高知東生さんに、若き議員たち。ブックオブザイヤー2020に込めた願い

高橋 大輔

年末恒例・尾崎財団が選んだ「咢堂ブックオブザイヤー」

尾崎行雄記念財団では毎年年末恒例「咢堂ブックオブザイヤー」を選出しています。憲政の父と呼ばれた尾崎行雄、そのキャリア(地方議員出身、ジャーナリスト出身)や特徴(選挙や演説)にちなんだ政治関連書籍に贈られます。尾崎の誕生日でもある12月24日に決定、翌25日には発表されるわけですが、今年は全7部門16冊に賞が贈られることとなりました。

咢堂ブックオブザイヤー2020 発表結果

選考結果に関しては各人思いもさまざまかも知れませんが、特徴としては献本や借り受けは一切なし。また選考に挙がった書籍はすべてスタッフが自費購入、領収証も一切落ちません。購入者の視点でお薦めできるかが判断の決め手になります。今回の選考議論も大いに白熱しました、各人の想いや意見は私が文責という形でまとめておりますが、象徴的な出来事を2つだけここに紹介いたします。

スタッフや関係者の想いが込められた「相馬雪香特別賞」とは

賞の代名詞でもある咢堂(がくどう)は尾崎行雄の雅号ですが、今回からは特別賞を新たに「相馬雪香特別賞」と改称しました。およそ半世紀にわたり尾崎財団を率い、また戦後はわが国初の同時通訳者の一人として岸信介首相の外遊にも随行するなど、女性活躍の時代を先取りした行動派でもありました。

(尾崎三女・相馬雪香)

相馬を語るうえで最たるものは、わが国を代表する国際NGO「難民を助ける会」を創設したことが挙げられます。その相馬が晩節にもっとも力を注いだのが財団主宰のリーダー育成塾「咢堂塾」ですが、なぜ、相馬は生涯にわたり旺盛な行動力を示し続けたのか。

親の七光り(政界の大長老の娘)か。ちがう。英国人の母・テオドラから受け継いだ語学力ゆえか。それもちがう。相馬とともに咢堂塾を立ち上げた当財団理事・石田尊昭の著書『心の力』(世論時報社刊)によると、相馬はつねに「四つの心」を大切にしていたといいます。

  • 言葉や行動となってあらわれる「本気の心」
  • 自分以外の他者をおもんばかる「利他の心」
  • 曇りを磨き、洗い直し続けることで得られる「純粋な心」
  • 傲慢さとは対極に位置する「感謝の心」

その容姿こそ小さなお婆ちゃんながら、常に本気で、そこには駆け引きや虚栄が存在しない。「こう振る舞ったら、人から良く見られるんじゃないか」そんな計算も働かない。96年の生涯を完全燃焼し続けた相馬の信念を、受け継ぐ人が続いて欲しい。「相馬雪香特別賞」には、そうした想いを込めました。

栄えある第1回となる今年の授賞は、アゴラレギュラー執筆陣の田中紀子さんも応援している高知東生さんの『生き直す』はじめ3作品が選ばれました。年が明けたら、当財団からも賞状をお贈りしたいと願っています。

政治家関連の書籍は、若手が台頭。結果は何を示す

「咢堂ブックオブザイヤー」自体は尾崎行雄に由来することもあり、政治関連、とりわけ政治家の著作にも注目しています。選考対象は昨年の発表以降から今年の12月までに出版されたものを可能な限り購読し選考の場にも登場しましたが、今年は与野党を問わず計5名の著作が選ばれました。

国政部門:落合貴之・衆議院議員 『民政立国論』

       :柿沢未途・衆議院議員 『柿沢未途の日本再生』

選挙部門:中谷一馬・衆議院議員 『セイジカ新世代』

演説部門:鈴木宗男・参議院議員 『人生の地獄の乗り越え方』

外交部門:岸田文雄・衆議院議員 『核兵器のない世界へ』

授賞作品にはベテランや閣僚経験者もいる一方、開けてみれば若手の作品が光る選考結果となりました。とりわけ国政部門の著者でもある落合、柿沢の二氏はともにみんなの党を起点としている、また議員歴10年の節目としての振り返りでもあったと興味深い共通点もありました。

みんなの党は残念ながら2014年に解党されていますが、旧来の与野党とは一線を画する存在を標ぼうした、あるいは現在もその出身者は党派を超えて活躍するなど、新たな政治家の揺籃(ようらん、ゆりかご)として一定の役割を果たしたのではないか。改めてそう思います。

また若手への注目という点では、相馬雪香賞の『気配りが9割』、その終章に対談が収められた小泉進次郎・衆議院議員にも注目したいと思います。尾崎財団では同書に次のような評を贈りました。

「当選以来ずっと叩かれているけど、若手世代の旗手として負けずに成長してほしい」

これには私も、財団スタッフの立場に関係なく同感です。とかく小泉議員は、何をやっても叩かれる。やらなくても、それはそれで叩かれる。叩くのは人の勝手かも知れませんが、そうした向きには「そんなに言うなら、あなたがおやりになれば宜しい」そう申し上げたい。言うは易し、行うは難しなのです。どんなに「セクシー発言」で株を落としても、あるいは会見がポエムと言われようと。舞台から引きずりおろして誰もいなくなるより、私なら尻や背中をバンバン叩きたい。今の永田町を眺めると、与野党を問わず若手の奮闘を願わずにはいられないのです。

これは何も、世代間の闘争を煽っているわけではありません。中には円熟の見識ある議員もいるかも知れませんが、少なくとも今の主流に位置する実力者やベテランには、どれだけ期待を寄せられるかというとやはり厳しいものがあります。多数決や所属会派、あるいは政党の力学だけではない。何よりも国会議員の方々には、己の信念や政策論を武器に闘っていただきたい。今年のブックオブザイヤー選考結果は、そうした期待の表れでもあるといえるでしょう。

来年の選考には、ぜひ皆さんも加わっていただきたい

この「咢堂ブックオブザイヤー」ですが、多くの文学賞や学芸賞とは異なり、著名な著述家や学識者による選考ではありません。その母体となるのは、与野党を問わず財団の活動を支えてくださる会員の方々であり、相馬雪香が立ち上げた「咢堂塾」の塾生であり、それをスタッフや役員理事が支える形でノミネートや選出が行われています。永田町1丁目1番地1号で読まれ、そして選ばれる「今年の一冊」。来年はぜひ、本稿をお読みの皆さまにも選考に加わっていただけたら幸いです。

2020年も終わりを迎えますが、この年末年始を過ごす際に「ブックオブザイヤー」授賞作品の数々が皆さまにとって「気になる一冊」に加えていただけたら、運営に携わったスタッフの一人としても望外の喜びです。