雇用維持のために在籍出向ってナイスアイディアだね!と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。コロナ禍の影響が広がる中、大企業を中心に、余剰人員を余力のある取引先等に出向させる企業が増えています。

【参考】在籍のまま社員出向、政府が助成金で後押し

「何が何でも終身雇用は守る。可愛い社員に労働市場を通じた再就職活動なんて絶対やらせない」という労使の強い覚悟を感じます。

リストラすることなく雇用を維持できる+働き手の足りていない企業をサポートできるわけで、一石二鳥のアイデアだと評価している向きも多いですね。

というわけで、今回はコロナ禍における在籍出向についてまとめたいと思います。“人材”というものを考える上でよいサンプルとなるでしょう。

スキルをドブに捨てる国

当たり前の話ですが、コロナ禍のような共通した不況の理由がある以上、同業他社もだいたい余剰人員を抱えているわけです。だから出向先としては「まったくの畑違いで、人員を吸収する余力がある業界」が選ばれることになります。

コールセンターや配送、小売り、製造ラインといった業務が対象ですね。中にはほうれん草の袋詰めなどもあるそうです。

【参考リンク】雇用激変 JAL社員、食品工場で袋詰め作業

さて、在籍出向させるメリットはなんでしょうか。それは「景気回復時にスパッと現場復帰させられる」ことです。新規に採用してゼロから教育するコストがないので企業からすれば十分なメリットだと言えます。

でも、それはせいぜい数か月~半年くらいで不況のトンネルを抜けられるとわかっている場合の話です。春先の感染拡大からもうとっくに半年は過ぎていますが、世界は相変わらずコロナトンネルの出口が見えない状況です。

ワクチンが普及するまで2年くらいかかるという見方もあります。いや、もしかするとポストコロナの世界では、航空業のような特定の産業は産業構造自体が抜本的な見直しを迫られる可能性もあります。そうなったら出向者はずっとコールセンターとか袋詰めやるんですかね。

フォローしておくと、筆者はどんな仕事でも本人が満足するならそれは天職だと考えています。でも、引っかかるのは、本人が本業で長年培ってきたスキルをドブに捨ててしまっていることです。

いま出向者を受け入れている企業は、その人のスキルではなく労働力を受け入れているだけです。でも広い労働市場のどこかには、きっとその人のスキルを欲しがっている企業があるはずです。

市場機能を通じてスキルをマッチングするのではなく、会社のコネを駆使して従業員を一山いくらで売り込むのは、すごくもったいないなと個人的には感じています。

これはコロナ禍以前から日本企業で幅広く行われてきた慣習です。日本企業は何十年も、社内はもちろん、グループ会社、取引先に、スキルをドブに捨てさせて、会社都合で多くの中高年を送り込み続けてきました。

筆者も駆け出しの頃に「私は営業一筋で人事総務の経験はゼロですが、新入社員になったつもりで一から頑張ります」という課長さんの挨拶を見て衝撃を受けた記憶がありますね。

「なんできみ“新人”なのに俺の給与3倍なんだよ、ていうか君の営業のスキルはどこいったの?」

終身雇用の看板を維持するために、労働市場を活用することなく労働者のスキルをドブに捨て続けてきたことが、「日本の低生産性」や「失われた30年」の本質だというのが筆者のスタンスです。

コロナ禍に際して欧米より低い失業率にとどまっていることに安どしている労使は多いですね。とにかく雇用さえ守っていればなんとかなるし、労組も身の丈を超えた賃上げは要求しないという考えが一層強まるような気がします。

でもそれは、なぜか大企業の内部留保は詰みあがるんだけど投資も賃金も増えず、奇妙に安定してるけど経済成長もしない“失われた30年”の第2ラウンドをこの国にもたらすかもしれません。

以降、
出向者の受け入れ=非正規の雇止め
民営社会保障の終わりの始まり

※詳細はメルマガにて(夜間飛行)

Q:「この人事異動の意味を教えてください」
→A:「恐らく一時的な扱いでしょう」

Q:「就活で好きな仕事を探すということは実は大変なことだと思うのです」
→A:「結果的に落ち着くべき場所に落ち着くものだ、という人も多いです」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2020年12月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。