菅さんの自助共助公助とは?

千正 康裕

菅氏総裁選パンフレットより:編集部

1. 菅さんの理念「自助・共助・公助」

5日、菅官房長官のブログに、「自民党総裁選挙:政策発表」というエントリーが出ました。

自民党総裁選挙:政策発表(意志あれば道あり:衆議院議員すが義偉オフィシャルブログ)

これを受けてメディアでも「自助・共助・公助を掲げる」と報じられました。

菅氏、総裁選の政策発表 「自助・共助・公助」を掲げる(朝日新聞デジタル)

さて、この「自助・共助・公助」という言葉、皆さんは聞いたことがあるでしょうか?

菅さんは、テレビでは以下のように説明しています。

自分でできることは基本的には自分でやる、自分ができなくなったら家族とかあるいは地域で協力してもらう、それできなかったら必ず国が守ってくれる。そういう信頼をされる国、そうした国づくりというものを進めていきたい」(9月4日のTBS:NEWS23より)

この考え方、実は、僕にはとても耳になじみのある言葉です。防災や社会保障でよく言われるものだからです。

以下に詳しく見ていきましょう。

2.「自助・公助・共助」の理念(防災)

例えば、内閣府の防災白書(平成30年版)には以下のように記載されています。

現在想定されている南海トラフ地震のような広域的な大規模災害が発生した場合には、公助の限界についての懸念も指摘されている。事実、阪神・淡路大震災では、7割弱が家族も含む「自助」、3割が隣人等の「共助」により救出されており、「公助」である救助隊による救出は数%に過ぎなかったという調査結果がある(図表1-1-1)。今後、人口減少により過疎化が進み、自主防災組織や消防団も減少傾向にあるなか、災害を「他人事」ではなく「自分事」として捉え、国民一人一人が減災意識を高め、具体的な行動を起こすことが重要である。(参考)内閣府防災白書(平成30年版)

3.「自助・公助・共助」の理念(社会保障)

また、この「自助・共助・公助」というのは、戦後のわが国の社会保障の基本理念です。

1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会が内閣総理大臣に提出した「社会保障制度に関する勧告」、1995年(平成7年)の同審議会の「社会保障体制の再構築に関する勧告」、2006年(平成18年)の社会保障の在り方に関する懇談会最終報告書「今後の社会保障の在り方について」でも継承されています。

■ 2006年の報告書より

1 社会保障についての基本的考え方
我が国の福祉社会は、自助、共助、公助の適切な組み合わせによって形づくられるべきものであり、その中で社会保障は、国民の「安心感」を確保し、社会経済の安定化を図るため、今後とも大きな役割を果たすものである。
この場合、全ての国民が社会的、経済的、精神的な自立を図る観点から、
1)自ら働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」を基本として、
2)これを生活のリスクを相互に分散する「共助」が補完し、
3)その上で、自助や共助では対応できない困窮などの状況に対し、所得や生活水準・家庭状況などの受給要件を定めた上で必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などを「公助」として位置付ける
ことが適切である。

(参考)2006年(平成18年)の社会保障の在り方に関する懇談会最終報告書「今後の社会保障の在り方について」

4.自民党の綱領

また、今行われているのは、自民党の総裁選ですが、自民党の基本的な考え方を記してある「綱領」にも、同様の記述があります。

■ 平成22年(2010年) 綱領より

2.我が党の政策の基本的考えは次による
(1) 日本らしい日本の姿を示し、世界に貢献できる新憲法の制定を目指す
(2) 日本の主権は自らの努力により護る。国際社会の現実に即した責務を果たすとともに、一国平和主義的観念論を排す
(3) 自助自立する個人を尊重し、その条件を整えるとともに、共助・公助する仕組を充実する

(参考)自民党HP「平成22年(2010年)綱領

5.感想

つまり、この考え方を否定するわけではないのですが、これまで自民党や政府がずっと大切にしてきた基本的な考え方なのです。

なんとなく、これまでの考え方を踏襲していくという雰囲気は理解しましたが、これだけではどういう社会を目指しているのか判然としないので、引き続きウォッチしていきたいと思います。


編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。