「世田谷モデル」賛成なら自民区議団に衆院選でお灸を据えよう

2020年09月20日 06:01

世田谷区・保坂区長(区YouTubeより)

東京・世田谷区による独自のPCR検査方式「世田谷モデル」が、28日の区議会本会議で可決される見通しとなったという。

保坂展人区長のパフォーマンスとも言われるこの案件。最初の発表の段階から、地元医師会が公式サイトで「医師会員の出務協力及び義務などはありません」などと冷ややかな見解を示し、アゴラでも「無差別PCR検査が風評被害を生み出す」(池田信夫・アゴラ研究所所長)、「世田谷モデル採用予定としていた東大先端研の児玉龍彦名誉教授のプール方式の実証試験は、目論見が外れて失敗」(稗島進区議)などの問題点が指摘されてきた。

区議会でも稗島氏らが追及して撤回を要求。区議会では当初、最大会派の自民党からも「国や都と連携せず、区が独自に税金を使って実施する必要性はあるのか?」などと疑念をぶつけられ、区長サイドは「誰でもどこでも何度でも検査を受けられる」とぶち上げていた内容を修正するなど対応は混乱した。世田谷モデルはこのまま暗礁に乗り上げるかに思われた。

自民が一転、不可解な賛成へ

ところが一転、おとといの区議会の企画総務委員会で、自民党は公明党、立憲民主党・社民党、都民ファーストなどの会派とともに、稗島区議の会派が出した世田谷モデルをやめさせるための補正予算組み換え動議を否決。稗島区議の記事によれば、自民党も含めた区議会各派は、世田谷モデルを認める公算が強まっているのだという。

実際、自民党はどのような見解を示していたのか。関係者を通じて企画総務委員会での自民区議(荻野健司氏)の発言内容を入手した(太字は筆者)。まず前段のところを一部抜き書きする。

本補正予算に含まれております、社会的インフラの維持に向けたPCR検査につきましては、報告のたびに説明内容が変わりまして、補正予算書が告示日に間に合わず、臨時の常任委員会を開くという異例の事態にまでなったことに我が会派として本件の進め方にはいまだ大きな不信感を持っております

区職員の方々はただでさえ忙しい中に区長が広げた風呂敷をたたむ作業を強いられたわけでありまして、結局は掲げた理想とは程遠い事業案が提案されるに至ったと認識をしております

PCR検査についてですけども、今週に入りまして厚労省から検査体制の拡充の指針が示されまして、世田谷区がいう社会的検査が行政検査として国費で賄えることになりましたが、国費とはいえ無駄遣いは当然許されないわけであります。また、世田谷区の事業案では定期的検査の回数はおろか、実施可否すら流動でありまして、これが本当に福祉施設で働く方々の不安解消につながるのかいまだ疑わしい部分は残っていると認識をしております。

太字の部分だけを読めばわかるように、自民側が世田谷モデルの問題点を十分に認識し、不信感をあらわにしているのは明白だ。

しかし、ここから急転する。

今後の感染状況によっては社会的検査を一旦休止して、従来型PCR検査をさらに拡充することをあわせて求めるものであります。そして間もなく始まるとされてます第一段階の社会的検査の結果を科学的に検証したうえで、議会にも示していただき、第二段階以降の検査計画が妥当かどうかしっかりと見定めることを重ねて要望したうえで、新型コロナウィルス感染症の対策として止めてはいけない事業が多くを占める本補正予算案に賛成するものであります。

なぜ「欠陥商品の市場投入」を認めるのか?

世田谷区議会(AGE-STUDIO/写真AC)

入手した自民党の討論内容を読み返すと、冒頭から3分の2程度まで世田谷モデルや保坂区長の政策立案について「理想とは程遠い事業案」「不安解消につながるのかいまだ疑わしい」などと、この政策が「欠陥商品」であると喝破している。一見すると、予算案反対の表明文を読まされているようにすら思える

ところが、現実には、終盤のくだりになって「欠陥商品の市場投入」を唐突に認めてしまうのだ。この討論を読む限りはエビデンスも示されておらず、全くもって不可解だ。

念のため、区政の状況をおさらいしておくと、実は、世田谷の自民党は「野党暮らし」がまもなく10年になるほど長く、維新にやられっぱなしの大阪と似たような状況なのだ。

保坂区長は、社民党の国会議員出身。どぶ板的な活動が要求されるローカルの区長選は一般的に保守系が強く、風頼みのリベラル政治家が勝つのは異例なことだが、2011年の区長選のとき、自民党が保守分裂に陥り、保坂氏が「漁夫の利」を得る形で初当選した。

これが間違いのもとで、自民党は2015年の区長選で商店街連合会幹部の男性、2019年の区長選では元区議の女性をそれぞれ擁立したが、全く歯が立たない状況に陥っている。

あえて政治的にドライな言い方をすれば、この世田谷モデルを撤回させれば、自民党にとって保坂区政に「全国区」でも注目される失点をつける千載一遇の機会だった。間違いなく区長に大恥をかかせられたはずだ。そういう政治的状況もありながら、しかも欠陥商品を認め、4億円の血税投入を容認しようとしている。不可解極まりないだけでない。区議団の態度は、政党人として保坂区政を支持しない自民支持層への明白な裏切りである。

「野党暮らし」が長くて弱体化

ちなみに自民党の東京都連でほかの自治体の地方議員に世田谷区議団の評判を聞いてみたが、「発信力がある議員もおらず、線が細いから、区長を攻めあぐねている」と手厳しい。

もともと左翼勢力の強い政治的風土があるとはいえ、その体たらくは選挙結果にも反映している。区長選での3連敗のほか、国政選挙でも、2017年衆院選は6区で、自民の越智隆雄氏は、立憲民主党の落合貴之氏に敗れている。しかもこの時は小池知事が率いた希望の党候補者がいて票が割れて、越智氏はなんとか比例復活できた。

衆院6区でしのぎを削る越智氏(内閣府サイト)と落合氏(Wikipedia)

次期衆院選、落合陣営が野党共闘で再びまとまれば、菅新政権ブームの追い風とはいえ、世田谷の選挙戦は大阪や沖縄と同じく「自民には例外的に厳しい」選挙区になるのではないか。

また、世田谷東南部の5区は、自民の若宮健嗣氏が過去3連勝しているが、野党共闘だった前回は立憲民主党の手塚仁雄氏に惜敗率97.9%まで肉薄された。

自民支持でも自民に入れない選択肢

写真AC

地方議会では、野党会派であっても、支持者の陳情を実現できないと困るから、議会で勇ましいことを言う裏で、行政側とほどほどのところで「握る」ことも珍しくはないが、それが許されるのは、区政や区議会に関心を持つ人が少ないこともある。今回も「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とでも侮っているのではないか。だったら思い知らせてやる方法がある。

すでにネット上の保守層では、自民区議団の公式サイトに意見を送りつける者も現れているようだが、まずは区議たちや衆院選の候補予定者に意見をぶつけ、見解を尋ねてみることだ。

ただ、それくらいでは態度は変わらないだろう。であれば、自民支持の区民で、保坂区政に本気で怒っている人ができる意思表明がある。来たる衆院選で「お灸」を据えることだ。比例は自民でもいいだろう。問題は選挙区だ。野党候補の落合氏に入れるのを躊躇するのであれば、白票という選択肢もある。

この程度のことは、圧力団体が進化しているアメリカの保守運動では当たり前のことだ。共和党の議員たちは支持層と良い意味で緊張関係ができている。お洒落な世田谷らしく、舶来的な投票行動もいいのではないか。

国政の自民党は、安倍前首相が不屈の闘志で民主党政権から日本を取り戻したが、世田谷の自民党は世田谷を取り戻すことはできるのだろうか。

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新田 哲史
アゴラ編集長、報道アナリスト

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