増税は避けられない - 池田信夫

2010年01月09日 10:55

菅財務相が記者会見で「消費税の引き上げより予算の無駄を排除するのが先だ」とのべました。これは民主党のマニフェストにそった話ですが、そこで約束した「特別会計もあわせた200兆円の歳出の1割カット」はまったくできず、事業仕分けで削減した歳出も補正予算で使い果たしてしまった。この状況で「無駄をなくす」という精神論を言い続けることは、財政インフレのリスクを高めます。


WSJによれば、アメリカの多くのヘッジファンドが、日本国債の空売りをねらっているそうです。2008年の金融危機の前にリーマンブラザーズの株式やCDSを空売りして大もうけしたグリーンライト・キャピタルのデヴィッド・アインホーンは「日本の政府債務はすでに引き返せない地点にある」と宣告し、日本国債の値下がりでもうかるオプションを買ったことを明らかにしました。今週のAERAも、この動きを取り上げています。

来年度の国債発行額は(借り換えを含めて)162兆円という空前の額。今までは130兆円前後が上限といわれていたので、これは未知の領域です。「日本には1400兆円の個人金融資産がある」とよくいわれますが、負債を引いた純資産は約1065兆円。株式などを除くと900兆円で、個人の保有する国債残高670兆円から考えると、余力は230兆円――というのが春山昇華氏の見立てです。これは毎年50兆円の新発国債が発行されると、5年で底をつきます。金利は債券市場の需給で決まるので、国債が消化できなくなったら金利は急上昇します。

楽観論もあります。日本の所得税も消費税も国際的な水準に比べて低いので、それを平均的な水準に引き上げるだけで、ある程度は財政赤字は改善されます。しかし財政赤字の発散を防ぐには、税率を今の2倍以上に引き上げなければならない。消費税を数%上げるのに10年以上かかっている日本で、それが間に合うでしょうか。早めに手を打たないと、金利上昇が始まってからでは遅い。

もちろん不況期に増税することは、マクロ経済の常識では好ましくないが、増税は短期の可処分所得を減らす一方で、長期の財政維持可能性を高めて恒常所得を増やす(減らさない)効果があります。今のように財政危機が切迫してくると、こうした非ケインズ効果が大きくなるので、ネットの影響はそれほど悪くないでしょう。

名目成長率を名目金利より高めれば、財政赤字は発散しないという「上げ潮派」の主張は、理論的にはその通りですが、今の日本経済でそんな成長が可能でしょうか。残念ながら、企業でいえば「業績さえ上げれば債務は返せる」という段階はとっくに過ぎ、「私的整理」によって債務を削減しないと、国債の暴落とハイパーインフレで全面的に崩壊するリスクが高まっています。

世間では「不況でいくらお金をばらまいてもインフレは起らない」などという楽観論を流布する人がいますが、不況でインフレが起るスタグフレーションはありふれた現象で、資産インフレはたいてい(アメリカの住宅バブルのように)不況対策で金融を緩和したとき起ります。今や欧米でも「出口戦略」が検討されているのに、恒常的にゼロ金利の続いている日本が、これ以上乱暴な金融緩和はできない。

債務整理を行なう場合も、政府への信頼が絶対条件です。日本の国民負担率は国際的にみると低いのに、国民の「重税感」は強い。これは税金が無駄づかいされているという不信感が大きいためで、自民党政権がそういう使い方をしてきたことも事実です。だから増税か歳出削減かという以前に、政府が合理的な財政運営を行なうという信頼を築くことが重要です。

自民党政権の無駄づかいをもたらしたのは長期政権の惰性による既得権との癒着でしたが、民主党政権で歳出がコントロールできなくなった最大の原因は、成長を考えないで分配ばかり行なうポピュリズムです。増税を議論する前に、来年度予算を見直して子ども手当や農業所得補償などのバラマキを執行停止するぐらいの非常措置をとって政権としての姿勢を明確にしないと、国民の支持もマーケットの信頼も得られないでしょう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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