政府系研究機関をシンクタンクに - 池田信夫

池田 信夫

民主党政権になって「日本最大のシンクタンク」霞ヶ関を使うのは、民主党になりました。他方、もともと政策研究機関をもっていない自民党は徒手空拳となりました。かつての細川政権のときも、国会では政策論争は行なわれず、もっぱら首相の金銭スキャンダルを暴く見苦しい論戦が繰り返されました。これでは二大政党が政策を競うメリットはなく、官僚が政策を実質的に立案する状況は変わりません。


日本でもシンクタンクが必要だ、とかねてからいわれていますが、日本のコンサルは官僚からの委託調査で営業を成り立たせる「研究ゼネコン」と化しているため、霞ヶ関に対抗する存在にはなりえない。政策を立案する独立行政法人として経済社会総合研究所(ESRI)、経済産業研究所(RIETI)、財務総合政策研究所の三つがありますが、規制改革会議でも「機能が重複しており、官庁からの出向研究員が多くて独立性が低い」と指摘されています。

私も2004年までRIETIに所属していたのですが、出向職員も当初は「霞ヶ関全体に提言するシンクタンク」として、役所に対しても自由にものをいう機運がありました。ところが研究所を統括する経産省の北畑隆生官房長(当時)が、自民党の意向を受けて研究員の言論に圧力をかけ、懲戒処分などによって言うことを聞かせようとしたため、青木昌彦所長はじめ創立メンバーはほとんど辞めてしまいました。

ESRIの初代所長だった浜田宏一氏も、「研究員が本省のほうばかり見て仕事をするような研究所では、まともな研究はできない」とあきれて、最初の2年の任期で辞任しました。若林亜紀氏の勤務していた労働政策研究・研修機構では、研究員が不足している分を若林氏のような事務職員で補充し、彼女が研究して厚生労働省の方針と違う結論を出すと、その報告書は抹殺されたそうです。

しかし私の印象では、個々の研究員はまじめに研究をやろうとしており、彼らの能力はきわめて高い。初期のRIETIは経済産業省の職員の異動希望先のトップになるなど、モチベーションも高かったので、本省が干渉しなければ高いレベルの研究が可能です。そこで、こうした独立行政法人を本当に独立にするため、次のような改革をしてはどうでしょうか。

  1. 出向は禁止し、すべて「片道切符」の転籍とする

  2. 予算を握る本省が監督する体制を改め、民間人の理事会で監督する
  3. 民間との人事交流を拡大し、民間の資金も導入する
  4. 研究委託を官庁だけではなく民間や政党からも受けることができるようにする

これから欧米のような独立系シンクタンクをつくるのは大変だし、ビジネスモデルが成り立つのはむずかしい。他方せっかく独法にいる優秀な研究員が、本省の顔色をうかがって「官製研究」ばかりしているのは税金の浪費です。政府系研究機関を霞ヶ関から独立させ、中立的な研究ができるように改革すれば、霞ヶ関に対抗してシンクタンクを持ちたい民主党にとっても、野党に転落した自民党にとっても役に立つと思いますが、どうでしょうか。

コメント

  1. 松本徹三 より:

    時期を得た提言ですが、既存の独立行政法人の人事政策などを抜本的に改めることがすぐには出来ないようなら、民間のシンクタンクを新設するしかありません。しかし、そのためには、先ず金が必要です。

    本来なら、真に国の将来を憂う企業人が集まって金を用意するべきなのですが、企業人の多くは自社の為になる事を先ず考えざるを得ず、そうなると研究や提言の方向性にバイアスがかかってしまう可能性があります。(例えば、人事が偏ったり、金を出した企業が喜ばない提言は切り捨てられるなどのことがおこります。)

    大きな方向性をあらかじめ定めておくことは良いと思いますが、一つのチームがまとめた提言には必ず別のチームが反論を出して議論する(ディベート方式)などのユニークな手法を取り入れて、自由闊達な議論がなされるようにすべきです。)

    尤も、その前に、万事がサラリーマン化している現在の日本に、そのような心の寛い企業人が果たして存在するかどうかのほうが疑問ですが・・・。