アヘン戦争が生んだ香港は民主主義の象徴ではない

2020年06月05日 11:30

暗雲漂う香港(johnlsl/flickr)

中国政府が香港の自治への関与につながる「香港国家安全法」を制定したことについて、香港市民は猛反発し、欧米もこれを強く支援している。それに対して日本政府はもうひとつ熱が入らないとリベラル派も保守派も批判している。

しかし、私はこの問題について日本は欧米と同じ立場にはあるべきでないと思う。

香港の歴史の真実

そもそも、香港はアヘン戦争の結果として1842年の南京条約でイギリスに譲渡された。さらに、1860年に九龍半島が割譲、1898年には新界が99年の期限で租借された。そして、1897年にそれがやってきたのだが、香港の都市機能がこの新界なしでは維持できないので、イギリスは中国に香港、九竜も含めて返還した。

アヘン戦争(Wikipedia)

本来であれば香港は戦後、ただちに中国に返還されるべきものだった。日本が台湾を返還し、関東州の租借地を期限前に返還したのと同じである。実際、よく似た位置のゴアをインドは武力解放している。しかし、中国はこれをすぐには強行しなかったのは、イギリスとの持ちつ持たれつもあったが、どうせ1997年に戻ってくるということもあった。

そして、1984年に鄧小平とサッチャーの交渉で中国は返還をサッチャーに呑ませほとんど妥協しなかった。サッチャーが完敗だったと言われる所以だ。すぐに完全併合すれば経済的損失が大きいから一国二制度としたが、これは別にイギリスとの妥協ということでなく中国にとってその方が得だからそうしただけだ。

イギリス統治下の香港に民主主義はなかった

イギリス統治下で香港の住民は、市民権も与えられず、イギリス本国での参政権もなく、移住も自由でなく、香港の運営でも完全な自治を認められている訳でもない状態だったのである。それをよしとしていた香港市民に民主主義を語る資格は限定されたものである。

そのあたりは、フランスの「植民地」といわれる所の住民は完全なフランス市民権をもち大統領選挙に投票し、国会に議員を送り、自治も制限されていないのと根本的に違うのだ。なぜ香港の人たちはそれをイギリスに要求しなかったのかこそ聞きたい。

とはいえ、一国二制度を維持することは、イギリスとの約束なのだから、誠実に履行すべきである。また、現在、香港の住民が享受している市民的自由が後退することは好ましくない。

本当に必要なのは中国の民主化だが、中国人は民主化など望んでない

そもそも、香港が返還されたときには、中国の方が民主化されて一国二制度は解消されるのでないかと期待されていたくらいで、香港の一国二制度が守られないのが問題なのでなく、中国の民主化が進まないのが本当の問題だというべきかもしれない。

Altman/flickr

しかし、残念ながら中国人はさほど強く民主主義など望んでいない。なにしろ、ここ40年間、中国共産党の政府は世界でもっとも国民を豊かにした政府なのだ。それに対して、欧米もそうだが、日本など世界主要国で最低の経済成長しかしていないのだから、民主主義とか言論の自由は国民を豊かにしないことが証明されてしまっている。

中国人から「朝日新聞のような悪意に満ちた攻撃を政府に対して行って国民のために正しい政策をすることを邪魔する自由をうらやましいと中国人は思いません」と言われたら二の句がつけない。

そういう意味でいえば、中国の民主化を妨げている最大の元凶のひとつは、日本の偽リベラル勢力なのかもしれない。

それから、中国人は香港のことを決してよく思っていない。帝国主義の走狗であり、特権的な優遇制度のもとで自分たちよりいい生活をし、しかも、太子党など中国の問題勢力の悪の温床になっているものにいい感情などあるはずがない。

香港にはソフト・ハードのインフラがあるから、それを活用したほうが、有利だから現状でいいが、余り不満があるなら、深圳などをいつでも代わりにすればいいと思っている。

日本人でも幕末以来、アヘン戦争を帝国主義の最悪の横暴ととらえ、第二次世界大戦ではこれを解放したはずなのであるから、香港の自由のために日本が戦うのも歴史的な経緯としてはずいぶんとおかしな話になる。

ただし、欧米との協調は大事だし、先に書いたように、本当の問題は香港でなく、中国の民主化の遅れなのであるから、香港を将来の民主化の実験場として生かしていくように中国政府に進言するのはいいことだと思う。しかし、上記のような香港をめぐる歴史を無視したような肩入れは私は疑問だと思う。

「香港市民に英国市民権を」ジョンソン首相は中国の思うつぼ

ジョンソン氏Facebookより

きのう(4日)の日経新聞によると、イギリスのジョンソン首相が、「3日付の英紙タイムズに寄稿し、中国政府が香港の自治への関与につながる「香港国家安全法」を撤回しない場合、香港住民の最大285万人を対象に英国での市民権取得に道を開く意向を示した。香港の自治の崩壊に備えて住民を広く受け入れる姿勢を強調し、国家安全法に抗議する姿勢を明確にした」そうだが、これもおかしなことだ。

1997年に英国が香港を中国に返還する前に発行していた英国海外市民(BNO)旅券を持つ香港人が最長1年間、英国に滞在できるようにする方針を示し、現行の6カ月から延ばして、英国での就学や就職の機会を増やして市民権取得につなげるという。

上記のように、フランスの「植民地」の住民はフランス市民権があって大統領選挙に投票し、国会に代表も遅れるし本土にも住める。イギリスはそうでなくあくまでもいわばと同じ人間として扱ってこなかった。

それをフランスの植民地人に少しだけ近づけようということらしい。選挙権は与え角だろうか?フランスは外国に住むフランス人には、かつて植民地だった海外領土だけでなく、外国に住むフランス人の選挙区をつくって海外居住者の選挙区があるくらいだが、イギリスもすればいい。

それにジョンソンの動きは中国にとって大歓迎かもしれない。中国の特色ある社会主義が嫌な人を一括して引き取ってくれるとしたら結構なことだ。しかも、英国民のなかに華人の割合を増やすことになる。285万人と言えば英国民の数パーセントになるわけで、ひとつの政治勢力になるし、工作員もたくさん送り込める。

北京政府にとって願ったり叶ったりであって、ジョンソンは本当にどうかしている。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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