次亜塩素酸水を感染症対策にカウントしてはならない

2020年05月31日 06:00

感染予防のための消毒液がアルコール製品を中心に不足する中、再びいや「またも」注目を集めている機能水… 次亜塩素酸水ですが、この度ようやく政府公式見解等が整ってきました。

kscz58ynk/写真AC:編集部

昨今特に懸念されるのは、大規模イベント会場、あるいは再開の始まった学校などでの感染対策として、大規模かつ公共の場で採用される動きがあることです。

今回発表されたファクトシートでは「消毒剤を人体に噴霧することはいかなる状況であっても推奨されない。肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない」といった考えが示されています。

(参考)「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート)ー経済産業省(2020年5月29日)

(参考)「次亜塩素酸水」現時点では有効性は確認されず NITEが公表ーNHK(2020年5月29日)

1.商業的成功をくりかえす「水」商品

冒頭「またも」と表現しましたが、次亜塩素酸水に医学的な効果が期待できないにも関わらず商業的に成功してきたのを見るのは、歯医者… 特に歯周病の専門家であれば、一度や二度ではないからです。

そのうち商品名パーフェクトペリオ(主成分:次亜塩素酸水)に関しては、歯周病学会が2010年5月13日に発行したポジションペーパーで有効性が確認できていないという結論となっています。同様の主成分の商品は数多く存在し、「電解水」「イオン水」などと様々に名称を変え、いずれも一時的に商業的な成功を収め、医学的な効果が証明されないままブームが去り、忘れ去られていくということが繰り返されてきました。

噴霧による空間除菌に関してもまた、有効性・安全性ともに証明されていないことが以前から分かっています。

(参考)低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御 ―環境感染誌(2017年)

2.科学論法の「確認されていない」に期待してはならない

前述した科学系の政府・学術発表において、いずれも「十分に証明されていない」あるいは「確認されていない」という表現が多く見られます。

こういう表現は一般人にとって「もしかしたら効果があるのかもしれない」と感じるかもしれません。ネット上で散見されるのは「効果がわずかでもあるのなら試す価値がある」という声です。

しかし科学論法での「確認されていない」は、一般人は「効果がない」と読み替えるべきです。

FineGraphics/写真AC:編集部

その理由としては、統計学上「有意差がある」という証明はできても、「効果がない」あるいは「有意差がない」という証明は困難だからです。これは「悪魔の証明」「消極的事実の証明」と言われます。

科学の世界では一般的に効果がないことを証明しても論文にならないので、科学者は効果があったことだけを論文にします。これを「公表バイアス」といいます。ゆえに非常にわずかな効果でも確認できたならば論文化するので、論文がないというのはよほど効果がないという裏付けと考えてよいでしょう。なお、動物実験や細胞実験はヒトを対象とした薬理効果のエビデンスに含みません。

このように有効性・安全性共に確認されていない以上、もしかしたら有効性があるかもしれないと考えるならば、もしかしたら小さな子供や高齢者への健康被害もあるかもしれない、と考えるのがフェアではないでしょうか。

3.超重要!次亜塩素酸ナトリウムは別物で危険!

今回の記事で最も重要なのは、「次亜塩素酸水」と「次亜塩素酸ナトリウム」を混同してはならないということです。

次亜塩素酸水の消毒効果が物足りないことは、これまで述べてきました。しかしごく稀に「ではもっと消毒効果の高いものを使おう」という発想で、似たような名称である「次亜塩素酸ナトリウム」を使用する、空間に噴霧するといったことが起こっていると聞いています。

これは大変危険な行為です。

次亜塩素酸水が毒にも薬にもならないものだとして、次亜塩素酸ナトリウムは全く別物と考えるべきです。

次亜塩素酸ナトリウムもまた我々歯医者は治療でよく使用するのでなじみ深い薬剤ではありますが、その用途は蛋白質融解剤としてです。商品としてはハイターやカビキラーが有名で、目に入ると失明する可能性があります。その希釈液や混合物に関して人体にどのような影響があるかは、全くの未知で、危険性が高いです。

(参考)次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの概念的相違 ―機能水研究振興財団(2020年5月22日)

まとめ:次亜塩素酸水の噴霧を感染症対策に含めず、有効な手段を選ぶこと

今般見られるのは、感染症が恐ろしいあまり、「何かを購入すれば免れることができるのではないか」という安易な発想です。

これは次亜塩素酸水の噴霧装置だけでなく、全国民を対象にしたPCR検査という全く無駄な政策案にもみられる心理的背景です。(拙稿:「コロナ陰性証明書」は最も危険な感染源になる

科学的に効果が証明されているものを購入し、使用することで安心感を得るというのが正しい順序です。使用することで安心感を得るために、科学的に効果が明らかでないものを購入する、というのは理屈が逆転してしまっており、無意味な浪費です。

今後外出自粛が解除されていく中、大規模イベント会場や学校などの公共の場における感染症対策として、科学的に証明されているものを採用する必要があります。

それは手洗いすることや換気すること、マスクの適切な使用など、想像に反して地味なことかもしれませんね。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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