古い企業システムの生み出す学歴のインフレ - 『学歴の耐えられない軽さ』

2010年01月24日 08:23

★★★☆☆(評者)池田信夫

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
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大学の危機が叫ばれて久しい。本書も指摘するように私立大学の半分以上が定員割れで、教育の成り立たない大学が増えている。偏差値の高い大学でも、早稲田大学の政治経済学部の入学者のうち、一般入試は40%しかいない。大学の偏差値ランキングを落とさないために一般入試を絞り、推薦入学などで水増ししているためだ。結果的に偏差値は高いが学生の質は落ち、学歴のインフレが進行している。

企業の人事担当者もこうした実態を知っているので、大学の偏差値を信用しなくなった。特に偏差値の低い大学の扱いは専門学校以下で、大学を卒業してから(大学院ではなく)専門学校へ行く学生が増えている。講義の内容も専門学校化し、特定の資格を取るための学科が増えている。一部の難関校を除いて大学そのものがインフレになっており、今や専門学校より役に立たない一般教養を教える機関にすぎない。

これは本書も指摘するように、企業の求めるスキルが、特に文科系の場合、大学の専門知識と関係ないからだ。日本の企業は長期雇用で使い回せる「便利屋」を求めるので、へたに理屈をいう学生より体育会系の従順な学生を好む。しかし一定の知性は必要だから、大学の偏差値でフィルタリングしてから、面接で学生の忠誠心を見るわけだ。ところがその偏差値というフィルターが信用できなくなったため、企業も混乱している。このままでは、経済の根幹である人的資源の劣化が進むおそれが強い。

大学には専門知識を勉強して人的資本を蓄積する機能と、受験勉強に勝ち抜いたという潜在能力を示すシグナリングの機能があるが、日本では後者がほとんどすべてで、大学の4年間に何を学んだかは問われない。これは企業システムの古い構造に起因するので、企業を変えないで大学のインフレを止めることはできない。著者もいうように、正社員だけが理想の人生でフリーターや派遣はカワイソウという価値観が変わらないかぎり、大学も変わらないだろう。

本書はこうした日本の大学と企業の抱える問題を、多くのデータで具体的に語っている。ただ話がやや散漫で、前著ほどのインパクトはない。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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