よみがえる社会主義 - 池田信夫

2009年04月24日 13:19

Rasmussen Reportsの世論調査によると、アメリカ人のうち「社会主義より資本主義のほうがいい」と思っている人は53%で、20%は「社会主義のほうがいい」と思っているそうです。特に30歳以下では、資本主義が37%に対して33%が社会主義と、拮抗しています。


資本主義の本家であるアメリカでこうなのだから、いま日本で同じような調査をやったら、社会主義が上回るかもしれない。共産党員が増え、若者は「派遣村」などで労組に取り込まれ、「階級闘争」を叫ぶ手合いもいます。政府もバラマキ財政政策に加えて、「産業再生法」で日立やエルピーダに資本注入する方向です。日本は社会主義に向かって大きく舵を切ったようにみえます。

若者が社会主義にひかれるのは理解できます。それはかつて学生運動が盛り上がった原因と同じです。貧しい労働者を見ていると「労働者を搾取している資本家を倒して彼らの金を労働者に分配しろ」という話は感覚的にわかりやすい。それは人々の部族感情に訴えるからです。これに対して社会主義(統制経済)の弊害はわかりにくく、経済学のロジックがわからないと理解できない。70年前に社会主義の不可能性を証明したハイエクは嘲笑され、講演では卵をぶつけられました。

いいかえると、社会主義は一種のモラルハザードなのです。モラルハザードとは「行動のコストを負担しないで自己の利益を追求すること」です。たとえば派遣村に集まった浮浪者に役所が無差別に生活保護を与えることはマスコミに賞賛されるが、そのコストは税金だから広く分散されて見えない。このように個別の(事後的な)利益が見えやすく、全体の不利益が見えにくい構造は公共的意思決定にはありがちです。個別には大きくない無駄づかいが集積すると、経済全体が非効率になり、社会が崩壊してしまうのです。

しかし、このように人々が広く薄く負担するコストは見えにくく、それを改革するインセンティブもない。改革のコストは個人が負担するが、その成果はすべての人に分散するからです。無駄はゆっくり集積し、そこには既得権が発生するので、社会主義という名のモラルハザードが自壊するには、ロシア革命から70年以上の時間が必要でした。イギリスが労働党政権の「大きな政府」路線で衰退し始めてからサッチャー政権で改革に着手するまでには、半世紀以上の時間がかかりました。

日本政府は(自覚しているかどうかは別として)社会主義への道を歩み出しました。政権交代しても、民主党の半分もモラルハザードの見本のような「万年野党」の残党だから、期待はもてません。ロシア革命やイギリスに比べると、日本はまだ長期停滞に入ってから20年足らず。人々の目が覚めるには、まだ時間がかかりそうです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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