東京で新規感染者が50人を超え、新型コロナの「第二波」が話題を呼んでいる。中でも突出して恐怖をあおっているのが日本経済新聞だ。きのうの記事では、「病床不足、最大6.5万床の恐れ 感染第2波への備えに不安」と書いている。
現状では3万138人分のベッドが確保できる予定だが、それでは「ピーク時には各都道府県の単純合計で最大9万5千人が入院する。現状のままでは6万5千人分が不足する計算だ」というが、これは一体どういう計算なのか。
この数字だけ見てもどう計算したのかわからないが、これは6月19日の専門家会議の資料1に掲載されている「新型コロナウイルス感染症の医療提供体制確保のための新たな流行シナリオ」である。
ここで「最大の場合」と書いてあるのは「高齢者群中心モデル」で、実効再生産数Rt=2.0で介入が7日遅れた場合、「標準的な想定」と書いてあるのは、同じく高齢者群でRt=1.7で3日遅れた場合だ(全国合計は書いてない)。
確保を見込む3万床のうち4100床は重症者向けだが、第2波で「重症者の入院は最大で1万3千人に達する可能性」があるという。ところが同じ記事で「入院患者数は全国で559人と、現状では余裕がある」と書いてる。
ここまで読むと、おかしいと思う人が多いだろう。いま入院患者が559人しかいないのに、第2波で1.3万人が重症になるとは、どういう計算なのか。そもそも新型コロナの感染者は半年の累計で約1.8万人しかいないのに、なぜ9.5万人も入院患者が発生するのか?
8割おじさんの誇大妄想を受け売りする厚労省と日経
その謎は、これを計算した人を見ればわかる。日本医療研究開発機構(研究開発代表者:西浦博)。あの8割おじさんが、厚労省の補助金で計算したシナリオなのだ。
これは彼が「42万人死ぬ」と予想したときとほぼ同じ人口の100%が感染可能で、同じ感染率で全国民に感染させると想定したシナリオだ。そのときは基本再生産数Roを2.5と想定して批判を浴びたので2.0に修正したが、いまだに自然免疫も「ファクターX」も無視している。
Ro=2.0なら人口の半分(6300万人)が感染するので、9.5万人ぐらい入院するだろう。問題は、そういう西浦モデルが数百倍の過大評価だったことだ。彼はいまだに接触制限で感染が大幅に減ると信じているようだが、緊急事態宣言でRtは下がらなかった。
今回は西浦氏もこりたのか、全国合計を書かないなど小細工をしているが、集計したら荒唐無稽なシナリオであることは明らかだ。厚労省にとっては病院整備に予算がつくので「9.5万人シナリオ」は歓迎だろうが、都道府県がこの通り予算をつけたら、莫大な医療資源の浪費になる。
日経はこれまでも一貫して無署名記事で「東京で8万人感染する」とか「全国で42万人死ぬ」とか誇大な数字を出してきたが、これは社の方針なのか。経済紙の数字が信用できなくなったら、何の存在価値もない。