大橋 眞(医学博士/徳島大学名誉教授)
コロナ騒動の主な要因として、新型コロナウイルスの本態が掴めていないということがある。新型コロナウイルスに関する情報は、新型コロナウイルスのゲノム遺伝子を、世界で初めて発表した中国の論文 1) に始まる。
しかしながら、この論文では新型コロナウイルスを分離したわけではなく、肺の抽出液という多様な微生物や、体細胞に由来する遺伝子の混合物から直接ショットガンという方法で3万塩基対近くのゲノム遺伝子を決めるという方法である。
はたして、このような方法で決定した遺伝子配列に問題はないのだろうか。これに関しては十分な検証はなされていない。それに関わらず、この配列を全面的に信頼する形で、PCR反応を行い新型コロナウイルスの診断に用いているわけである。
そもそもコロナウイルスは、私たちの体の中だけでなく、動物の体内などにも無数といっても良いほど存在している。よほど病原性が強いとか、特別の理由がない限り、これまで注目されてこなかっただけである。新型コロナウイルスの診断に用いているPCR検査は、このような身の回りにありふれたコロナウイルスの遺伝子を検出することはないのだろうか。これに関して、何の情報もない。だれも調べていないのである。
新しいとされる病原体の検出するための検査法の確立には、既存の微生物と鑑別ができるのかということが必須である。鑑別出来ない検査法であれば、その点を細心の注意を払って使うことはあるが、今回の場合は、鑑別ができるのかという情報すらないのである。
病原微生物の検査法の必須条件である鑑別診断ができるのかという情報がないままに、PCR検査が広く行われつつあるのは、一体何を意味するのであろうか。なぜこのようなことが起こっているのであろうか?その一因として、「新型」というネーミングにあると思われる。
ここでいう新型とは、米国遺伝子バンクGRNBANKに登録されている主要な6種のコロナウイルスとは異なる遺伝子配列を持っているという意味で、新型なのであり、これまでこの世に存在しなかったという意味ではない。そのために、既知の遺伝子をもつコロナウイルスとの鑑別だけが問題となり、一般に存在するコロナウイルスとの鑑別診断の問題が曖昧にされたのである。
つまり、今回の新型コロナウイルス感染者の同定に使われているPCR検査は、単に常在ウイルスであるコロナウイルスを検出している可能性がある。そもそも肺胞で増殖する微生物には、日和見感染を起こす常在性のものが多い。風邪・インフルなどにより免疫力が弱まった結果として、増殖した常在ウイルスを検出しているのに過ぎないかも知れないのである。中国で決定されたゲノム遺伝子が、常在ウイルス遺伝子とはっきり区別できるという検討を欠かすことができない。
一般に、新しい検査法を導入するときには、このような問題点を慎重に検討する必要があることは常識である。しかし、今回は緊急ということで、この基本的なステップが省略された。もし、今回のPCR検査が常在ウイルスを検出していれば、極端には日本人全員を感染者として同定してしまうことになりかねない。
今回のコロナ騒動では、大きな経済的損失だけでなく、学童の教育機会を奪うことになった。このようなことを二度と起こさないために、正確な感染者の同定ができるような検査法の見直しが急務である。中国の論文の遺伝子情報の見直しも必須である。これによって、無駄なワクチン等の開発も不要となり、無駄な国費の出費を減らすことに貢献することが期待出来よう。
参考文献
1) Nature 579:265 (2020)
大橋 眞(おおはし・まこと)医学博士、徳島大学名誉教授、モンゴル国立医科大学客員教授
専門は感染症、免疫学。マラリア・住血吸虫症などの感染症をモデルとした免疫病理学や診断法開発、自己免疫疾患に対するワクチン研究を専門としながら、市民参加の対話型大学教養教育モデルを研究してきた。開発途上国における医療の課題解決にも取り組んでいる。