「ブラック会社」はなぜ生まれるのか - 池田信夫

2009年11月25日 07:03

家賃を滞納している借り手を、鍵を変えたりして追い立てる「追い出し屋」を規制する新法が国土交通省で検討されている。たしかに追い出し屋の行動だけみると、サラ金と同じように社会悪にみえるが、こうした「ブラック会社」を規制するだけでは、根本原因を解決することはできない。それは借地借家法や判例による借り手の過剰保護という問題である。


バブル期の記憶がない人も多いので、当時の事件を取材した記録を書いておこう。もとは「地上げ」という言葉はなく、権利関係の複雑な土地の所有権だけを買うことを底地買いと呼び、それを請け負って店子を追い出す業者を地上げ屋と呼んだ。本源的な買い手は大手不動産業者やゼネコンだが、彼らが地主との交渉に出ると地価が上がるので、最上興産のような暴力団のからんだ地上げ屋が、底地を買って借家人を追い立てた。地主が立ち退きを求めて訴訟を起こしても勝てないので、生ゴミを家の前に置くとか街宣車で騒音を出し続けるなどのいやがらせで追い出すしかなかったからだ。

だから追い出し屋を根絶するのは簡単である。家賃を滞納している借り手に対して家主が訴訟を起こしたら、裁判所が借り手に退去を命じればよいのだ。これは事後の正義にもとるようにみえるが、家主が賃貸住宅を建設するインセンティブを高め、結果的には優良な賃貸住宅が大量に供給され、家賃も下がるだろう。これは60年前にフリードマンとスティグラーが提唱した「家賃規制の理論」と同じだ。

この理論はいかにも非人道的にみえるので政治的な攻撃を受けたが、都市経済学の専門家Glaeserもいうように、家賃規制の撤廃によってニューヨークの都市化は進み、優良な集合住宅が建設されて借り手にも大きなメリットがあった。東京の都市化がいまだに進まない大きな原因は、借地借家法による借り手の過剰保護だ。最上興産の暗躍した西新宿6丁目は、10年以上にわたって空き地だらけの焼け跡のような状態だった。

民主党が持ち家に偏した住宅政策を是正して、優良な賃貸住宅を供給する方針を掲げているのは正しい。そのためにやるべきことは追い出し屋の規制ではなく、借り手の過剰保護をやめて市場メカニズムと法の支配を機能させ、ブラックなビジネスを成り立たなくする制度設計である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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