ICT最先進国への道 - 何故「光通信網」なのか? - 松本徹三

2009年02月23日 12:04

先回はバルセロナの報告を入れたので、「日本版ニューディールの一環として、日本中に光通信網を張り巡らせるべし」という私の提言の背景の説明を、今回で完結させて頂きたいと思います。 

光通信網については、NTTは当初の「3000万世帯計画」を2000万まで縮小し、更に目標値を下げようとしていると理解していますが、それは当然のことです。「そもそも、誰がそんな高速回線をどのように使うというのか?」と聞かれれば、現在の思考の枠の中にとどまる限り、誰も答えられないからです。発想を転換し、現在の「TV放送のデジタル化計画」を「通信と放送の完全融合」のシナリオの上で考え、「光通信網をその為にも使う」ということを考えない限り、この問いには永久に答えがないだろうと、少なくとも私は考えています。


アゴラへの最近の投稿の中で、中川さんという方が、「国(官僚)はともすれば過剰なインフラを作りたがるが、その前に、お年寄りにいたるまでがインターネットをうまく使いこなせるように、ボランティア活動などで支援していくべき」という趣旨のことをおっしゃっておられますが、私も全く同感です。ただ、私は、「その入り口は、極めて簡単で分かりやすく、且つ日常生活の中で必需品に近くなるようなものであるべき」と考えており、その為に「TVやビデオとの融合」が特に重要と考えているわけです。

そもそも「放送」とは、技術的には「1:Nの一方方向の通信」のことですが、現在の日本の法制上の「放送」の概念では、この上に、「公序良俗」とか「報道の不偏性」とかいった、かなり曖昧な「上部構造についての要求事項」を加味して、一般的な「1:N通信」と区別しています。しかしながら、少なくとも施設面については、国民経済の観点からの合理性を追求する時には、この「あいまいな上部構造」の議論は取り敢えず外して考えるべきです。そうでないと、国民に二重投資を強いる結果になりかねません。

TV放送は「ブロードバンド」ではあっても「一方方向」なので、仮に今、国の税金を使ってまで「全国民がデジタルTVを見られる」ようにしたとしても、それだけでは中間的な解決にとどまってしまう恐れがあります。もし将来、「デジタルデバイドを完全に解消するために、オンデマンド・サービスを可能にする双方向のブロードバンドも全国民に提供すべき」という議論が出てきたら、また新たな投資を行わなければならなくなるからです。逆に、最初から放送と通信を区別することなく総合的に考えれば、光通信網の建設が二つの問題を一挙に解決することに誰でも気が付くでしょう。「大は小を兼ねる」という言葉があるように、「双方向通信」を可能とするネットワークは、「一方方向の通信」すなわち「放送」も勿論可能とするからです。

一方、池田先生は、「光通信」などより「無線ブロードバンド」の方がよいのではないかと考えておられるようですが、コストを計算すれば、殆どの場所でそうはならないと思います。「光通信網を全国津々浦々まで張り巡らすような芸当はNTTだけしか出来ないなら、新規事業者が無線ネットワークで挑戦すればよいではないか」と言われる気持ちは分かりますが、経済的に太刀打ちできないような競争には、誰も名乗りは上げないでしょう。

無線通信には、「電磁波」に特有な物理的制限が多く、「多量の情報を見通しの利かない遠いところまで双方向で飛ばしあう」というような仕事になると、どうしても無理が出てきます。人口密度の小さい米国の中西部やオーストラリア、ロシアや中央アジアの大平原などでは、広大な土地に光ファイバーを張り巡らせるよりは、無線ブロードバンドの方がはるかに有利でしょうが、日本のように海岸沿いの平野部に人口が密集しており、人口過疎の地域は「山また山」で見通しが利かない国では、「無線で解決した方がよい」というような場所は、極めて限られていると思います。

最終的には「コスト対効果の比較計算」を緻密にやることが必要ですが、やや乱暴ながら私の考える具体案の大綱を下記しますので、とりあえず、この案に対する皆様のご批判を頂ければ有難く存じます。

1. 離島を除く日本全土を、A地区(各戸まで光ファイバーを引き込む地域)と、B地区(その他の地域)に分ける。

2. B地域といえども、放送送信局や携帯電話の基地局を含む無線施設のあるところには、必ず光ファイバーを引き込む。

3. デジタル放送受信は、日本の全国民が、「通常の地上波放送」「光ファイバー」「衛星からの直接受信(但し番組数は限られる)」のいずれかの方法で行うことが出来るようにする。

4. 幹線であるか加入者回線であるかを問わず、また、現在使われている線路が銅線であるか光ファイバーであるかを問わず、「物理的に重複して敷設することが極めて不経済とみなされる伝送路」の建設、保守、運営に関する仕事は、NTTから切り離し、国が直接出資する国有の独立企業体に所有せしめる。(但し、保守・運営は、入札によって、NTTを含む民間企業に委託する。)

5. 光ファイバーが引き込まれなかった家は、既存の銅線を使ったADSL、既存のケーブルTV施設、または、新設の無線ブロードバンド(WiMAXやHSPA+、LTE等)によって、高速インターネットサービスにアクセスする。

6. 全国に数万あるといわれる中小の地方放送施設(中継局)は、全て中央放送施設と光ファイバーで結ばれるようにする。これによって、これまでのような伝送時間の遅延はなくなり、隣接する放送局間でも異なった周波数を使用する必要はなくなる。この為、これまで不可能とされていたSFN(全国を一つの周波数でカバーする方式)が可能となり、黄金周波数帯といわれる700MHz 帯で大量の周波数が余ってくる。(*1)

7. この周波数は、低出力の小セル無線通信(WiFiやFemto Cell)に全面的に開放(*2)し、効率のよいFMC(Fixed Mobile Convergence)が全国規模で展開されるようにする。

8. 上記をベースとして、各家庭では、PCやモバイル端末のみならず、全ての家電機器がWiFiで結ばれるのが普通になる一方、多くの人達が出入りする建物の内部には、SON*対応のPico CellやFemto Cell(*3)が隙間なく施設され、これが全国に展開される光通信網と一体化していくことが望ましい。

9. 上記と並行して、国は、他国の例に倣い、日本中の過疎地域に、「既存・新規の各事業者が相乗りで利用出来るような鉄塔群」を建設し、携帯電話もサポートする無線ブロードバンド網が、全国津々浦々にいきわたるよう支援する。

上記が実現されれば、日本が「他国をはるかに凌駕した最先端のICTインフラを整備した国」になることは100%間違いありません。インフラが整えば、その上に多くの最先端サービスが百花繚乱のごとく出現していることもまた間違いないと思います。そうなると、住む場所の如何を問わず、且つ老若男女を問わず、国民のICTリテラシーも、一歩一歩着実に向上していくでしょう。

今こそ、国を挙げて大きな決意をし、不退転の覚悟でこのプロジェクトに取り組むべきと考える所以です。

*1 「電波埋蔵金を求めて」と題する2008年8月8日の私のブログでは、「SFNには技術的な問題があるのでMFSが望ましい」というある公文書の記事に噛み付いておりますが、現在のように「数万局にも及ぶ地方の小さな中継局をリレー式に放送波でつないでいく」という方式に固執している限りは、成る程SFNでは技術的問題を生ずるでしょう。

*2 このような使い方は「ホワイトスペース利用」と呼ばれ、現在米国で大いに議論されていますが、現時点で770-806MHzの合計36MHzものの帯域を占有している「FPU」と「ラジオマイク」についても、このホワイトスペース利用への切り替えが検討されるべきです。

*3 SON(Self Organized Network)とは、現在3GPP(ITUの標準化機関)で世界標準化が検討されている将来技術で、緻密な計算と試行錯誤を必要としているモバイル通信網の置局計画を飛躍的に容易にし、周波数の有効利用を徹底して、無線通信容量を飛躍的に拡大することが期待されています。これについては、「4Gには抜本的な発想の転換が必要なのでは」と題する2008年5月9日の私のブログでも若干触れていますので、是非ご参照ください。

松本徹三

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