国民を愚弄するケトルの論理/共同通信のGoTo報道

2020年12月30日 14:01

もうこれまでに何度も言ってきましたが、新型コロナウイルスの感染によって失われる人命も新型コロナの感染対策で悪化する経済によって失われる人命も同じ人命であることには変わりありません。

行動制限などの感染対策が行われれば、感染者数が抑制されるために感染死の減少が期待される一方で、経済が打撃を受けて自殺者などの経済死が増加する可能性が危惧されます。逆に感染対策が行われなければ、経済死をもたらす経済は直接の打撃を受けませんが、感染死が増加する可能性が危惧されます。

このように、【リスク risk】の観点から見れば、感染死リスクと経済死リスクは【二律背反 trade-off】であり、この二つのリスクを低減する最適なリスク対応を行うことが重要です。このような二律背反のリスクを最適化するには【トレードオフ分析 trade-off analysis】に基づく【パレート最適解 Pareto optimal solution】が有効です。どこまで感染対策を行えば、経済死を含めた全体の人命リスクを最小化することができるのか、日本社会はこれまでの科学的なエヴィデンスを基に議論する段階にあると考えます。

ちなみに、[月刊Hanada2月号]および[前記事]で詳しく議論したように、GoToトラベル・キャンペーンは、感染リスクが低い参加者の支出行動を促すことで緊急事態宣言という政治対応で最も被害を受けた弱者である旅行産業及び地方の経済リスクを即効的に低減する政策であり、感染死リスクと経済死リスクの最小化という二律背反のリスクを低下させるにあたって有効なリスク対応であると言えます。

さて、命のリスクを考える上での【損害 damage】を定義する量としては【死者数 loss of lives: LOL】と【損失余命 loss of life expectancy: LLE】が一般的に用いられています。死者数は、個人にとって1か0の意味を持つ死亡の数を直接カウントするものです。それに対して損失余命は、死亡時の本来の余命をカウントするものです。これは、若年者の死は老年者の死よりも問題視すべきという倫理観に基づくものです。さらに、一般化すれば【逸失利益 Lost Profit: LP】等により求められる【人的資本 Human Capital: HC】あるいは【統計的生命価値 Value of Statistical Life: VSL】によって求められる【支払意思額 Willingness to Pay: WTP】という損害量も提案されています。私が考えるに、命のリスクを最小化する意思決定を行うにあたっては、より公平な損害量を用いるのが倫理的であり、コロナ禍にある日本社会はこの点についてその場しのぎの感情を排除して議論を深める時であると考えます。

残念ながら現在の日本では、コロナ禍に伴う失業者の増加とともに若い自殺者が急増する状況にあり、このうち経済死による自殺者が少なくないことは経験データからも自明と言えます。しかしながら日本社会は、感染死への対策を絶対視していて、死者数ばかりか損失余命も大きい経済死への対策を軽視している状況にあります。このような一方的な命の順位付けが行われている大きな要因としては、マスメディアが、感染死については連日ヒステリックに大報道するのに対して、経済死については殆ど報道しないことが考えられます。

そんな中の12月28日、共同通信が言葉を失うような二律背反の二つの報道を行ったのです。

共同通信 2020年12月28日 00時
GoToトラベル、全国で停止 判断遅れ、病床逼迫に懸念の声

政府は28日、観光支援事業「Go To トラベル」を全国で一時停止した。人の往来を抑制し、新型コロナウイルス感染拡大に歯止めをかけたい考えだ。ただ停止判断が遅いとして、年末年始の医療機関の病床逼迫を懸念する声が出ている。(後略)

 

共同通信 2020年12月28日 11時
GoTo全国で停止、観光地不安

新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからないことを踏まえ、政府の観光支援事業「Go To トラベル」が28日、全国で一斉に停止された。期間は来年1月11日までの15日間で、例年なら年末年始の休みを利用した人たちでにぎわう観光地の関係者らは「どんな影響が出るのか」と不安を隠せないでいる。(後略)

1番目の記事は、感染死を危惧する立場から政府のGoToトラベルの一時停止を批判しています。記事の趣旨は「感染死を危惧する観点からGoToトラベルの一時停止は遅すぎる」とするものです。一方、2番目の記事は、経済死を危惧する立場から政府のGoToトラベルの一時停止を批判しています。記事の趣旨は「経済死を危惧する観点からGoToトラベルの一時停止は問題だ」とするものです。つまり共同通信はあたかも弱者の味方のフリをして互いに矛盾する二律背反の政府批判を行っているのです。

しかも、二つの記事は同一のURL(https://this.kiji.is/715942662392250368)で公開されており、2番目の記事がアップロードされた現在では、1番目の記事を見ることができません。これは、通常の形では矛盾を指摘することができない巧妙な操作と言えます。

ただし、検索サイトでは完全に痕跡を消すことはできず、”GoToトラベル、全国で停止 判断遅れ、病床逼迫に懸念の声”を検索ワードにGoogle検索して、既に消されている地方紙の同タイトル記事の[キャッシュ]を見れば、1番目の記事を確認でき、巧妙な操作の痕跡を知ることができます。

また、1番目の記事を紹介する共同通信公式ツイッターのツイートのリンクから矛盾する2番目の記事に飛ばされることからも操作の痕跡を知ることができます。

ちなみに、中日新聞をはじめとする共同通信の配信を受けている多くの地方紙は、1番目の記事をわざわざ削除し、矛盾する2番目の記事を別のURLでアップロードしています。つまり多くの地方紙も共同通信と同じ穴の狢であるということです(ただし、中には千葉日報のように1番目の配信記事を消去せず2番目の配信記事をアップロードしない一貫した良心的な地方紙も存在します)。
なお、共同通信が1番目の記事を消去して2番目の記事をアップロードしたことには、「GoTo停止は遅い」よりも「GoTo停止で不安」とした方が、GoToの恩恵を受けている地方では読者ウケがよいという背景がある可能性があります。

いずれにしても、この二律背反の報道からわかることは、共同通信にとっては、GoToトラベル事業が一時停止されようがされまいがどうでもよく、政府を批判する結論を出すことこそが記事配信の目的であるということです。このように、互いに矛盾している複数の言説を用いて一つの結論を出すことを【ケトルの論理 kettle logic】と言います。これは社会を混乱させて国民を完全に愚弄する卑劣極まりない【確信的虚偽論証 false justification】に他なりません。私たち国民は、まさに「何でもかんでも」政府批判に結び付ける共同通信に騙されないよう細心の注意が必要です。

『月刊Hanada』2月号で、本記事にも関連するGoToトラベルのスケープゴート化の実態について詳しく論じました。お読みいただければ嬉しいです。
[月刊Hanada2月号 Amazon]


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2020年12月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

過去の記事

ページの先頭に戻る↑