しかし前述のとおり、歯科医院自体は診療体制の縮小はあっても、休業というのが必ずしも最善とは言えないし、理想的な感染対策というのは実施したくても実現不可能である場合もあるだろう。

個人的な意見としては、緊急事態宣言の発令を一つの契機として、歯科医院経営者はどのような意図で診療を続ける、あるいは縮小するかに関してスタッフ全体と情報共有した上で、個別にスタッフの事情を鑑みて、どのような待遇とするかしっかり話し合うべきだと思う。

そのスタッフが歯科助手を生計としており、就業を続ける意思があるのであれば、医療スタッフとして正しい危機意識をもち感染防御が実践できるよう、レクチャーする必要があるかもしれない。

あるいは親と同居の学生バイトで収入減による影響が小さい場合、一定期間シフトから外れてもらうよう要請する場合もあるかもしれない。

これらの意思統一が円滑に進むかは、日頃の労使間の信頼関係次第と思われる。

まとめ

歯科は医科と比べて個人経営のクリニックが多い。クリニックは病院と比べて経営規模が小さいから、取れる手段が限られている場合も多い。

しかし規模が小さい分スタッフへの配慮は十分できるはずだ。リーダーとしての見解をしっかり発信し、不安を払拭し、業務に集中してもらうことも、感染防御対策の一要素であると言えるだろう。

もし自分が歯科医院スタッフであるならば、そうすべきではないかと、自己責任において上手く促してみるのはどうだろうか。

また歯科医療とは関係のない一般の方々に対して、多くの歯科医院が理想的とは言えないが、妥当な感染防御対策を実施できることが伝えられたと思う。これらの情報がいざ必要な場合に安心して歯科受診できる、一助となれば幸いだ。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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