雇用問題改善へのICTの貢献 - 松本徹三

2009年02月14日 05:00

前回のブログで、「ICT投資がどのくらいの雇用を創出し、どのくらいのGDP増大効果をもたらすか」といった定量的な試算は、現在の私には荷が重いということを申し上げましたが、定性的なことならある程度は言えるので、今回はそのことに少し触れてみたいと思います。

オバマ大統領ほどではなくとも、私も、ICTが国民にもたらす価値は、経済的なものよりは、「真の民主主義の熟成」「開かれた社会の実現」「多様な価値観の並存」「国民の精神生活の充実」などといった「金銭では評価できないもの」の方が多いと考えていますが、それでも、経済的な価値も無視できません。


私が何故「ICTの振興が国として取り組むべき長期的経済施策として重要だ」と考えるかといえば、その理由は大きく二つに分かれます。

一つは、ICT、特にネットの普及は、人々のライフスタイルを変え、これが思わぬところに新しいビジネスを生み出し、「内需拡大」に結びつく可能性があること。

そして、もう一つは、ICTは、生産性を向上させ、国際競争力を増大させることです。

これらは、全て長期的な期待ですが、現在の経済的な状況下では、更に即効性のある効果も期待できます。

その第一は、ICT、特にネットの普及は、労働需給の分野による不均衡を衆人の目に明らかにして、労働力の別分野への移動を刺激すること。

その第二は、教育訓練の効率を向上させ、人々が労働需要のより多い分野(例えば「介護」や「接客」など)で必要とされるスキルを獲得することを容易にすることです。

それ以外にも、ICTは、ある種の仕事を遠隔地ですることを可能にするので、「住居を変えることなく、新しい仕事につくことが可能になる」などの付随メリットももたらすでしょう。

これは、一方では、定年を過ぎた人達や、若者達の故郷へのUターンを促し、地方の活性化にも貢献するかもしれません。

地方の活性化ということに関しては、私は以前から「インターネットによって、小口の農業生産者と消費者を直接結べないか」と考えているのですが、それは、たまたま娘が長野県の人と、息子が香川県の人とそれぞれに結婚した為に、小さな畑を持っている親類が出来、「その人達が送ってくれる手作りの旬の野菜を楽しむ」という恩恵を受けることになったからです。

私の場合はたまたま本当の親類になったわけですが、都会に住む人達が、インターネット経由で、色々な地方の色々な農家とそれぞれに親類付き合いをするようになったら、我々の食生活はどんなに楽しいものになるだろうかと考えたわけです。恐らく農家の人達も、収穫を楽しみにしている人達の顔が頭に浮かべば、仕事にも一層はりが出ることでしょう。

一方で、私の本職である携帯電話の世界では、或るベンチャーが、とても有意義な新しい仕事に取り組んでくれています。

これは労働力の需給バランスを究極のミクロで捉えて、最高の効率を実現しようという試みで、「ロケーションバリュー」という従業員20人あまりの小さな会社がやっています。会社は小さいけれど、周囲の期待は大きく、ソフトバンクも出資していますし、ソニーの出井伸之前会長が顧問に就任して下さっている程です。

この会社がやっていることはこういうことです。

仮に今、或るラーメン屋さんが、急に出前をしてくれる人を増やしたいという事態になったとしましょう。この店の店主が自分の携帯電話機にそのニーズを打ち込むと、あっという間に、たまたまそのあたりにいて、「今は別に何もすることがないから、何時間か働いて少し稼げたらなあ」と思っている若者達が、何人かコンタクトをしてくるのです。そこには、以前にその人が働いた店での評価などの付随情報もついてきますから、店主はその中から条件の良い人を選び、すぐに仕事を頼むことが出来ます。

(今の携帯電話機には「GPSによる位置認識機能」がついているのが普通ですから、昔なら考えられなかったこういうことが、易々と出来るようになったのです。)

このような種々のユニークなアプリケーションを次々に開発していけば、商品、サービス、労働(雇用)の各分野で、需給の出会いが格段に迅速化され、合理化がどんどん進んでいくでしょう。一つ一つのことは、あまりにも小さいことのように見えるかもしれませんが、日本全国でこういう事が広範に行われるようになっていくと、その総合的なインパクトは、おそらく想像をはるかに越えるものになっていくのではないかという予感がします。

ICTの効果は幾何学級数的に拡大する傾向があり、それ故に、将来の日本のあり方を考える上で、何よりも重視していかなければならないものだと確信している次第です。

松本徹三
(ソフトバンクモバイル副社長 ‐ 但し、このブログは個人の立場で投稿しているものであり、勤務している会社の立場を代表しているものではありません。)

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