国民民主党・玉木代表の歯みがきによる認知症予防は本当?

2020年10月09日 06:00

国民民主党 玉木代表は先日、ツイートにて認知症予防に歯みがきが重要だという見解を示しました。このように口腔ケアに注目し、国民の口腔衛生習慣を喚起する声掛けは大変ありがたいものと感じます。

一方で根拠となった記事を紐解いてみると、研究結果に対して拡大解釈が大きいように感じられます。

(参考)認知症の原因物質 歯周病によって蓄積する仕組みを解明 ― 朝日新聞デジタル(2020年10月5日)

予防法はゴールがないため、特に公衆衛生として広く推奨する場合はエビデンスによる裏付けが必要です。不確かなまま何でも推奨するとなると、予防法は無制限に拡大し、本当に必要な予防法が疎かになったり、時間やお金を無駄遣いする可能性がでてきます。

そのため公的機関から発信する予防法に関してはエビデンスの裏付けに関して厳重に審査されます。エビデンスというのはヒトを対象とした疫学研究をいい、動物実験や細胞実験は原則的には含みません。

(関連)感染拡大と戦う武器、社会統計学の教育について ― 中田智之 アゴラ(2020年05月13日)

今回の研究はマウスを対象とした実験です。また歯周病細菌の腹腔内投与は感染実験としては重篤な感染症をもたらすかなりヘビーなもので、実際のヒトの歯周病とは感染部位も重篤度も違ってきます。もちろん論文の内容自体を否定するものではありませんが、動物実験の結果は「解明の端緒をつかんだ」というのが妥当な解釈と思います。

ツイッター歯科関係アカウントの間では、あたかも認知症と歯周病の関係が詳らかになったような記事タイトルで拡大解釈に基づく便乗商法が始まらないか危惧していました。

歯周病の治療と予防には特に高額商品は必要ありません。ここに公党の代表からの発信、日本歯科医師会との関連性という権威づけがあることで、エビデンスの十分でない保険外治療や高額な洗口剤などの販促キャンペーンが勢いづく、というのは定番パターンです。

そのようなサービスや商品を販売していくこと自体は自由だと思いますが、購買者の判断基準に関わる公的な立場からの発信は科学に基づいてフェアであってほしいと思います。

学会や厚労省から発信する論文やガイドラインでは、未だに歯周病と脳梗塞、歯周病とリウマチの関係性も十分なエビデンスがあるとは言えないと、慎重に扱われています。歯周病や口腔ケアと関連しそうだというのは、「糖尿病・心疾患・早産」というのが、ヒトを対象とした疫学研究、つまりエビデンスに基づく現時点での定説です。

これらの状況の中で今回、公的機関に近しい立場から、日本歯科医師会の名前を挙げて発信があるに至り、急ぎ筆を執りました。

一方で日本歯科医師会においてもコロナ後の来院回復を急ぐあまり、不確かなコロナ予防法等を広告していないか、再考する必要があるのではないでしょうか。そのようなエビデンス・ベースから逸れた発信が増えたことが、この出来事の遠因になったのではと感じております。

写真AC:編集部

もちろん、歯みがきが大事なのはあたりまえです。また動物実験や細胞実験なくしてヒトを対象とした臨床研究は成り立たないので、その重要性は大きなものだと思います。今回の研究で得られた知見に基づき、疫学に基づいてヒトの認知症予防が確立していく可能性は間違いなくあります。

しかし、未だにヒトを対象とした疫学研究がされておらず、理論的に自明でもないなかで、あまりに拡大解釈したとらえかたになるのは、せっかくの研究成果自体を歪ませてしまうのではないかと危惧しております。

公的機関関係者、あるいは影響力の大きい発信者は、ぜひエビデンスに関する基本的な理解… ヒトを対象とした疫学研究がエビデンスの原則であることを、この機会にご理解いただければ幸いです。

本件、10月7日夜、玉木代表より真摯なコメントをいただきました。誠実なご対応、大変ありがたく存じます。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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