新型コロナ「失敗の本質」を結果論で考える

2020年05月25日 19:30

官邸サイト、FCCJ動画より

めでたく緊急事態宣言が解除された。アゴラの完全勝利だと思うが、いまだに「結果論だ」という人がいる。それが少なくとも私には当てはまらないことはアゴラの読者ならおわかりだろうが、マックス・ウェーバーもいったように、政治は結果責任である。ここに至るいくつかの節目を、あえて結果論で振り返ってみよう。

最初の大事件は、2月上旬のダイヤモンドプリンセスだった。それまでは武漢の対岸の火事だと思っていた新型コロナが日本でも発生し、世界的なニュースになった。このときコロナ対策本部や専門家会議が立ち上がった。

結果論でいえば、ダイヤモンドプリンセス以外の国内では、コロナはインフルエンザ未満の風邪だったのだが、そのときマスコミにたたかれたトラウマで、役所の過剰反応が始まった。

次の節目は、2月26日の安倍首相の記者会見だった。24日に発表された専門家会議の方針は「次の2週間が瀬戸際」という玉虫色の表現で、具体的な政策提言を出さなかったが、その2日後に首相は「一斉休校の要請」という強硬策を打ち出したのだ。これが自粛の始まりだった。

それに反対して私は、3月7日に「新型コロナの「緊急事態宣言」は必要ない」という記事を書いた。その理由は簡単である。当時は武漢の感染がピークアウトし、イタリアで感染爆発が始まっていたが、日本の死者は6人で重症患者も30人しかいなかったからだ。

世界に影響を与えた「51万人死ぬ」報告書

ところがヨーロッパの感染はイタリアからフランス、スペイン、ドイツ、イギリスへとへと拡大した。そういう中で3月16日に出たのが、ニール・ファーガソンなどの書いたインペリアルカレッジの報告書だった。

インペリアルカレッジの報告書より

ここでは「何もしないとイギリスで51万人、アメリカでは220万人死ぬ」という衝撃的な数字が出て、ボリス・ジョンソン首相の「集団免疫戦略」が批判を浴び、イギリス政府は方針を転換した。

世界中がパニックになる中で、日本の感染も3月中旬から「第二波」が見えてきた。このとき3月19日の専門家会議で危機を訴えたのが、西浦博氏だった。彼は「基本再生産数Roが欧州(ドイツ並み)のRo=2.5 程度であるとすると、最終的に人口の 79.9%が感染すると考えられます」と書いている。

これはファーガソンの計算と同じく集団免疫理論を日本に適用したものだ。人口の約80%にあたる1億人が感染し、そのうち60万人以上が重症患者になると、人工呼吸器は1.5万台しかないので40万人ぐらい死ぬだろう。

ところがこの死者の数字を厚労省がいやがったので、専門家会議では「オーバーシュート」という和製英語で抽象的に表現しただけに終わった。そのあと西浦氏はマスコミに頻繁に出るようになり、日経新聞に「東京の感染者が1万人になる」というシミュレーションを売り込んだ。

これが4月7日の「東京の感染者が1ヶ月後には8万人になる」という安倍首相の緊急事態宣言の根拠になった。このとき私は重症患者数は減ってきているというデータをもとに、それが爆発する兆候はないと指摘した。結果論でいうと、1ヶ月後の5月7日の感染者数は4894人。8万人という数字は大幅な過大評価だった。

4月7日現在の新規感染者数(東洋経済オンライン)

それでも4月7日の段階では、やむをえない面があった。この図は4月7日までの新規感染者数のデータを切り取ったものだが、毎週2倍ぐらいのスピードで増えており、感染爆発する可能性も否定できない。安倍首相が西浦氏の予言を信じたのも理解できるが、実はこのときすでに感染は(発症日ベースでは)ピークアウトしていた。

なぜ100倍の差がついたのか

しかしこのデータをよく見ると、日本の新規感染者は約500人、毎日の死者は数人である。このころイタリアの死者は約2万人、死亡率は300人(100万人あたり)だったが、日本は0.6人。死亡率が500倍違うのだ。それが100倍になってもアメリカぐらいである。次の図は4月9日の記事の対数グラフだが、線形で表示すると日本は横軸に埋もれて見えない。

4月9日現在の死亡率(人口100万人あたり)札幌医科大学

ここまでは当時の心理としてわからなくもないが、まったくわからないのは4月15日になって出てきた何もしないと42万人死ぬという予測である。これは今に至るも中身が不明だが、3月19日の「オーバーシュート」のようなものだろう。イギリスでもファーガソンの報告書は、被害の過大評価で無用なロックダウンを正当化したと批判されている。

そして最悪だったのは、5月7日に緊急事態宣言を延長したことだ。このときは3月末にピークアウトしたことが明らかだったのに安倍首相は決断せず、「新しい生活様式」を提案した。

同じような政府の迷走は北米や西欧でもみられたが、あっちは何万人も死者が出ている状況で、日本とは問題のスケールが違う。日本は死者820人というインフルより軽微な風邪で、ここまで大きな経済被害を出す必要はなかったのだ。

なぜ日本と西欧で死亡率に100倍以上の差がついたのか。これがコアの問題である。専門家会議の尾身副座長も答えることができないが、それを追究して失敗を繰り返さないことが政府と専門家の責任である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長(学術博士)

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