日本は国策としてEV(電気自動車)産業にコミットするべき(前編:トヨタとホンダのハイブリッド戦争 - 小川浩

2009年06月09日 10:46

2009年5月18日にトヨタは、メディア向けの新型「プリウス」発表会で、ホンダのハイブリッドカー(HV)であるインサイトを、徹底的にこき下ろすという寸劇を行ったことをご存じの方も多いかと思います。

トヨタは、この寸劇で、まずHVを分かりやすく説明しています。HVをペダルが二組ある、二人乗りの自転車として、それぞれの漕ぎ手を、内燃機関としてのエンジンとモータに見立てています。
そして、トヨタは自社のプリウスを、二人の漕ぎ手が同時でも一人ずつでも力強く漕ぎ続けられるのに対して、インサイトは二人同時でもよろよろし、モータ役一人ではよろよろとしか走れない様子を描いています。

トヨタがなぜここまで過激な比較広告(もちろんあからさまにインサイトという商品名を出してはいないのですが)を行ったのでしょうか?


■ トヨタの逆鱗に触れたホンダ

それは、トヨタのプリウスが10年かけて育ててきたHV市場を、ホンダのインサイトがスポイルしかねないと判断したためです。

プリウスのHV構造は、まずエンジンとモータが駆動機関としては同格であることが特長で、モータだけでも(=EVモードで)2キロ以上も走行できます。
クルマの燃費はストップ&ゴーの繰り返しが一番悪くなる(だから高速道路での走行は渋滞の多い都心の方が通常燃費が良くなる)、だから初期のHVでは発進時のエンジンのアシストをモータが行うことで燃費を良くするしかけでした。現在のプリウスは、エンジンと駆動用のモータに加えて発電用のモータ(とバッテリー)を持っており、エンジンで走っているときには発電用のモータを回すことで蓄電しています。そして十分な大きさを持つ強力な駆動用モータを使ったEVモードで、先述のように2キロも走ることが可能なのです。

ところがインサイトは、エンジンに比べて遥かに脆弱なモータしか持っておらず、発進時のアシストに専念する構造です。EVモードもあるようですが、わずかな距離しか走れません。つまり、電動アシスト付き自転車の構造をクルマに応用したようなものです。トヨタからすればこれは10年前の技術であり、それをいまさら(あたかもプリウスと同格のような)HVであると広告宣伝されれば、これまでの努力を無にされたように思うのも当然です。

■ メッセージングを間違えたホンダ

まあ、スタイリングをみても、あえて5ナンバー(プリウスは3ナンバー)の車格でリリースしたことをみても、ホンダはプリウスの低価格版路線ということで、”なんちゃってハイブリッド”機構を取り入れてみたのでしょうが、僕から言わせれば彼らはマーケティングメッセージを間違えました。
HVなのにプリウスより安い、というマーケティングメッセージは、前述のとおりトヨタからすれば憤懣ものであり、到底受け入れられない。そこで結局トヨタは240万相当のプリウスを200万程度まで値下げし、冒頭の寸劇にみられるようなインサイトの露骨なまでのこき下ろしに走ったのです。(同時にトヨタはプリウスを、比較級を使って(笑)スーパーハイブリッド、と評しています)

この措置には賛否両論ありますが、僕は今回に限ってはトヨタの肩を持ちます。というより、繰り返しますがホンダはマーケティングメッセージを間違ったと思います。プリウスと対等、みたいな印象を出そうとするから虎の尾をふんでしまうのです。
本来であれば、ホンダは自らをなんちゃってHVと言ってしまえば良かった。それで燃費も下がるし安いでしょ、何が悪いの?と言ってしまえばトヨタを怒らすことも無かった。もちろんそれはナマのいい方なので、オブラードにくるんでいえば、

例えば:
LHV(ライト・ハイブリッド)
MHV(マイルド・ハイブリッド)
HAV(ハイブリッド・アシストカー)
などのような感じです。

つまり、ガソリン車とEVの間にHVがあるように、ガソリン車とHVの間の商品として売り出せば、トヨタを怒らせず、ニッチカテゴリーではあるが、着実な成長分野として育てる余地を得られたと思うのです。

■ イノベーションのジレンマに陥らないには

さて、僕が本当に言いたいことは、実はトヨタとホンダのHV戦争のことではなく、ホントはそんなことをやってる場合じゃないし、中途半端なエコ減税を日本政府もやってる場合ではない、ということです。
時代は既に、HVの先にまで来ている。僕がここで何回かとりあげているEVの本格的普及がもうすぐそこまで来ている、という事実を前にして、日本の自動車メーカーは一刻も早く、このモータリゼーションの”向こう側”を目指さなければならないし、国を挙げてそれを応援しなければならないと思っています。
トヨタが没落すれば、それは日本の存亡の危機です。そしてこのEVはこれまでの車社会のエコシステムとは別のエコシステムにある製品で、クルマメーカーが単独でなんとかできる世界でもないということです。

僕はその側面を、ITベンチャー起業家としての目をもって、後編で表現したいと思います。
キーワードはバッテリー技術とスマートグリッドです。
スマートグリッドについては先日のシンポジウムでGoogleの村上会長のプレゼンにもあったように、まさしくこれからの社会インフラの動向を左右するビッグワードです。

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