子ども手当を教育バウチャーに - 池田信夫

2009年08月25日 23:00

「豹変」という言葉は、日本語ではあまりいい意味で使われませんが、もともとは易経の「君子は豹変し、小人は面を革む」という言葉からきたもので、豹変とは「豹の毛が抜け替わるように全面的に変化する」という意味です。民主党も、選挙向けにはポピュリズムをかかげるのはしょうがないとして、政権をとったら君子豹変して、合理的な政策に転換してほしいものです。最大の問題は、自民党から集中攻撃を受けている「子ども手当」です。


今でも児童手当や扶養控除はあるので、それをやめて一律の子ども手当にすることは、子どものいない家庭から子だくさんの家庭への所得移転になるばかりでなく、これまで児童手当のもらえなかった高額所得者にも支給するので所得再分配は逆進的になります。毎年31万2000円を中学卒業まで出すのだから、出産手当の55万円とあわせると、子どもが2人いれば1世帯に1046万円もの税金を支出することになります。

そもそもわからないのは、この手当は何のために出すのかということです。民主党のマニフェストを見ると、子ども手当を高校教育の無償化や大学の奨学金などと並べて「すべての子供たちに教育のチャンスを作ります」と書かれています。それならこういう無目的なバラマキではなく、教育バウチャーとして使途を限定すべきでしょう。ところがバウチャーには労組が反対しているので、こういう奇妙な手当になったものと思われます。

特に今、待機児童が2万人を超えて問題になっている保育所には、バウチャーが有効です。保育所は国と県と市町村から三重に補助金を受け、地域が割り当てられ、保育料も所得に比例するなど複雑に規制されているため、非常に高コストで自治体が作りたがりません。そもそも市場経済では待機児童など起こりえないはずで、これは保育所が(公立・私立を問わず)社会主義によって運営されている証拠です。他方、無認可保育所は補助金がもらえないため、高価でサービスの質が悪い。

このような補助金と規制を廃止し、保育園をすべて私立にして保育料を親が全額支払い、それをバウチャーによって補助するのです。保育所ではなく親に補助金を出し、親が保育所を選ぶことによって競争原理が働けば、超過需要のある市場には新規参入が起こって待機児童はなくなるはずです。こうした「直接補助方式」の導入は、2006年に規制改革・民間開放推進会議の第3次答申でも提案されました。

しかしこの効率の高さゆえに、バウチャーはどこの国でも労組に反対され、厚生労働省も反対しています。こういうとき彼らが反対する理由は「親は教育の質を判断できないので、商業主義がはびこる」とか「受験目当ての詰め込み教育になる」というものです。それなら、親が教育内容を理解できて受験戦争の心配のない保育所ならいいでしょう。もちろんサービスの質には一定の基準を設け、それを満たした保育所はすべて認可してバウチャーの対象にするのです。これはイギリスでも、労働党政権が導入しました。

現在の保育所には莫大な補助金が投入されており、自治体によって違いますが、幼児一人あたり年間20~30万円にのぼります。これを廃止してバウチャーに切り替えれば、問題の多い財源問題も解決します。民主党が「2010年度から半額実施する」と公約した子ども手当は、成立早々の鳩山内閣にとって2.6兆円の財源をひねり出す大問題になります。「国債の増発はしない」と約束した鳩山氏にとって、選択肢は限られているでしょう。既得権をスクラップしないで補助金のビルドばかりやっていたら、予算編成は行き詰まります。民主党は政権をとったら君子豹変して、バラマキ子ども手当を教育バウチャーに変えてはどうでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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