電子書籍の問題は「普及するかどうか」ではなく「いつ普及するか」

2010年02月18日 11:33

TechWave編集長 湯川鶴章

Business Media誠の「電子書籍が普及、または普及しない理由」という記事を興味深く読んだ。記事によると、電子書籍は「普及しない」と考える人は18.9%、普及するかどうか「分からない」と答えた人は37.5%もいたようだ。

分からない?インターネットによって生活がまだそれほど変化していない大半の人にとっては、まだ分からないのかもしれない。でもネットの急速な変化に伴なう痛みを経験したことのある人には、長期的に見て電子書籍が普及するのは当たり前の話。当たり前過ぎて、議論にもならない。

だって考えてみてほしい。スタートレックのミスタースポックが紙の新聞や雑誌、本を読んでるところって想像できるか?


まあそれは半分冗談で、多くの人はそんな宇宙時代のことを言ってるわけじゃなく、自分が生きている間くらいのスパンで電子書籍は普及しないと考えているんだし、普及するのかどうか分からないんだろう。でも理解しておいていただきたいのはスタートレックのような宇宙時代までを含む究極の未来には、紙という植物にインクで情報を印刷し読み終わったら捨てるという環境に悪い行為や、蓄積して住居スペースを圧迫するような行為を伴なう情報伝達の手段はいずれ姿を消す。その方向に時代は移行しているのは間違いない、ということだ。

その点を理解してもらった上で、次の問題はいつ紙から電子に移行するのか、という時期の話だ。議論が分かれるのは、それが2、3年もしくは4、5年後という短いスパンになるのか、それとも50年後ぐらいの長期スパンになるのか、ということなのだろう。

デジタル情報革命はいろいろな領域に急速な変化を与えているのだが、急速な変化と言っても社会全体がその変化を認識するまでには、やはりそれなりの時間がかかる。音楽業界など、これまで大きく変化した領域の例を見るとだいたい10年くらいかかっている。新しい技術が古い技術に取って代わるのかどうかという議論が出始め、意見が大きく2つに分かれ始めてから、だいたい10年くらいで技術革新が社会に影響を与え、社会全体の意見が1つにまとまるのだと思う。

Business Media誠の記事を読むと、電子書籍の領域で、今まさに意見が大きく2つに分かれているのだという感じを受けた。電子書籍が普及しない、もしくは普及するかどうか分からないと答えた人の意見には次のようなものがあったという。

  • 「デジタル書籍の充実と全国的なネット環境(特に地方)の整備が必要に思う。デジタルコンテンツに必要な速度を地方では得られていない」
  • 「データとして残す、在庫を作らないという点では便利だが、紙媒体の質感や読む際の状態など、冊子独特の雰囲気に慣れた人がいるかぎりなくならないと思う。生まれた時から携帯に慣れ親しんだ人達がどのように世の中を動かすかが鍵だと思う」
  • 「日本の出版社が積極的に見えない」
  • 「これまで装丁等が素晴らしかった書籍がいくつもあり、それは電子化では置き換えられない。また、教科書などは空いたスペースに書き込みしたり線を引いたりしたいという希望もあるはず。電子書籍が普及するのは、ごく一部のジャンルのような気がする」

ふむふむ。こうした意見を読んで納得した読者の方もいるかもしれない。では次のような意見をどう読むだろうか。これらの意見は実際に10年ほど前にわたしが耳にしたことがある意見だ。

  • 「紙の百科事典はなくならない。あの皮の表紙の重厚感がいい。書斎のインテリアとしても最高だし、そういう意味でも紙の百科事典に対するニーズはなくならないし、ビジネスも成立する」
  • 「百科事典のCD-ROM版を作るのであっても、消費者は百科事典に重厚感を求めているので、CD-ROMのカバーは革製品にすべきだ」(実際に一時期、皮のカバーがついた百科事典のCD-ROMが市販されていた)
  • 「音楽CDはジャケットにも価値がある。音楽ダウンロードはあじけないので、絶対に主流にならない。ほとんどの人はCDジャケットを本棚に並べて眺めるのが好きだと思う」
  •  「航空券の電子チケットは絶対に普及しない。多くの人は、空港に行く前に紙のチケットを持っていないと不安になる。旅行代理店がチケットを配達してくれるサービスもうれしい」

 結果はどうだったか。

紙の百科事典のビジネスはほぼ成立しなくなったし、音楽はダウンロードすることが主流になってきた。航空券の電子チケット化は急速に進んでいる。

意見が大きく2つに分かれ始めてから、それぞれ10年くらいのスパンでだれもが時代の変化に気づくようになった。

次は電子書籍の番だ。今まさに意見が分かれている時期だ。

実はこの時期には、既に変化は始まっている。主流の領域にまで変化は及んでいないので、変化を認識していない人が半分くらいは存在するのだが、主流でない領域、周辺領域は既に変化し終わっている場合が多い。

書籍に関していうと、漫画などの領域である。漫画本の電子書籍は実はかなり普及している。漫画の電子書籍をケータイなどで読んでいる人からすれば、「何を今さらそんな議論をしているのか」ということになる。電子書籍の普及を彼らは既に実感しているのだ。

そして周辺領域の変化は、一般書にまで徐々に広がっていくだろう。既存の出版社の対応は遅れるかもしれない。しかし失うものがない新しい電子出版専門の出版社も次々出てくるだろう。

わたしが編集長を務めるブログメディアTechWaveも、周辺領域に向けた電子出版事業の準備を進めている。われわれがまず対象とする電子ブックリーダーは既に200万台以上普及したとみられるiPhoneであり、3月末に発売予定のiPadである。われわれが出版を計画しているのは、TechWaveの読者層向けのテクノロジー分野の電子書籍だ。iPhone向けにテクノロジー関連の電子出版という、ニッチな周辺領域を狙っている。

幸運なことにTechWaveの読者の大半はiPhoneユーザーであり、iPadの潜在ユーザーである。iPhone、iPadユーザーの0.1%程度がわれわれの電子書籍を購入してくれるだけで、事業として十分に成立する。どのようなテーマの本が求められているのかというマーケティング調査もブログメディア上でできるし、本のコンテンツの一部を紹介すればブログのコンテンツ拡充にもなるし、本の宣伝にもなる。ブログメディア上にアフィリエイト広告を貼りつければ、それも収入になる。

そして電子書籍時代が本格的に幕開けするころには、双方向の専門メディアが影響力を持つようになる。そういう思いで、専門メディアの構築を急いでいるのである。

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