緊急事態宣言はいつまで続けるの?

池田 信夫

東京都など10都府県に出ている緊急事態宣言は3月7日まで延長されましたが、2月15日の東京の感染者数は266人とピークの1割に減りました。西村コロナ担当相は「緊張感がとぎれる」と解除しない方針です。感染はとっくに峠を越えたのに、いつまで続けるんでしょうか。

東京都資料

Q1. 緊急事態宣言って何ですか?

これは新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)にもとづいて政府の出す宣言です。去年4月7日にも発令されましたが、今年1月7日に東京都知事などの要請でまた出されました。国は都道府県知事に事業者の休業要請などを出す権限を与え、知事はそれにもとづいて飲食店などに休業を要請できます。

Q2. その基準は何ですか?

今度の緊急事態宣言には6つの条件があります。それは大きくわけると、次の表のように病床使用率(病院のベッドがどれぐらいコロナ患者に使われているか)などの病院の負担と、毎日どれぐらい陽性者が出るかという感染状況です。緊急事態宣言が出されるのは、次の表で赤い部分のいちばん深刻なステージ4で、これがオレンジ色のステージ3に下がったら解除することになっています。

緊急事態宣言の6条件(NHKより)

Q3. 今はその基準でいうとどうなんですか?

陽性者数は表のようにすべての都府県でステージ3以下になりましたが、病床使用率は東京などでステージ4です。このため政府は緊急事態宣言をやめることはできないといっています。

Q4. 病院のベッドは本当にいっぱいなんですか?

東京都の病院のベッドは10万6000床ありますが、それに対してコロナの入院患者は2300人です。重症患者に使う人工呼吸器は、図のように毎日5~6人しか増えていません。東京には人工呼吸器が約3000台ありますが、そのうちコロナに使われているのは97台。3%だけなのです。

東京都資料

Q5. どうして残りの97%は使われないんですか?

病院の7割は民間企業ですから、もうからない患者は受け入れません。コロナ患者が入院すると他の患者が寄り付かなくなるので、断っているのです。東京都は都立病院にコロナ患者を集中し、その他の患者やなおった患者を民間に転院させようとしていますが、これも民間病院がいやがります。

Q6. それは緊急事態宣言で変わるんですか?

緊急事態宣言を出しても、行政が病院に指示できる規定はないので、状況は変わりません。日本は人口あたり病床数が世界一で、コロナ患者はヨーロッパの数十分の一なのに、ベッドがいっぱいになるのは、医療法では行政が民間病院にお願いしかできないからです。これを改正する必要がありますが、医師会などが反対しているため改正できません。

Q7. 飲食店が夜8時に店を閉めたら、病院は楽になるんでしょうか?

病院の負担を減らすために感染を減らすというのが政府の説明ですが、もう陽性者数は急速に減っているので、ほとんど関係ないと思います。また特措法の改正でまん延防止等重点措置という規定ができたので、ステージ3になったら自治体は飲食店の休業を罰則つきで命じることができます。緊急事態宣言を続ける必要はないのです。

人工呼吸器が3%しか使われていない状況で「医療が崩壊する」とすれば、医療供給体制に欠陥があります。それをなおさないで全国民の行動を規制し、飲食店の営業を規制するのは本末転倒です。

新型コロナウイルスが日本から消えることはないので、今後もコロナと共存しないといけません。そのためには国民が我慢するのではなく、医療体制を合理化する必要があります。民間病院といっても診療報酬の7割以上は国民の負担する健康保険から出ているので、国が指示できないのは変ですね。少なくとも緊急事態には、国や自治体がベッドや医療スタッフの配置を指示できるような制度改革が必要だと思います。