三極化する世界の新型コロナ対応 ~「日本モデル」は抑制派の代表

2020年10月02日 11:30

新型コロナ危機が発生し、世界各国に瞬く間に広がっていってから、半年以上の時間が過ぎた。半年間の間で、各国・各地域で様々な動きがあるが、かなり大きなグループ分けをすることができるようになってきたと思える。

各国の状況を3つに分類

コロナウイルスの研究施設を視察する習近平首席(新華社より引用)

第1グループは、「封じ込め」タイプで、初期対応が迅速で、ほぼ封じ込めに成功した国々である。中国、台湾、ベトナム、ニュージーランドなどが成功例として頻繁に参照されてきた。これらの諸国は、基本的には、極めて迅速に国境を閉じてウイルスの流入を遮断することによって、封じ込めに持ち込んだ。

その背景には、迅速な政策的判断とそれを指示する国民意識の基盤があったわけだが、それができた理由は、SARSなどの過去の感染症の経験の記憶であった。旧専門家会議・現分科会のキーパーソンである押谷仁・東北大学教授は、これらの東アジアからオセアニアにかけての成功事例の諸国の多くが、「SARSの感染を体験した」という特徴を持っていることを指摘している(押谷他『ウイルスVS人類』65-66頁)。感染症の流行を警戒する一般国民の自然な感情が、初期段階における迅速な対応を可能にしていた。

第2グループは、「危機」継続中のタイプで、甚大な被害を出している国々である。初期段階では欧州・北米諸国が典型例だったが、その後に南米諸国がこのグループの典型例となっている。初期段階の失敗は、封じ込めの失敗だったと言ってよいだろう。感染症対応の準備が不足したまま、封じ込め政策をとろうとしたために、かえって医療崩壊などの現象を起こして被害を広げてしまった。後に、そもそも対応策をとることに意欲的ではなかったか、不備のある対応しかとれなかった国々が現れた。

コロナ対応で批判されたブラジルのボアソナロ大統領だが、経済は堅調(Palácio do Planalto)

時系列で「封じ込め」第1グループと「危機」第2グループの諸国の動きを見ていくと、いくつかの目立った変化を見ることもできる。ネパールやミャンマーは、初期段階では、「封じ込め」政策が奏功した第1グループの国々であるように見えた。ところが最近になって感染者と死者の拡大を経験することになり、今やほとんど第1グループから脱落し始めていると言わざるをえない状態だ。

こうした国は局所的に存在しており、たとえばアフリカではガンビアなどが、オセアニアではパプアニューギニアなどが、このようなパターンの典型例を提供している。7月中旬までは「封じ込め」派に見えたが、その後、急激な感染拡大を経験しているのである。

なおオーストラリア、韓国、シンガポールなどは、当初は第1グループの代表例であるかのように扱われながら、感染拡大・死者数増加の局面を経験しつつ、何とか乗り切ってきた、微妙な位置づけの諸国である。

もともと第1グループを成り立たせた一番の要因は、初期段階でのウイルスの流入の遮断であった。したがって、逆に言えば、第1グループの諸国においても、今後もいつでも感染が流行する潜在的危険があることは当然である。

第2グループの諸国も、最悪の時期を半年間にわたって継続的に経験しているわけではなく、時間的な変化を見せてきた。世界最大の陽性者数と死者数を持つアメリカ合衆国ですら、3月・4月の最悪の時期と比べれば、現在は改善を見せている。とはいえ、新規陽性者数は3月時の2倍程度の水準(一日あたり4万人強)、新規死者数は3月時の2分の1ほどの水準(1日あたり800人前後)が続いてしまっており、まだ高止まり状態だと言わざるを得ない。

ブラジルを代表とする多くの中南米諸国も、高い感染拡大の水準を続けている。一貫して右肩上がりの新規陽性者数と新規死者数の増加を経験し続けてしまっているか、あるいは少なくとも新規陽性者数や新規死者数の抑え込みができずに高い水準を続けてしまっている例としては、ロシア、インド、バングラデシュ、インドネシア、イラン、イラク、トルコなど、アジアから中東にかけての地域にも、多数ある。

日本は「抑制」型グループ

これら2つのグループとは異なる特徴を持つ第3グループとして、「抑制」タイプがある。小規模な感染拡大を経験しながらも、抑制された新規感染者数と新規死者数の範囲にふみとどまっている日本は、このグループの代表例だろう。

日本モデルを推進した押谷仁教授(東北大HP)、尾身茂会長(官邸サイト)

押谷教授が、「もし日本がSARSを経験し、それを踏まえて感染症に対する準備を徹底していれば、もう少しきちんとこのウイルスに対処できていた可能性はあります」(『ウイルスVS人類』66頁)と述べたように、日本でも初期対応に混乱が見られた。だが旧専門家会議が招集された2月中旬以降は、重症者への対応を主眼にしつつ、大規模感染を防ぐ国民の行動変容で、事態の制御に努めてきている。

第3グループの「抑制」アプローチの特徴として指摘すべきは、死者数の抑制であろう。押谷教授は、新型コロナウイルスが高い感染力と低い致死力という特徴を持っていることを、初期段階から洞察していた。

「病原性=症状の重さは肺のウイルス量で決まり、感染性=うつりやすさはのどのウイルス量で決まっている。感染性と病原性がまったくリンクしていないところが、このウイルス対策の難しいところなのです。・・・実は2003年にSARSが流行したときに、私たち研究者の間では、もしSARSウイルスがもっと感染性を増したらどうなるだろうか、という議論をしていたんです。そうなると、病原性は下がるだろうけれども、そのために、かえって広がりやすくなる。非常に制御しにくいウイルスになるだろうという議論になったのですが、今回の新型コロナウイルスは、まさにそういうウイルスが出現してしまったことになります。」(『ウイルスVS人類』42、44頁)

この洞察から成り立つ推論は、新型コロナの感染流行を止めることは著しく難しいが、医療崩壊を防ぎ、医療基盤の高さを活かし、高齢者保護を確保していくことで、死者を減らすことは可能である、ということだ。

さらに押谷教授らは、限られた数の感染者だけが感染拡大を引き起こす新型コロナの特性に対する洞察にもとづき、「三密の回避」で知られる大規模クラスター発生予防のための行動変容の方向性も示した。

「そもそも都市を封鎖したり、住民の外出を禁じたりするロックダウンは、基本的には感染の可能性のある者をすべて隔離するという、19世紀的な考え方なんですね。…そこでわれわれが考えているのは、すべての社会機能を止めるのではなく、その制限を最小限にしながら、ウイルスの拡散するスピードをいかに制御していくかという対策なんです。」(『ウイルスVS人類』99、100頁)

「日本モデル」という言葉は、私自身が、3月頃に意識的に使い始めたものだが、この押谷教授の洞察の上に成り立つ日本の新型コロナ対策の基本姿勢を言い表すための概念として導入したものである。

この「日本モデル」の成果に一定の手ごたえを感じることができているため、尾身茂・分科会会長は8月26日に次のように発言していたる。

「このウイルスには弱さがある。当初、多くの人が恐ろしいウイルスだと印象を持ったと思いますけど、ここに来てこのウイルスはある程度、マネージできる、コントロールできると言うのがわかってきた。」(http://japanmorningpost.info/archives/2394

欧州が日本と同じ路線を取り始めた

私は、先日、「欧州諸国は新型コロナ対応「日本モデル」を踏襲するか~日本人はもう少し「日本モデル」を誇りに思うべきだ~」という題名の文章を書いたが、「日本モデル」が代表する「抑制」第3グループに欧州諸国が加わってきたかもしれないことは、注目したい点である。

コロナ対策、日本が「手本」 ドイツ第一人者が指摘(日本経済新聞)

ソーシャルディスタンスを取るマスク着用の学生たち(9月撮影、オーストリア・ザルツブルク大学flickr

欧州では、日本の7月・8月頃と同じように、8月以降に新規陽性者数の目立った拡大が見られている。ところが死者の絶対数は抑制され続けている。感染拡大に直面しても、大規模ロックダウンの再導入はまだ行っていない。欧州では、意識的に封じ込めを目指すアプローチが放棄され、「抑制」路線に移行しているのである。「抑制」派の今後の世界的潮流を占うのは、EU諸国だと言える。

7月・8月に、私は「日本モデルVS西浦モデル2.0」という題名の文章をシリーズで書きながら、日本の状況を観察した。そして、最後は、ロックダウンをへることなく重症者の発生を抑制し続けながら感染拡大も止めた「日本モデル」の勝利を宣した。現在の欧州が目指しているのも、同じ路線だと言えるだろう。

EU域内の優等生であるドイツは、死者数のみならず、新規陽性者数の抑制にも成功し続けている。フランスやオランダなどの他のEU主要国は、死者数の相対的抑制は維持しながらも、感染拡大はまだ歯止めを見いだせていない。その他の国々の一部は、さらにもう少し憂慮すべき状況にあるように見える。

日本自身がそうであるように、EU諸国は、「日本モデル」の方向性での新型コロナ対策を確立するために、苦闘している。だが、今のところ、完全に悲観しなければならないほどの事態にまでは至っていない。

日本人から見ると警戒意識や衛生観念に不足が見られるかもしれないが、欧州では、高齢者と基礎疾患保持者だけは特別に保護しなければならないという社会意識は浸透している。全国民が享受できる医療制度も整っている。医療崩壊を防ぐことが最重要課題だという政策意識も確立されているため、PCR検査も盲目的に実施するのではなく、「戦略的」に実施すべきだと理解されている。

「三密の回避」という言葉こそ用いられていないものの、換気の重要性を含めて、その基本メッセージが広く受け止められている。一部で抵抗があるものの、マスク使用率も高い。日本との違いは、むしろ、屋外ではマスクをしない、レストランではなるべく屋外テラスで食事をする、といった「戦術」レベルの実践方法にあるようにも思われる。

「ゼロリスク」の扇動者に勝てるか

「抑制」グループの困難は、国内世論対策にもある。「抑制」派は、新型コロナの致死力の低さに攻め入るアプローチをとる反面、感染力の強さは受け入れて、無理な封じ込めを目指さず、大規模感染の抑止に努める。残念ながら、この「日本モデル」型のアプローチは、不当にも抽象的で非現実的な「ゼロリスク」を求める扇動的なポピュリストたちからの誹謗中傷を浴びがちである。

だが突如として現れた感染力の高い新型コロナを撲滅できていないのは、日本政府の責任でも、私が「国民の英雄」と呼ぶ尾身会長や押谷教授の責任でもない。問われているのは、その都度その都度の現実的に対応可能な範囲で、最善に近い対応を遂行できているかどうか、である。「日本モデル」は、現実的に可能な範囲での良好な政策として、善戦している。

今後の日本の外交的な課題は、比較優位にある「日本モデル」を日本人自身が深化させながら、「封じ込めグループ」との交流を開拓しつつ、「抑制グループ」諸国相互の連携をとっていく道筋を作るかどうか、であろう。

いずれにせよ、はっきりしているのは、日本は、今さら「封じ込めグループ」とともに、非現実的で的外れな願望を持つべきではない、ということだ。ただし、同時に、日本は、「抑制グループ」の代表としての地位を固めるための努力は惜しむべきではない。

10月1日(GMT)の陽性者数・死者数・致死率
<カッコ内は6月15日の数値と比べた時の増加率>

地域 準地域 感染者数(/mil) 死者数(/mil) 致死率(%)
アフリカ   1,121.93

(6.06倍)

27.44

(5.56倍)

2.45

(0.92倍)

北アフリカ 1,415.82

(4.76倍)

47.01

(3.76倍)

3.32

(0.79倍)

東アフリカ 457.96

(7.98倍)

7.56

(7.95倍)

1.65

(1倍)

中部アフリカ 348.63

(2.59倍)

7.05

(2.31倍)

2.02

(0.89倍)

南部アフリカ 10,345.29

(9.88倍)

254.33

(11.54倍)

2.46

(1.17倍)

西アフリカ 465.18

(3.46倍)

8.22

(3.11倍)

1.77

(0.90倍)

米州   16,706.95

(4.35倍)

554.91

(2.75倍)

3.32

(0.63倍)

北米 20,734.88

(3.37倍)

601.35

(1.75倍)

2.90

(0.52倍)

カリビアン 3,859.76

(4.92倍)

71.47

(3.38倍)

1.85

(0.68倍)

中米 6,340.07

(5.89倍)

487.64

(4.75倍)

7.69

(0.80倍)

南米 18,790.32

(5.70倍)

588.72

(4.21倍)

3.13

(0.73倍)

アジア   2,326.36

(6.53倍)

42.45

(4.81倍)

1.82

(0.73倍)

中央アジア 3,250.59

(8.08倍)

43.61

(16.83倍)

1.34

(2.06倍)

東アジア 120.34

(1.73倍)

4.07

(1.14倍)

3.39

(0.66倍)

(日本) 661

(4.78倍)

 

12

(1.71倍)

1.81

(0.35倍)

 

東南アジア 1,038.67

(5.82倍)

25.44

(4.84倍)

2.45

(0.83倍)

南アジア 3,952.54

(9.61倍)

72.18

(6.08倍)

1.83

(0.63倍)

西アジア 6,712.17

(3.36倍)

100.40

(3.58倍)

1.50

(1.06倍)

ヨーロッパ   6,466.24

(2.28倍)

283.76

(1.21倍)

4.39

(0.53倍)

東欧 6,393.88

(2.65倍)

125.18

(2.93倍)

1.96

(1.10倍)

北欧 4,558.78

(1.60倍)

356.80

(1.03倍)

7.83

(0.64倍)

南欧 8,701.62

(2.22倍)

484.40

(1.14倍)

5.57

(0.51倍)

西欧 6,241.60

(2.41倍)

311.28

(1.07倍)

4.99

(0.44倍)

オセアニア   767.93

(3.50倍)

22.72

(7.49倍)

2.96

(2.12倍)

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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