コロナ対策の決め手は「指定感染症」の解除

「国民全員PCR検査」を提言して批判を浴びた小林慶一郎氏が、同じく政府のコロナ対策分科会のメンバーになった大竹文雄氏とともに、東洋経済オンラインで「重症ベッドを増設せよ」と提言している。

今年4~5月の自粛と休業によって年間で日本の経済成長率はおおよそ5%程度低下したと考えられる。[…]これから病床が逼迫して、緊急事態宣言の再発出という事態になれば、4~5月のように経済活動が萎縮し、10兆円規模の経済損失が発生することになる。

この10兆円の経済損失を防ぐために、1兆円かけて重症ベッドを増やしても元がとれるというのだが、この計算はあやしい。

次の表はコロナ患者の病床占有率だが、たしかに全国では33%、東京では50%を超え、沖縄では100%を超えてパニックになっている。しかしこれは一般患者数であり、重症患者は全国で162人しかいない。集中治療室をそなえたICUベッドは約1万7000床あるので、不足することは考えられない。


コロナ患者の対策病床占有率(新型コロナウイルス対策ダッシュボードより)

問題は重症患者ではなく、軽症・無症状の検査陽性者がベッドを占有していることだ。その原因は、症状がなくても指定感染症の患者は入院が必要だからだ。しかも患者を扱えるのは、大病院などの感染症指定医療機関に限られる。上の表の分母(4万1345床)は、指定医療機関のベッド数である。

日本は人口あたりベッド数の世界一多い国であり、全国に165万床もある。ボトルネックを解消するには「重症ベッド」を増やす必要はない。政令を改正して指定感染症の指定を解除すればいいのだ

今はコロナは感染症法の2類相当の扱いになっているが、インフルエンザと同じ5類にすれば一般病院でも収容できる。病院のベッドはガラガラで経営危機に瀕しており、その経営再建策にもなる。

経済の回復には恐怖を取り除く必要がある

指定解除に反対する人は「感染が拡大しているとき解除すると対策がとれない」というが、それは逆である。指定感染症は致死率の高い感染症を指定医療機関で隔離する制度であり、コロナのように何万人も軽症患者のいる病気には指定医療機関だけでは対応できないのだ。

致死率も高くない。7月のコロナ検査陽性者数1万7242人のうち、死亡したのは36人。致死率は0.2%で、インフルの0.1%とほとんど変わらない。

コロナは医療スタッフがワクチンで予防できないので院内感染のリスクが大きいが、それを防ぐ設備投資を公費で支援すればいい。大部分は軽症・無症状なので、その規模は大竹・小林論文の提言する1兆円の重症ベッド補助金よりはるかに安くすむ。

「経済が回復すればGDPが10兆円増えて元がとれる」という彼らの計算は、捕らぬ狸の皮算用だ。こんなバラマキで経済がV字回復する保証はどこにもない。

経済が回復しない最大の原因は、コロナが「死の病」だという人々の恐怖にある。それをなくすには過剰な自粛をやめ、コロナをインフル並みに格下げする必要がある。そのために政府のとれる決め手が、指定感染症の解除である。

これはコロナ対策の大転換なので、官僚にはできないだろう。そういうとき今までの経緯にとらわれないで、偏在している医療資源を効率的に再配分する方法を考えるのが経済学者の仕事である。