2009年を「ネット選挙」元年に ― 米重克洋

米重 克洋

衆議院解散・総選挙の日程が決まり、政権交代の機運も高まっている今日ですが、政治家のネット利用シーンも拡がってきた感があります。

ブログの利活用はもう当たり前、最近は一歩進んで[1]ミニブログ「twitter」の導入[2]PayPalを活用したネット献金[3]ネットでの「政見放送」の開始、など今まで見られなかった新しいネット選挙のあり方が始まっています。


今年4月、衆議院神奈川県第11区から出馬予定の民主党・横粂勝仁氏(対抗馬は小泉進次郎氏など)がPayPalによるネット献金システムを導入しました。これは、私が個人的に知人の横粂氏に提案して導入していただいたものですが、ネットを通じて任意額をカード献金できる仕組みとしては日本初だったと思います。

これ以降、先の横須賀市長選にて当選した吉田雄人氏、神奈川県第2区で民主党から出馬予定の三村和也氏なども相次いで導入しています。

PayPal自体はアメリカ発のサービスですが、

・100円でも1000円でも完全に任意な額を寄付することができる
・VISAやJCBなど複数種類のカードに対応している
・寄付者が手数料を負担する必要がない

などの点で、現在国内で政治家のネット献金に利用できるシステムとしては最も優れています。楽天がLOVE JAPANという新しい政治家データベース/ネット献金サイトを立ち上げたりしていますが、ネット献金だけを見れば当面手軽なPayPalに利用者が多く集まるでしょう。

また、twitterについては多忙でブログに時間的なリソースを割けない政治家にとって使いやすいサービスと言えるかもしれません。使い方としては基本的に「つぶやく」だけですから、腰を据えて心に訴える美文を書こうなどと思う必要もありません。使い方が手軽な分、発信されるメッセージも気軽なものですから政治家と国民の「心理的距離」を縮めるのには一定の役割を果たしているのではないでしょうか。

現在利用している政治家としては、自民党の橋本岳衆議院議員、民主党の浅尾慶一郎藤末健三両参議院議員、逢坂誠二衆議院議員などがいますがやはり放置されることなくマメに更新されています。twitter自体は日本国内でまだそこまで流行していない感がありますが、それでも上記の各議員のつぶやきは数百人~千人近い方にフォローされており、関心を集めています。

最後の「ネットでの政見放送」については先の都議選で東京青年会議所(JC)が、また、次期総選挙に向けて早大マニフェスト研究所が神奈川県内で導入したりしています。これは従来からYouTubeなどをアピールに活用していた政治家の存在を考えれば、最も自然なネット選挙のあり方と言えるかもしれません。

2007年の東京都知事選では外山恒一候補の政見放送がYouTubeにアップされ、選管が削除を求めるなどの事件がありましたが、政見放送の趣旨からすればネット上にアップされて良くないことは何もないはずです。そうした旧い法律と現状のギャップを埋める取り組みとして「ネットでの政見放送」には期待が持てます。

ただ問題なのは、ネット献金にしてもtwitterにしても選挙制度に縛られすぎることです。

まずtwitterについてですが、従来のサイトやブログ同様、告示日以降のいわゆる「選挙期間」中に更新することが出来ません。本来、有権者が候補者に対して関心を持つのは選挙期間ですが、その間に候補者がなぜ情報発信できないのか。この問題は既に私が提起するまでもなく論じ尽くされたものですが、なかなか解決されません

また、政治家個人のネット献金についてはそもそも小選挙区制度と馴染みにくい側面があります。日本の総人口を全国300の小選挙区数で割れば1選挙区あたりわずか40万人ほどになってしまいますが、有権者数はそれよりも更に少なくなります(冒頭に挙げた神奈川県第11区の有権者数も40万人弱)。

アメリカでオバマ現大統領の陣営が中心になって、3億人の国民に対してネット献金を呼びかけました。併せてSNSなどをフル活用した草の根運動を展開したわけですが、これと同様の成果をたかだか40万人の小選挙区で得るのはほぼ不可能に近いと言えます。

こうしたことから、私はネット献金をはじめとする「ネット選挙」を本格的なものにするひとつの方法として、政党単位で全国規模のネット利活用を進めるべきだと考えています。

現状ほぼ二大政党制が確立した現状では、政党は党首を「首相候補」とし、政権公約即ちマニフェストを掲げて戦います。そこで、各政党は自党の首相候補やマニフェストへの支持を募ります。そのためのツールとして活用すべきなのがPayPalなどのネット献金システムではないでしょうか。

自民党、民主党ともに党内でネット献金のあり方を考える検討会を開いているようですが、実例が既にある以上次期総選挙から各党の中央が主導してネット献金を行うべきです。「麻生首相」か「鳩山首相」かを問うのであれば、PayPalや楽天のネット献金システムを導入し、1億2000万国民に対して浄財の寄付を呼びかける取り組みがあっても良いはずです。これは、現行法下でも何の問題もなく出来ることですから、そろそろ検討段階から実行段階に移すことを期待します(民主党はネット献金を2000年から”研究”していると聞きましたが、9年間何をやっているのでしょうか)。

前回2006年の参院選では、それ以前まで選挙期間中更新が控えられていた政党サイトが「政党の政治活動の一部」という新解釈に基づき更新されるようになりました。総務省もそれを追認しているようです。政党も現行法下でクリアできる障壁はクリアして旧い法律を”なし崩し”にすることは出来るわけですから、次回総選挙でもそうしたブレークスルーを期待したいところです。

また、twitterやブログ、サイトの更新が規制される問題については総選挙後の国会で解決していただきたいものです。総選挙で各党・各候補者が現行法下で出来る取り組みを競い、選挙が終われば公職選挙法などの法改正を行う。そうして2009年を「ネット選挙」元年にしていただきたい。私はそう願っています。

米重克洋(JX通信社社長兼CEO/学習院大学経済学部3年)

コメント

  1. アンチ巨人、アンチナベツネ より:

    ネット選挙が進まないのは、ひとえに電通などの大手広告代理店、民放テレビ局が抵抗しているからでしょう。総選挙は彼らのドル箱中のドル箱です。政党からテレビCMなどに莫大なお金が流れます。公金がメディア業界の高給に化けるということです。官僚批判もよいのですが、若い経営者などに、このあたりの日本の矛盾を広く国民に啓蒙していただきたいものです。東国原の知事給与が年間1400万で、テレビ出演料がその3倍以上ですから。しかも政治家枠ですから、出演料がかなり安く設定されています。現状は自民も民主もテレビの奴隷です。国滅びてメディア利権残る、になりつつあります。

  2. 海馬1/2 より:

    ネット(双方向通信)は無秩序であるのが前提なので、
    政治のような世論統制の道具には向かない。
     あきらかな、中国工作員の偽装ネットウヨ発言であっても、
    ウケル要素や空気読んだネタであっても、平気で暴走・炎上してるw
     

  3. 海馬1/2 より:

     >政党単位で全国規模のネット利活用を進めるべきだと

     それは、単に、「会報紙の電子化」でしかないのではないですか?
    選挙毎に強制的に各党のマニフェストを全アドレスに送信するのですか? それでも、スパムとして受信拒否されるわけですが。 

  4. 米重克洋 より:

    コメントありがとうございます。

    >単に、「会報紙の電子化」でしかないのではないですか?

    それは違います。文中でも述べていますが、党中央のサイトでネット献金などを導入すればよいと言うことです。小選挙区では母数が小さく成り立ちづらいから、全国的に見られるサイトで使えばよい、と言うのが私の考えです。

  5. 松本徹三 より:

    「親譲りの地盤や金がなければ選挙戦は戦えないという状況を打破するために、ネットの力を活用できないか」という思いは、私も強く持っています。しかし、今回の選挙は時間がなく、また、今更既存政党からの立候補者を応援してみても意味が無いようにも思えます。将来、もっと論点の分かれた選挙が行われる時に、「ネットの力による応援がなければ当選がおぼつかない候補者」を助けられるよう、今から方策を考えて準備をしておく事が必要と考えます。