史上初となる二回目の弾劾訴追を受けたトランプ氏の無罪が確定したが、結果は数週間前の時点で分かっていた。職を退いた大統領を弾劾することが違憲だとして、約9割の共和党の上院議員が弾劾裁判の実施自体に反対していたからである。
しかし、無罪を免れたところで、トランプ氏が無罪であると主張した上院議員が、そうではなかったものより、少なかったという事実、またアメリカ人の6割近くがが弾劾に賛成していたという事実も消えない。
加えて、共和党上院のトップであるマコネル氏が表現したようにトランプ氏が暴動を扇動したという事実は否定のしようがない。CNNによると共和党下院トップのマッカーシー氏が議会襲撃時にトランプ氏に応援を要請した際、トランプ氏はすぐに暴徒を鎮圧することをせず、「彼らは君たちより選挙の結果に怒っている」と述べ、まるで議会の襲撃が議員たちの自業自得であったかのように述べたと報道されている。そして、彼の言説はワシントン州選出の共和党下院議員バトラー氏が認めている。
また、トランプ氏の弁護団は彼が支持者を意図的に扇動しておらず、議会に向かえと言ったのはただのレトリックに過ぎなかったと擁護した。だが、暴動に参加していた彼の支持者がトランプ氏のために行動していたと認めていた以上、それは見苦しい言い訳に過ぎなかった。
トランプ氏が無罪になった理由は、本来であれば厳格な権力同士の監視を目的とした制度が、少数派の支配(マイノリティルール)のための道具となり下がったためである。純粋に多数決の原理が議決を決める民主主義国であれば、間違いなく弾劾は成立していた。
しかし、暴動の扇動が弾劾と見なされなければ何が弾劾にあたるのか。
議会襲撃なら許される?
トランプ氏は弾劾される必要があった。その理由は彼の責任が追求される必要があっただけではなく、将来の為政者のための反面教師としなければならなかったからである。もし、為政者が権力を乱用したら、当然の報いがあるということを示さなければならなかった。だが、共和党は議会襲撃を誘発した人物の罪を問うことはせず、無罪にした。
議会の襲撃、暴徒の扇動が許されるという前例を作ったのである。
そして、そのせいで、1月6日の事件以上に悲惨な結果を為政者が引き起こしても罪に問われない事態が、近い将来発生してもおかしくなくなってしまったのである。