Ian BremmerとNouriel RoubiniがWSJで「日本の民主党の方針は分裂している」と批判しているが、これは間違いだ。民主党の方針は反企業・親労組という点で一貫している。その結果出てくる政策が矛盾しているのは、この方針がナンセンスだからである。企業の投資を阻害して、労働者を豊かにすることはできない。
その典型が、民主党政権が来年の国会に出そうとしている公開会社法である。これは連合が求めている「労働者参加」を法的に義務づけ、日本を資本主義から社会主義に変える法案だ。このような時代錯誤の法案が21世紀になって出てくるのは、日本が社民党政権で痛い目にあった経験がないからだろう。
企業を興して投資を行なうのは、きわめてリスクの高い仕事である。昨年の上場企業全体の収益はマイナスになり、法人税は還付超過になった。もちろんこれは一昨年からの急激な景気悪化によるものだが、普通の年でも法人税の対象の約7割が赤字法人である。これには節税のための経理操作があるとしても、上場企業だけではなくすべての企業の合計を見れば、投資リターンはマイナスなのである。これはベンチャー企業ではもっと顕著で、シリコンバレーのベンチャーの5年生存率は約50%、投資以上のリターンを上げるベンチャーは10%以下といわれる。
民主党のような愚劣な話が後を絶たないのは、かれらが生存している企業の合計だけを見ているからだ。この錯覚をタレブは、次のような寓話で説明する:
架空のファンドマネジャー1万人をコンピュータの中につくり、最初の年に半分が1万ドルもうけ、半分が1万ドル損をして退出する・・・というシミュレーションを繰り返すと、5年目には313人が5年連続で合計5万ドルもうける。しかしメディアは彼らを賞賛し、その投資術を書いた本がベストセラーになるかもしれない。
5年目に生き残った313人だけを見ると、1万ドルが5万ドルになって大もうけのように見えるが、残りの9687人の投資リターンはマイナスだから、全体としてはギャンブルは(テラ銭を差し引くと)必ず損になる。ところがギャンブラーは大もうけした人だけを見て賭け続け、宝くじを買う人はみんな自分だけは当たり籤を買うと信じている。このような生存バイアスによって、カジノも資本主義も成立しているのである。
だから起業するのは合理的行動ではないが、そういう非合理的な人々の中のごく一部が大成功してイノベーションを実現すると、社会全体が利益を得る。資本主義は、多くの株主の犠牲によって繁栄しているのだ。ところが結果だけを見ていると、一部の企業が「もうけ過ぎ」に見えるので、民主党のようにそれを規制し、高い法人税を取ろうとするポピュリズムが出てくる。こういう「勝者を罰する」国から企業は脱出し、労働者に分配すべき所得も減り、すべての人が貧しくなるだろう。
コメント
> 残りの9687人の投資リターンはマイナスだから、全体としてはギャンブルは必ず損になる。
この話だと、例えば4年連続儲けて5年目に損した人は1+1+1+1-1=3万ドル儲けてますし、
胴元の取り分が書かれていないので、毎年儲けの合計と損の合計は等しくて、全体としては損得なしです。
何より5万ドルの儲けでは面白くない。
ここはバフェットの寓話を借用して
資産1万ドルからスタート、
半数は1万ドル儲けて資産2万ドルに、残り半数は1万ドル損して文無しになって退場。
翌年は2万ドルを賭けて、半数は2万ドル儲けて資産4万ドルに、残り半数は2万ドル損して文無しになって退場。
これだと5年後には32万ドル、10年後は10人が約一千万ドルになって面白くなります。本もさぞかし売れるでしょうね。
開業医と勤務医の収入についても,生存バイアスが全く無視されており,ついに診療所の再診料を引き下げて病院と同一にすることが既定路線です。億の借金と廃院リスクを背負って開業している開業医と,ほとんど解雇の無い勤務医の給料を比較して同一にしようというのです。生存している開業医というのは,いわば成功者であり,その陰には倒産に追い込まれた敗者がいることが,全く考慮されていない。本当にこの国はおかしい。
■小金持ちがさらに太るだけでは?
>反企業・親労組という点で一貫している。
私は中小企業と派遣でしか働いたことがありません。社長が集金に行かないと給料が出ないような、中小企業で組合運動をやっても意味がありません。
日本で成功している組合活動は、電力業界、公務員、鉄道、弁護士等でしょう。彼らは、最終的には価格に上乗せして、非組合員、私のような派遣労働者に負担押し付けることが可能です。
結局、うるさい奴に金あげて、痛みを感じさせないように負担させるだけ。
>こういう「勝者を罰する」国から企業は脱出し、労働者に分配すべき所得も減り、すべての人が貧しくなるだろう。
民主党を支持していうるのは、投資リターンがマイナスの9687人側なのでしょう。
その人々にとって、もうけが出ている人々に多くのものを負担してもらうのが正義なのだと思います。
その結果すべての人が貧しくなっても、自分だけが貧しく、その他の人間が富める社会よりはましなのでしょう。
民主党が国としての最適な政策を取れない理由がその辺りにあるのだと思います。
逆に言うと民主党が与党になったのは、投資リターンがマイナスの人々が大多数になった証拠なのでしょう。その人々に「負けたのだからおとなしく負けを認めろ」と言っても無駄だと思いますね。