何だったのか?東京アラート

2020年06月14日 06:00

東京アラートはわずか9日間で幕を閉じた。

東京都防災ツイッターより

発令前日のコロナ陽性患者数は34名、しばらく二桁の患者数が続き、発令翌日は25名。確かに、都庁やレインボーブリッジは赤色に照明されていたが、特に何かを要請するわけでもなく、電車の混雑はそのまま、解除されていないはずの夜の街で感染が広がっている。しかし、PCR検査体制が整備されたからといって、ホストに検査受診を呼びかけるのは納得がいかない。症状があっても受けられなかったことを考えると、あまりにもご都合主義だ。 

感染症対策の大原則「検査と隔離」を無視した現実に対する反省が必要だ。今後、海外からの入国を受け入れるためのルール作りが急がれるが、空港での検疫体制整備、特に短時間でのPCR検査体制確立が不可欠だ。PCR検査だけでなく、多くの面で、日本のアナログ化が明らかになった。ITAI・ゲノム(遺伝子)医療などのガラパゴス化が顕在化したのだ。

そして、対策に当たっている人たちの知識もカビの生えたようなものだ。厚生労働省の幹部が、「擬陽性」の方が隔離されるのは問題なので、PCR検査を増やすのは問題であったとコメントしていたが、二つの点で間違いがある。

ひとつは、「擬陽性」は大半が人の操作エラーによっておこるので、一定の注意を払えば防ぐことができる。何を調べるかによって、擬陽性の発生頻度は異なるが、今回のような診断のケースでは、しっかりと注意点さえ理解していれば、防ぐことができるし、機械化すればもっと最小限化できる。

私は、1985年にソルトレークシティーで開催された米国人類遺伝学会の会場で照明係をしていた時に、世界で初のPCR法の発表を偶然に目に、耳にした。単純な方法だったが、遺伝子研究の世界を一変した。発表者に実験手順書をお願いしていただいて、論文が公表される前からPCR法に取り組んだ。以来、30年以上PCR法を利用しているので、問題点も熟知している。この幹部の発言はかなり世界から取り残されている。日本がPCR検査数を増やさなかった正当な理由にはなりえない。

二つ目は、「擬陽性者」が隔離されるのは問題がないとは言えないが、症状もなく、その後の検査で陰性になれば隔離は解除される。感染を広げないという観点では致し方ないと思う。ヨーロッパやニューヨークのような、強力な感染力と毒性を示す被害状況であれば、日本も大惨事になっていたはずだ。

日本は感染大爆発は免れたし、死者数は少ない(繰り返しになるが、感染陽性と診断された方の死亡率は5.3%と比較的高く、アジア諸国の中ではかなり高い数字となっている)。例えは悪いかもしれないが、4月の初めに、「車に追突して大惨事になると身構えた」が、「目の前の車が突然消失して、衝突を免れた」ような感じだった。

しかし、ヨーロッパの多くの国では死亡率は10%を超えており、感染者数、死亡者数は一桁以上多い。米国では感染者数が200万人を超え、死者数は115,000人を超えている。4月の緊急事態宣言は、最悪を想定した備え・危機管理という観点では、妥当であったと思う。

緊急事態宣言発出は間違っていたという人は、発出しないで大惨事になっていれば、逆の文句を言っていたであろう。後から振り返って文句を言うのは簡単だ。危機管理には最悪を想定した対応が必要だ。今、日本における新型コロナウイルス感染症について分かった事実をもとに、過去の判断を批判するのは正しくない。ただし、PCR検査体制が整備されず、実態がリアルタイムで把握されていなかった事実は、大きな課題を残したと思う。

日本の医療の質を考えると、実際の感染者数は一桁以上多く、感染者の死亡率が一桁以上少ないと考えると腑に落ちるが、実態を掴んでいなかったので、抗体検査の結果から推測するしかない。抗体陽性者数が、0.6%-数%と報告されているが、前者であっても死亡率は1%未満、後者であれば0.1%未満になるかもしれない。地域差があるので、発表を待ちたいが、これらの結果は、第2波が来た時の行動制限の在り方には影響するはずだ。

また、年齢別に重症者や死亡者の割合を見ると、50歳代以下には、インフルエンザと同じような対応でいいかもしれない(ただし、特効薬はないが)。60歳代以上は感染機会を減らす努力をして、何か症状があれば、すぐにPCR検査と、必要ならば入院治療を提供すればいい。レムデシベルは効果があるかもしれないというデータが、今週も報告されていた。

しかし、行動制限を続けた場合の大きな問題は、高齢者が閉じこもり、医療機関を避けて、慢性疾患が悪化することだ。私も運動ができない状況で、血糖値が上がってしまった。運動能力が低下して、要介護人口が急増するリスクもある。がん検診も手控えられているようで、進行がんの割合が増えるかもしれない。

もちろん、医療機関の経済的環境の悪化も要注意である。医療環境が激変しているが、このコロナ環境下に応じた医療供給体制の見直しが急務だ。医療分野でのAI化やデジタル化が進めば将来の医療につなげることができる

そして、今何よりも大事なのが、日本人やアジア人が、欧米人よりもこのコロナ感染症に強い理由を明らかにすることであり、今後の感染症対策のカギを握るはずだ。疫学的調査に加え、ウイルスのゲノム解析、無症状者・軽症者と重症者・死者のゲノムや免疫関係遺伝子の比較、サイトカイン暴走時の免疫因子などの科学的・医学的な解析をして、それに基づいた対策を取らなければ、日本の経済を救うことはできない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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