迷走するモラトリアム論議 - 池田信夫

2009年09月29日 23:45

亀井金融担当相が言い出した「モラトリアム」は、最初はマーケットでも「弱小政党の党首が何を言うか」と一笑に付していましたが、ここにきて具体的な法制化の話し合いが始まり、笑い話ではすまなくなってきました。ただ亀井氏もトーンダウンし、政府が融資契約を一律に凍結する文字通りのモラトリアムではなく、連立3党が昨年末に参院に提出して廃案となった「貸し渋り・貸しはがし防止法」をベースに法案化を進める方向のようです。しかしこれも、かえって不況を長期化させるおそれが強い。


木村剛氏もいうように、中小企業への貸し渋りが起きていることは事実ですが、その原因は亀井氏のいうように銀行が怠慢だからではありません。貸金業法の改正をはじめとする金融規制の強化によって、中小企業向けの融資の主力だったノンバンクが崩壊したことが最大の原因です。これを放置したまま銀行に融資を強制したり、借金を棒引きにさせたりしたら、銀行経営が破綻し、不況はかえって深刻化するでしょう。

中小企業金融というのは、基本的にハイリスク融資であり、かなりハイリターンでない限り、事業としては成り立たない。それを善意だけで低利融資でやろうとすると、新銀行東京のようにボロボロになってしまいます。商工ローンのようなノンバンクは、荒っぽい融資回収などの問題はあるにしても、今のように大手の支払いが遅れやすい時期には、つなぎ資金を供給して黒字倒産を防ぐ安全弁の役割を果たしていたのです。

ところがノンバンクをサラ金と一緒ににつぶしたことによって、金利の期間構造(短期と長期の金利の相関)にゆがみが生じて、ローリスク・ローリターンの大企業金融と超ハイリスクの闇金融しかなくなり、まんなかの年利15~30%のミドルリターンのビジネスが成り立たなくなってしまいました。このゆがみを是正せずに安易な強権発動をしても、問題はかえって悪化するだけです。

「貸し渋り防止策」は、90年代後半にも金融庁が実施したことがありましたが、その結果、何が起きたでしょうか。銀行は金融庁の顔を立てて中小企業融資の残高を維持するため、資金需要はなくても安全な中小企業に融資をシフトし、危ない中小企業からの資金回収は「貸し剥がし」として非難を浴びるため、公庫融資などに押しつけて逃げた。その結果、大量のゾンビ企業と政府系金融機関の膨大な赤字が生じ、不良債権問題は長期化したのです。

金融副大臣の大塚耕平氏は日銀出身だから、こうした家父長的な金融政策が「失われた10年」の大きな原因だったことを知っているはずです。一度目の間違いはしょうがないが、同じ間違いをもう一度やるのはバカです。日本経済が「失われた30年」に入ることを防ぐためにも、90年代の教訓を生かし、ルールにもとづいた金融政策を堅持すべきです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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