鳩山由紀夫氏の奇妙な「友愛」 - 池田信夫

2009年08月27日 18:39

民主党の鳩山代表がNYタイムズに寄稿しています。内容は『VOICE』9月号の論文を抄訳したものと思われますが、この奇妙な論文を海外の首脳は理解できるのでしょうか。鳩山氏はまず、お得意の「友愛」の概念で「グローバル資本主義」を批判します。

Fraternity as I mean it can be described as a principle that aims to adjust to the excesses of the current globalized brand of capitalism and accommodate the local economic practices that have been fostered through our traditions.

Economist誌も指摘したように、このfraternityの使い方はおかしい。フランス革命のfraterniteの語源は「兄弟」で、これはキリスト教における信徒の共同体やフリーメーソンのような結社をあらわす言葉です。つまり友愛というのは、特定の目的を共有する仲間が国家や身分を超えて対等に結びつく原理であり、むしろ鳩山氏の指弾する「グローバリズム」の原型になったものです。これを「地域の伝統」を守る根拠にする鳩山氏は、友愛の概念を逆に理解しているのではないでしょうか。また彼は、経済学を次のように批判します。

In terms of market theory, people are simply personnel expenses. But in the real world people support the fabric of the local community and are the physical embodiment of its lifestyle, traditions and culture. An individual gains respect as a person by acquiring a job and a role within the local community and being able to maintain his family’s livelihood.

「市場理論の用語によれば、人々は単なる人件費である」? 英語として理解できないが、おそらく「合理的経済人」を批判して、人間は文化や伝統の中で生きているといいたいのでしょう。これも経済学を批判するときの古いステレオタイプですが、fraternityの想定するのはそういう自律的個人です。キリスト教もフランス革命も、よくも悪くも普遍主義的な原理にもとづいて人類を解放しようとするもので、特定の文化や伝統との関係をもたない個人に依拠する思想です。

エドマンド・バークは、こうしたフランス革命の啓蒙主義的な人間観について、伝統から切り離された合理的個人の「人権」を絶対化することは危険だと批判しました。鳩山氏がバーク的な保守主義を主張するのであれば、それなりに立派な考え方ですが、それは友愛の対立概念なのです。

さらに混乱するのは、彼が「アメリカ主導のグローバリズム」に対抗して「東アジア共同体」の設立を提唱する部分です。

Today, as the supranational political and economic philosophies of Marxism and globalism have, for better or for worse, stagnated, nationalism is once again starting to have a major influence in various countries. As we seek to build new structures for international cooperation, we must overcome excessive nationalism and go down a path toward rule-based economic cooperation and security.

ここでは逆に「過剰なナショナリズムを克服」する概念として友愛が語られます。こっちのほうが本来の友愛の概念に近いが、グローバリズムはだめで、アジアのリージョナリズムならいいのでしょうか。一つの概念がこうも融通無碍に正反対の意味で使われるのでは、ほとんど意味をなさないでしょう。

率直にいって、これは英文としては高校生の作文レベルです。スタンフォード大学の博士号をもつ鳩山氏は、史上もっとも高学歴で世界に通用する首相として海外からも期待されていますが、この論文を読んだ海外の首脳は、ほとんど内容が理解できないでしょう。Fraternityというキリスト教的な概念を、きわめて日本ローカルな話と無造作に接合して、民主党の選挙めあてのポピュリズムを正当化しようとしているからです。

私は英米型の資本主義が理想の経済システムだとは思わないし、日本がそれとは異なるモデルを追求することも意味があると思います。しかしそれには、少なくとも標準的な資本主義の考え方を理解し、その長所や欠陥を踏まえないと、生産的な議論にはならない。この論文のような「床屋政談」では、海外の首脳も日本の国民も説得できないでしょう。

特に議論を混乱させるのは、ご都合主義的に曖昧に使われる「友愛」です。この論文を読むと、鳩山氏自身がその意味を理解していないようなので、他人が理解できないのは当然です。政権についたら、こういう観念的な言葉を使わないで、わかりやすく具体的に政策を語ってほしいものです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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