民主党の生存バイアス - 池田信夫

2010年01月06日 09:55

Ian BremmerとNouriel RoubiniがWSJで「日本の民主党の方針は分裂している」と批判しているが、これは間違いだ。民主党の方針は反企業・親労組という点で一貫している。その結果出てくる政策が矛盾しているのは、この方針がナンセンスだからである。企業の投資を阻害して、労働者を豊かにすることはできない。


その典型が、民主党政権が来年の国会に出そうとしている公開会社法である。これは連合が求めている「労働者参加」を法的に義務づけ、日本を資本主義から社会主義に変える法案だ。このような時代錯誤の法案が21世紀になって出てくるのは、日本が社民党政権で痛い目にあった経験がないからだろう。

企業を興して投資を行なうのは、きわめてリスクの高い仕事である。昨年の上場企業全体の収益はマイナスになり、法人税は還付超過になった。もちろんこれは一昨年からの急激な景気悪化によるものだが、普通の年でも法人税の対象の約7割が赤字法人である。これには節税のための経理操作があるとしても、上場企業だけではなくすべての企業の合計を見れば、投資リターンはマイナスなのである。これはベンチャー企業ではもっと顕著で、シリコンバレーのベンチャーの5年生存率は約50%、投資以上のリターンを上げるベンチャーは10%以下といわれる。

民主党のような愚劣な話が後を絶たないのは、かれらが生存している企業の合計だけを見ているからだ。この錯覚をタレブは、次のような寓話で説明する:

架空のファンドマネジャー1万人をコンピュータの中につくり、最初の年に半分が1万ドルもうけ、半分が1万ドル損をして退出する・・・というシミュレーションを繰り返すと、5年目には313人が5年連続で合計5万ドルもうける。しかしメディアは彼らを賞賛し、その投資術を書いた本がベストセラーになるかもしれない。

5年目に生き残った313人だけを見ると、1万ドルが5万ドルになって大もうけのように見えるが、残りの9687人の投資リターンはマイナスだから、全体としてはギャンブルは(テラ銭を差し引くと)必ず損になる。ところがギャンブラーは大もうけした人だけを見て賭け続け、宝くじを買う人はみんな自分だけは当たり籤を買うと信じている。このような生存バイアスによって、カジノも資本主義も成立しているのである。

だから起業するのは合理的行動ではないが、そういう非合理的な人々の中のごく一部が大成功してイノベーションを実現すると、社会全体が利益を得る。資本主義は、多くの株主の犠牲によって繁栄しているのだ。ところが結果だけを見ていると、一部の企業が「もうけ過ぎ」に見えるので、民主党のようにそれを規制し、高い法人税を取ろうとするポピュリズムが出てくる。こういう「勝者を罰する」国から企業は脱出し、労働者に分配すべき所得も減り、すべての人が貧しくなるだろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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