レムデシビルは25万円分の効果があるか

2020年07月02日 06:00

レムデシビルの開発会社ギリアド・サイエンシズの公式サイトより

全世界から期待されていた新型コロナウィルス治療薬レムデシビルの薬価が、開発元の米ギリアド・サイエンシズから発表されました。

360ドル/1バイアルで、1回の治療でかかる費用は6バイアル5日分として2340ドル、日本円にして約25万円となったようです。

(参考)新型コロナ治療薬レムデシビルの価格、1回分の治療で25万円に − ニューズウィーク日本版 2020年6月30日

この価格決定に際しては米NPO 臨床経済的評価研究所(ICER)などと激しい綱引きが行われてきましたが、ギリアド社が世論に配慮して大幅に譲歩したように見えます。

しかし現在分かっているレムデシビルの効果は、新型コロナウィルスの世界的流行という背景を鑑みても、価格に見合うだけのものがあるのでしょうか。

1. レムデシビルが治験で示した効果

現在レムデシビルの治験で最もフェアに行われたとみられているのが、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導で行われた臨床第3相試験です。

(参考)NIH Clinical Trial Shows Remdesivir Accelerates Recovery from Advanced COVID-19 ―NIAID(2020年4月29日)

この実験は、中等度から重症の新型コロナウィルス入院患者1063名に対するランダム化比較試験として2020年2月21日から開始されました。

結果としては治癒までの日数の中央値が偽薬群では15日だったのに比べ、レムデシベル群では11日と約3割程度の有意に短縮(p<0.001)したとあります。

一方で死亡率は偽薬群で11.6%、レムデシベル群では8.9%で有意差はなかった(p=0.059)とあります。

つまり最も重要な指標である死亡率に関しては3.6%の改善効果であり、統計学的な効果の証明はできなかったというのが現状です。この効果に対して25万円というのは、十分に議論されるべきことかと思います。

現在レムデシベルの研究は、より手軽に摂取できる吸入薬や、抗リウマチ薬との併用に関して研究が続けられています。

2. 高騰する薬価と、治療可能になった疾患

過去にも高額で話題になった薬剤はあります。

レムデシビルの開発元であるギリアド社は、C型肝炎治療薬 ソバルディを2014年に開発しましたが、当初1錠1000ドルもの高値での販売となり大きな批判を受けました。

現在日本では薬価が下落し、1錠4万2000円、3か月間使用し続けて約350万円が1回の治療にかかる値段です。(補助金等により患者負担分はごく一部)
しかしC型肝炎は私が学生だった2000年代では治癒が困難で、肝臓癌につながる病気として学びました。

高額であっても難病をほぼ100%、副作用も非常に少なく治すことができるようになったのは、価値があることだと思います。

ソバルディもレムデシビルも莫大な開発費がかかっています。その投資に見合う収益が無ければ、極端に言うと新しい薬を開発することができなくなってしまうでしょう。

3. 薬価に対する意識を持たなくては

それでも米国では薬価に対する風当たりは強いです。レムデシビルの薬価をかなり控えめにした背景には、ギリアド社がソバルディで目の当たりにした強い批判を、リスクと捉えたためと考えられます。

写真AC

一方日本では保険制度と補助金で患者負担のほとんどが軽減されるので、話題になることが少ない、あるいは他人事のように感じているのではないでしょうか。

自分自身で払わなかった分の医療費は国が負担しています。社会保険料では足りず、税金を費やしてもなお足りず、赤字国債発行によって医療費の支払いは続いています。このままで皆保険制度が維持できるか、見通しは厳しいのではないかと考えています。

我々医療人も「命とお金を天秤にかけるのか」と言われると口を閉じざるをえないのですが、世の中には新型コロナウィルス以外の様々な疾患があり、皆保険制度は国内の医療体制の大部分を支えています。

そうであれば既に赤字である皆保険制度に、どの程度レムデシビルを組み込むかという議論は慎重にされるべきではないでしょうか。

まとめ

例えば研究中ではありますが、レムデシビルを吸引薬とすれば軽症者に対し早期に適用することが可能で、既に有意差が明らかになっている罹患日数短縮効果を最大限活かせる可能性があります。しかし一方でこのような使用頻度の高い方法だと、それだけ財政負担は大きくなるでしょう。

仮にレムデシビルを幅広く使用したとしても、無自覚な無症状者は医療機関に行くことがないので、市中感染のリスクをゼロにはできません。

また、死亡率を数%低下させる可能性がありますが、死亡者の8割が70才以上となっているなかでは、「多少寿命を延ばす、有意な差が見られない程度の、わずかな可能性がある」といった使用法になってしまうのではないでしょうか。このような条件もふまえ、1件25万円の高額となる薬剤をどの程度保険適応をしていくべきか、という部分は考える必要があると思います。

私の記事では繰り返しになりますが「有意差がない」というのは科学者的なお行儀のよい言い回しで、誤解を恐れずに言うと一般報道や政策決定の場面では「ほとんど効果がない」くらいにとらえて丁度よいのではと考えています。今回は被検者数をもう少し増やせば有意差に到達しそうではありますが…。少なくとも大きな効果がある、ということはできないでしょう。

「安心安全」はお金をかけずとも、科学的に正しい知識の地道な普及で実現できます。安易に新薬に頼ることなく、科学に基づいた冷静な議論が進むことを期待しています。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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