「国の借金が864兆円」といった報道を見ると、「国民一人当たり700万円もの借金・・・。オレんちは4人家族だから2800万円もの借金をこれから税金で返していかないといけないのかー。」と、暗澹たる気持ちになっている方も多いかも知れない。
しかし、普通にビジネスや投資をやっている人は、「国が借金するって、そんなに悪いこと?」と思ったこともあるのではないだろうか。一般企業では借入があるのが普通だし、むしろ借入をせずに自己資本が大きすぎると資本効率が悪いと投資家に怒られるくらいだ。もちろん、借入金を全額返済してゼロにする必要も必ずしも無い。
「こんなに借金や赤字があるのは、民間企業ならとっくに潰れている。」という話も、「政府は民間企業とは違う。いざとなれば増税で国民から取り返せるのだから。」「いや、国債は子孫の負担になる。」といった議論も、一般の企業の感覚で考えると、抽象的で今ひとつ話が噛み合っていないように感じられる。
これは、国の財務情報の開示に大きな問題があるからではないだろうか。
国の財務は、予算の歳入や歳出がいくらといった「フロー」の話がほとんどだ。しかもそれが一般会計や各種の特別会計、政府系の法人等に分かれているから、財政の専門家以外にはわかりにくいことこの上ない。
特別会計に「埋蔵金」があるなんてことが話題になること自体、民間でビジネスをしている人達にとっては奇妙以外の何物でもないだろう。普通の企業で帳簿上計上されてない資産があるなんてことは、あってはならないことだし、帳簿上計上されている資産に今さら気づいたのだとしたら、経営者はアホ呼ばわりされても仕方ないだろう。
普通の企業会計であれば、貸借対照表と損益計算書に企業の(ほとんど)すべてが網羅され、ストックとフローも統合されている。しかし、国の会計については、政治家や政府関係者も含めたほとんどの人が、ストックも含めた全体像を理解していないのではないか?
実は、国は企業会計によく似た方法(公会計)で、貸借対照表を含む「財務書類」を公表している。
国の財務問題について国民も巻き込んだ議論をきちんと行い、適切な財務戦略を策定するには、政府が公表している「国の財務書類」をもっと活用すべきだというのが、今回の私の提案だ。
国の財政についての全容が頭に入っている人が日本に何千人いるか知らないが、企業会計に準じた方法で開示された財務書類なら、駅前の商店街で帳簿をつけているおかみさんから中小企業・大企業の財務経理部門や証券アナリスト・投資家まで、一気に数百万人単位の人が理解できる可能性が広がることになる。
下記は、国の貸借対照表と連結の貸借対照表を図にしたものだが、これを見比べるだけでも、いろんなことが見えて来る。

図表1.国の貸借対照表と連結貸借対照表(クリックで拡大)
例えば、「国」の公債残高と比べると、連結では公債の残高が大きく減っていることがわかるだろう。
これは、現在のところ政府の100%子会社である日本郵政が郵便貯金と簡易保険で300兆円規模の資金を集め、その大半を国債で運用しているため、それが連結消去され、国をグループとして見た場合の資金調達方法が、国債だけでなく、郵貯、準備金等に分散しているからだ。
鳩山政権が日本郵政の民営化を停止したことには賛否両論あるだろうが、国債をこれ以上発行できるかどうかが瀬戸際に来ているのであれば、日本郵政(特に郵貯と簡保)を政府のコントロール下に置いて、資金調達方法の多様性を確保するというのは、財務的には素直な考え方だとも言える。
(ただし、日本郵政を政府のコントロール下にとどめる場合でも、郵貯と簡保の株式上場して一部でも政府以外が保有した方がいい、と私が考えているのは、以前書いたとおり。)
同様に、特別会計に「埋蔵金」があっても、その大半が国債で運用されているのであれば、「国の財務書類」では(連結的に)消去されることになる。つまり、それは「埋蔵金」などではなく、日本郵政と同じく、元から「国のグループ内の貸し借り」に過ぎないことになる。
民間で普通に行われているような真っ当な財務戦略を考える場合には、「事業仕分け」のような「フロー」の検討だけでなく「ストック」も総合的に考えることが必要なのだ。
JALなどの業績が悪化した巨大企業の調査(デューデリジェンス)でも、フローの業績面だけでなく、資産のリストラなども含めた総合的な再建策が検討されるのは当たり前のことだ。
また、最近よく問題になる、下記の「GDPに対する債務残高」もそうだ。

図表2.債務残高の国際比較(GDP比、出所:財務省)
「稼ぎ」(GDP)に対してあまりストックの借金が多いとフローの利払い負担も大きくなるので、もちろんGDPに対する債務残高が大きいのはいいこととは言えない。
しかし、GDPというフローと債務というストックの一部を比較しても、それは一面的な見方に過ぎない。
例えば、GDPが同じ100兆円であるA国とB国で、A国が80兆円、B国が2倍の160兆円もの国債を発行していたら、誰もがA国の方が財務状況がいいと思うだろう。しかし、A国の資産が50兆円しかなく(30兆円の債務超過で)、B国の資産が200兆円あるとしたら、見方は全く変わるはずだ。
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前掲の貸借対照表を見ると、国には既に282兆円の資産負債差額(借方)がある。つまり282兆円の「債務超過」だということだ。
しかし、これはあくまで帳簿上の話であり、実態として資産にどの程度の価値があるのかにも注目する必要がある。
国の財務書類の基準を定めた「省庁別財務書類の作成について」によると、河川や道路等の「公共用財産」については取得原価に近い形で計上されているが、「国有財産」については国有財産台帳に基づいて5年毎に時価で修正されることとなっている。このため、国が大昔に取得したタダ同前の価格で計上されている土地ばかりではなさそうだ。
しかし、貸借対照表に計上されている国有財産の土地の金額は、わずか18.4兆円でしかない。国民一人当たりにすると、わずか15万円である。
ここで、皇室への失礼はお許しいただいた上で、イメージしやすい例として皇居の土地の価値を考えてみたい。
皇居は、千代田区のド真ん中、丸の内、大手町や虎の門の隣という日本の超一等地にあるが、Wikipediaの財務省資料の引用によると「国有財産としての皇居の価値は、2146億4487万円」となっている。皇居の面積を1.42平方キロメートルとすると、1平米わずか15万円程度にすぎない。丸の内や大手町の地価公示は、平米1千万円から2千万円はするし、反対側の平河町でも150万円程度だから、皇居の土地だけで10兆円程度の価値はあってもよさそうだ。
行政財産は原則として売却の対象ではないし、10兆円規模の資産がそう簡単に売れるわけもない。むしろ、目一杯高めの評価をして、「国はまだ債務超過ではありません」といった主張が行われる方が不健全だ。
しかし、この皇居の例だけを見ても、貸借対照表計上額が、資産のポテンシャルを最大限に引き出した額になっているとは考えにくい。
公共用財産も加えた国の全土地でも、帳簿計上額は51.2兆円だが、全国の国道や橋などを、再調達価格(今、もう一度同じものを買ったらいくらかかるか?)で考えても、現在の国有地全部を国民一人当たり50万円などではとても買えないのは明らかだ。
つまり、こうした土地の実態としての価値を考えれば、もしかすると国はまだ実質的な債務超過ではないのかも知れない。
ここで私が言いたいのは、「だから、もっと国債は発行できる」とか「もっと財政出動を増やすべきだ」ということではない。「国債はまだ発行できる」「いやもう無理だ」といった議論が、フロー面だけからしか検討されておらず、民間企業のリストラなら当然検討されるはずのストックをも考えた総合的な財務戦略が、国においては考えられてないのではないか、ということである。
また、「皇居を10兆円で売却せよ」と主張しているわけでもないので念のため。(陛下が京都にお戻りになれば、少なくとも京都の人は大喜びするだろうし、皇居の土地を有効活用すれば東京の機能アップや大規模な需要喚起に繋がる可能性も考えられるが、思いつきで議論すべき話ではないだろう。)
他にも国有地はたくさんある。例えば霞ヶ関の不動産を全部民間に売却し、別の民間が新たに建築したビルに転居・賃借することで、どの程度負債が圧縮され、どの程度の需要喚起が発生するか?、といった総合的な国の資産の活用戦略は検討されているのだろうか。
土地の評価がプラスになる可能性ばかりではない。貸付金や出資金に計上されている資産が、実態の無い公営事業等に貸し付けられて回収不能に陥っていないか、等の観点から検討することも必要だろう。
残念なことに、この国の財務書類は、前々期である平成20年3月期のものまでしか開示されていない。複式簿記を用いた一般の企業会計と異なり、フローの概念と資産などのストックがバラバラに管理されてることが、開示までの時間がかかる原因の一つだろう。また、この財務書類は、監査法人はもちろん、会計検査院等の第三者的チェックも行われていないようなので、信頼性が十分に担保されているともいえなさそうだ。
企業会計の知識は広く国民が持ち合わせている。現在は添え物的な扱いの、この「国の財務書類」をより適時に信頼性のある形で開示することで、政治家や役人、財政学者等の専門家だけでなく、国民も広く国の財政状態を理解して議論できるようになるし、また、政府も「財務書類」を中核に据えて、ストックをも含めた総合的な財務リストラ策を策定すべきであると考える。
ご参考資料:
週刊isologue(第33号)日本の国債は「紙くず」なのか?(国の財務書類・貸借対照表編)
http://www.tez.com/blog/archives/001488.html
「こんなに借金や赤字があるのは、民間企業ならとっくに潰れている。」という話も、「政府は民間企業とは違う。いざとなれば増税で国民から取り返せるのだから。」「いや、国債は子孫の負担になる。」といった議論も、一般の企業の感覚で考えると、抽象的で今ひとつ話が噛み合っていないように感じられる。
これは、国の財務情報の開示に大きな問題があるからではないだろうか。
国の財務は、予算の歳入や歳出がいくらといった「フロー」の話がほとんどだ。しかもそれが一般会計や各種の特別会計、政府系の法人等に分かれているから、財政の専門家以外にはわかりにくいことこの上ない。
特別会計に「埋蔵金」があるなんてことが話題になること自体、民間でビジネスをしている人達にとっては奇妙以外の何物でもないだろう。普通の企業で帳簿上計上されてない資産があるなんてことは、あってはならないことだし、帳簿上計上されている資産に今さら気づいたのだとしたら、経営者はアホ呼ばわりされても仕方ないだろう。
普通の企業会計であれば、貸借対照表と損益計算書に企業の(ほとんど)すべてが網羅され、ストックとフローも統合されている。しかし、国の会計については、政治家や政府関係者も含めたほとんどの人が、ストックも含めた全体像を理解していないのではないか?
実は、国は企業会計によく似た方法(公会計)で、貸借対照表を含む「財務書類」を公表している。
国の財務問題について国民も巻き込んだ議論をきちんと行い、適切な財務戦略を策定するには、政府が公表している「国の財務書類」をもっと活用すべきだというのが、今回の私の提案だ。
国の財政についての全容が頭に入っている人が日本に何千人いるか知らないが、企業会計に準じた方法で開示された財務書類なら、駅前の商店街で帳簿をつけているおかみさんから中小企業・大企業の財務経理部門や証券アナリスト・投資家まで、一気に数百万人単位の人が理解できる可能性が広がることになる。
下記は、国の貸借対照表と連結の貸借対照表を図にしたものだが、これを見比べるだけでも、いろんなことが見えて来る。

図表1.国の貸借対照表と連結貸借対照表(クリックで拡大)
例えば、「国」の公債残高と比べると、連結では公債の残高が大きく減っていることがわかるだろう。
これは、現在のところ政府の100%子会社である日本郵政が郵便貯金と簡易保険で300兆円規模の資金を集め、その大半を国債で運用しているため、それが連結消去され、国をグループとして見た場合の資金調達方法が、国債だけでなく、郵貯、準備金等に分散しているからだ。
鳩山政権が日本郵政の民営化を停止したことには賛否両論あるだろうが、国債をこれ以上発行できるかどうかが瀬戸際に来ているのであれば、日本郵政(特に郵貯と簡保)を政府のコントロール下に置いて、資金調達方法の多様性を確保するというのは、財務的には素直な考え方だとも言える。
(ただし、日本郵政を政府のコントロール下にとどめる場合でも、郵貯と簡保の株式上場して一部でも政府以外が保有した方がいい、と私が考えているのは、以前書いたとおり。)
同様に、特別会計に「埋蔵金」があっても、その大半が国債で運用されているのであれば、「国の財務書類」では(連結的に)消去されることになる。つまり、それは「埋蔵金」などではなく、日本郵政と同じく、元から「国のグループ内の貸し借り」に過ぎないことになる。
民間で普通に行われているような真っ当な財務戦略を考える場合には、「事業仕分け」のような「フロー」の検討だけでなく「ストック」も総合的に考えることが必要なのだ。
JALなどの業績が悪化した巨大企業の調査(デューデリジェンス)でも、フローの業績面だけでなく、資産のリストラなども含めた総合的な再建策が検討されるのは当たり前のことだ。
また、最近よく問題になる、下記の「GDPに対する債務残高」もそうだ。

図表2.債務残高の国際比較(GDP比、出所:財務省)
「稼ぎ」(GDP)に対してあまりストックの借金が多いとフローの利払い負担も大きくなるので、もちろんGDPに対する債務残高が大きいのはいいこととは言えない。
しかし、GDPというフローと債務というストックの一部を比較しても、それは一面的な見方に過ぎない。
例えば、GDPが同じ100兆円であるA国とB国で、A国が80兆円、B国が2倍の160兆円もの国債を発行していたら、誰もがA国の方が財務状況がいいと思うだろう。しかし、A国の資産が50兆円しかなく(30兆円の債務超過で)、B国の資産が200兆円あるとしたら、見方は全く変わるはずだ。
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前掲の貸借対照表を見ると、国には既に282兆円の資産負債差額(借方)がある。つまり282兆円の「債務超過」だということだ。
しかし、これはあくまで帳簿上の話であり、実態として資産にどの程度の価値があるのかにも注目する必要がある。
国の財務書類の基準を定めた「省庁別財務書類の作成について」によると、河川や道路等の「公共用財産」については取得原価に近い形で計上されているが、「国有財産」については国有財産台帳に基づいて5年毎に時価で修正されることとなっている。このため、国が大昔に取得したタダ同前の価格で計上されている土地ばかりではなさそうだ。
しかし、貸借対照表に計上されている国有財産の土地の金額は、わずか18.4兆円でしかない。国民一人当たりにすると、わずか15万円である。
ここで、皇室への失礼はお許しいただいた上で、イメージしやすい例として皇居の土地の価値を考えてみたい。
皇居は、千代田区のド真ん中、丸の内、大手町や虎の門の隣という日本の超一等地にあるが、Wikipediaの財務省資料の引用によると「国有財産としての皇居の価値は、2146億4487万円」となっている。皇居の面積を1.42平方キロメートルとすると、1平米わずか15万円程度にすぎない。丸の内や大手町の地価公示は、平米1千万円から2千万円はするし、反対側の平河町でも150万円程度だから、皇居の土地だけで10兆円程度の価値はあってもよさそうだ。
行政財産は原則として売却の対象ではないし、10兆円規模の資産がそう簡単に売れるわけもない。むしろ、目一杯高めの評価をして、「国はまだ債務超過ではありません」といった主張が行われる方が不健全だ。
しかし、この皇居の例だけを見ても、貸借対照表計上額が、資産のポテンシャルを最大限に引き出した額になっているとは考えにくい。
公共用財産も加えた国の全土地でも、帳簿計上額は51.2兆円だが、全国の国道や橋などを、再調達価格(今、もう一度同じものを買ったらいくらかかるか?)で考えても、現在の国有地全部を国民一人当たり50万円などではとても買えないのは明らかだ。
つまり、こうした土地の実態としての価値を考えれば、もしかすると国はまだ実質的な債務超過ではないのかも知れない。
ここで私が言いたいのは、「だから、もっと国債は発行できる」とか「もっと財政出動を増やすべきだ」ということではない。「国債はまだ発行できる」「いやもう無理だ」といった議論が、フロー面だけからしか検討されておらず、民間企業のリストラなら当然検討されるはずのストックをも考えた総合的な財務戦略が、国においては考えられてないのではないか、ということである。
また、「皇居を10兆円で売却せよ」と主張しているわけでもないので念のため。(陛下が京都にお戻りになれば、少なくとも京都の人は大喜びするだろうし、皇居の土地を有効活用すれば東京の機能アップや大規模な需要喚起に繋がる可能性も考えられるが、思いつきで議論すべき話ではないだろう。)
他にも国有地はたくさんある。例えば霞ヶ関の不動産を全部民間に売却し、別の民間が新たに建築したビルに転居・賃借することで、どの程度負債が圧縮され、どの程度の需要喚起が発生するか?、といった総合的な国の資産の活用戦略は検討されているのだろうか。
土地の評価がプラスになる可能性ばかりではない。貸付金や出資金に計上されている資産が、実態の無い公営事業等に貸し付けられて回収不能に陥っていないか、等の観点から検討することも必要だろう。
残念なことに、この国の財務書類は、前々期である平成20年3月期のものまでしか開示されていない。複式簿記を用いた一般の企業会計と異なり、フローの概念と資産などのストックがバラバラに管理されてることが、開示までの時間がかかる原因の一つだろう。また、この財務書類は、監査法人はもちろん、会計検査院等の第三者的チェックも行われていないようなので、信頼性が十分に担保されているともいえなさそうだ。
企業会計の知識は広く国民が持ち合わせている。現在は添え物的な扱いの、この「国の財務書類」をより適時に信頼性のある形で開示することで、政治家や役人、財政学者等の専門家だけでなく、国民も広く国の財政状態を理解して議論できるようになるし、また、政府も「財務書類」を中核に据えて、ストックをも含めた総合的な財務リストラ策を策定すべきであると考える。
ご参考資料:
週刊isologue(第33号)日本の国債は「紙くず」なのか?(国の財務書類・貸借対照表編)
http://www.tez.com/blog/archives/001488.html





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現在の皇居を売却することはどうかと思いますが、京へ居を戻されることには賛成です。
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以前京都でお食事どころで「ミカドはんはよ、お帰りになられませんのどすか?」と言われた時からの考えです。
中川信博