「検察の暴走」を誘発する刑法の不備 - 池田信夫

2010年01月18日 16:16

民主党の小沢幹事長の元秘書らの逮捕で、「検察の暴走だ」とか「マスコミは検察の未確認情報を無批判に垂れ流している」という批判が出ています。たしかに、今のところ明らかになった事実は政治資金報告書の不記載だけで、普通は逮捕するような容疑ではない。「裏金だ」とか「ゼネコンの献金だ」というのは、マスコミが「検察筋の話」として流している非公式情報です。こういうやり方に批判が出るのは当然ですが、捜査の実態を知っていると全面的には賛成できません。


政治家の疑惑というのはありふれたもので、マスコミへの垂れ込みも多い。私も検察に情報を提供して、捜査が行なわれたこともあります。しかしほとんどの場合、物的証拠があがっても立件は見送られてしまいます。日本の刑法では贈収賄の要件がきびしく、特に職務権限がないと金銭授受や利益誘導の証拠があっても犯罪にならないため、閣僚以外の政治家を起訴することは不可能に近いのです。今回の小沢氏の事件も、かりにゼネコンの献金が立証されても政治資金規正法違反と脱税にしか問えないでしょう。

したがって捜査の歩留まりも、100件の情報のうち1件も起訴できないベンチャー投資みたいなものなので、たまたま証拠のそろった1件についてはあらゆる情報操作を行なって厳罰を課す「一罰百戒」をねらう。現に日本の裁判では、検察に起訴されると99.9%は有罪になり、起訴までの段階で実質的に検察によって裁判が行なわれるのが実態です。

逆にいうと、巨額の賄賂を受けていたことがわかっていても、有罪にできる証拠がないと強制捜査はしない。このように捜査体制が「困難な巨悪を見逃して簡単な小悪を摘発する」構造になっている上に、贈収賄罪のハードルが高いため、微罪だが証拠のあげやすい政治資金規正法がこれほど騒がれるのです。したがって「政治資金規正法ぐらいで極悪人扱いするマスコミはおかしい」という批判は正しくない。

マスコミが検察寄りの報道になるのも、情報を提供してもらうという利害関係もありますが、このような実態を知っているからです。もし今度の事件で小沢氏の元秘書が無罪になったら、検察は政治資金規正法で政治家を摘発することに慎重になり、1/100の真実も報道できなくなってしまうから、記者も検察を応援するバイアスが働きがちです。

だから根本的な対策は、刑法の贈収賄の要件を緩和して、利益誘導の実態があれば職務権限に関係なく罪に問えるようにすることです。これについては自民党が「人権問題」を理由に反対してきましたが、職務権限を厳格に解釈するあまり、リクルート事件のように、一斉にばらまかれた未公開株のうち、たまたま事件のとき官房長官や労働事務次官だった人だけが収賄に問われる現状こそ人権問題です。

小沢氏は例外で、民主党にはよくも悪くも贈収賄の実態はほとんどないのだから、今回の事件を機に、贈収賄についての刑法改正を検討してはどうでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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