安倍首相は「緊急事態ギャンブル」に敗れた

池田 信夫

安倍首相の4月7日の緊急事態宣言は、日本では珍しく数値目標と達成時期を明確にした政策だった。彼は記者会見で次のようにのべた。

東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります

これは反証可能な予測だが、現実の東京の実績はどうだろうか。

東洋経済オンラインの対数クローン

緊急事態宣言の2週間後の21日には、東京都の累計感染者数は3307人。3週間たった27日でも4000人に満たない。つまり2週間後に東京の感染者数が1万人になるという安倍首相の予測は反証されたのだ

ではこれが1ヶ月後の5月7日に8万人になるだろうか。東京都の感染者数の倍加時間(累計が2倍になる時間)は16日なので、このペースだと21日の約3300人が5月7日には6600人になるが、8万人には遠く及ばない。つまり1ヶ月後に8万人になるという予想も反証されることは確実である。

問題は「8割削減」だが、これも先日の記事で書いたように、4月7日の2週間後に緊急事態宣言の効果が出る前の4月12日に新規感染者数がピークアウトしており、その後も大きく下方屈折した形跡はない。緊急事態宣言を解除しても、感染爆発が起こる可能性はない。安倍首相は緊急事態宣言というギャンブルに負けたのだ。

感染拡大が抑えられているのは自粛の効果ではない

東京都の小池知事は政府に緊急事態宣言の延長を求めているが、全国の実効再生産数を求めたサイトでは、東京の実効再生産数は下から10位の0.38である。なぜ感染拡大が予想を大幅に下回っているのに、緊急事態宣言を延長するのか。

本質的な問題は医療資源だが、重症患者数も20日ごろピークアウトしており、東京都は軽症患者をホテルに移送して負担を軽減したので、これから医療が崩壊する心配はない。

最後の逃げ道は「自粛をやめたら感染爆発が起こって42万人死ぬ」という西浦モデルだが、上のようにこれにもとづく安倍首相の予言は大きく外れたので、あらためて検討する必要もない。理論とデータが合わないときは、理論を棄却するのが科学の鉄則である。

官邸YouTubeより

感染爆発すると思い込んでいる人の頭には、欧米の状況があると思われる。たしかに西欧のコロナ死亡率は日本の100倍以上だが、これを自粛で説明することはできない。自粛もロックダウンもしていない東アジアの死亡率も、日本と同じぐらい低いからだ。

東欧や南米も含めて低い死亡率を説明できるのは、今のところBCG仮説だけである。BCGで感染率の下がる効果ははっきりしないが、死亡率への効果は大きい。したがってこれは感染そのものより重症化を防ぐ「自然免疫」ではないかというのが、免疫学の専門家の推測である。

いずれにせよ確認できる科学的根拠による限り、現在までの日本のコロナ死亡率が低い原因は自粛のおかげではなく免疫の要因だと推定するのが合理的である。したがって5月7日以降も緊急事態宣言を延長する理由はない。