鳩山内閣が「東條内閣」になるとき - 池田信夫

2009年11月30日 12:25

民主党が「開かれた政府」をめざすのは結構なことですが、それは当然、自分たちに都合のいい情報も不都合な情報も公開することでなければならない。ところが政府は、温室効果ガスの25%削減の家計への影響を検討したタスクフォースの試算を「非公表」扱いとしました。それは産経新聞によれば、試算結果が「国民にネガティブなイメージを与えてしまう」からだそうです。


その報告書には世帯当たりで毎年3万円から76万円までの数字が並んでいますが、最小の3万円という数字を出したのは国立環境研究所で、「前提条件の数字をいじっている」と批判されました。76万円という推定は自民党政権の2倍以上で、小沢環境相は「鳩山政権を応援してくれるみなさんとやりたい」と、メンバーを変えて再計算するよう命じたそうです。

正しい国家戦略の前提は、正しい現状認識です。太平洋戦争の開戦前夜にも、陸軍省整備局の報告では、日米の戦力や補給力に大きな差があり、2年以上は戦えないとされていたが、東條英機内閣はそれを無視し、企画院に生産力を誇大に見積もった報告を出し直させて御前会議を強行突破しました。このように客観情勢を無視して「大和魂があれば何とかなる」とする日本軍の主観主義が、民主党政権にも受け継がれているようです。

政府の方針が迷走しているスパコンも同じです。事業仕分けの議事録を読むと、複数の専門家が「3社のうち2社が降りて計画が崩壊したのに、残る1社だけで同じ性能を実現できるのか」と質問しているのに、文科省は「科学技術立国のために世界一になることが重要だ」といった東條のような精神論を振り回すばかり。2012年にはIBMなどが10PFLOPS機を完成させる予定で、理研のスパコンは予定どおりの性能が実現したとしても、1位にはなれない可能性が強い。

「デフレ宣言」を出したまま、何をするのかわからないマクロ政策も同じです。マイルドなインフレが望ましいという目標に反対する経済学者はいないでしょうが、それが実現できるかどうかは別の問題です。世界各国の中央銀行も、マネタリーベースを激増させたのにデフレ傾向に歯止めがかからないで苦闘しています。「日銀に大和魂があればデフレは止まる」という岩田規久男氏のような精神論は、戦略の根本にあるべき現状認識を欠いたものです。

バラマキ福祉と無駄の削減を同時にやろうとする鳩山内閣の二正面作戦は矛盾しており、中国で泥沼になっているのに南方に戦線を拡大して自滅した日本軍に似てきました。せっかく補正予算を2.7兆円削減したのに、今度はそれを上回る2次補正をやるという。実現可能性を無視して「マニフェストの実現」を金科玉条とし、無謀な全面戦争に突入するとどういう結果が待っているか、民主党は歴史に学んだほうがいいのではないでしょうか。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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