いろいろな論議を呼んだ公開会社法が、24日に法制審議会に諮問されるそうです。これについての藤末健三議員の記事にいまだに誤解があるので、簡単に指摘しておきます。彼が「株主保護が行き過ぎている」証拠としてあげるのが「配当性向が高い」という話ですが、これは株主保護とは関係ない。たとえばマイクロソフトは、創業以来28年間、配当しなかった。マイクロソフトは「株主を保護しない企業」なのでしょうか?
配当性向というのは企業の投資戦略によって決まるもので、かつてのマイクロソフトのような成長期の(投資の大きい)企業では小さく、成熟企業では大きいのです。藤末氏は、一貫して労働分配率と配当性向を混同しています。労働分配率は賃金総額/GDPであり、配当性向は配当/利益。配当を減らしても未配当利益が増えるだけで、賃金は増えない。
マイクロソフトの例をみてもわかるように、未配当利益は賃金ではなく投資に回るのです。株主にとっても、配当(インカムゲイン)を得るか売却益(キャピタルゲイン)を得るかはどっちもでいいことです。配当に課税されるより「含み益」としてもっているほうが得なので、配当することは理論的には不合理です。
日本企業の配当性向は国際的にみて低く、これは高度成長期には合理的でした。成長企業が利益を配当しないで投資した結果、株価が上がれば、株主はキャピタルゲインを得るからです。しかし今のように企業が成熟して投資が落ち込み、配当にうるさい外人投資家が増えると、配当が増えるのは当然です。
藤末氏の「流動性が高く短期的利益を志向する投機家という側面を持つ株主を優遇するならば、経営もそのまま短期的戦略に基づくものとなる」という話も、20年ぐらい前の日本的経営バンザイ論の焼き直しです。四半期の業績に左右されるアメリカ企業の経営者の視野が短くなりがちだというのはよく指摘されますが、これは経営者の問題で、株主保護とは関係ない。
したがって藤末氏の提案する「長期株主の優遇策」もナンセンスです。もともと日本の株式市場は、先進国では異常に長期保有が多いのです。その最大の原因は、時価総額の12.7%にのぼる持ち合いです。買い手がどんな高価格でTOBをかけても売らない持ち合いは、最強の買収防衛策なので、政府が防衛策をつくる必要なんかない。長期保有を優遇する税制でもっとも得をするのは、絶対に売らない持ち合い株主でしょう。
敵対的買収とは「株主の意向だけで決まる買収」のことではありません。すべての企業買収は、株主の意向だけで決まるのです。敵対的というのは、既存の経営陣を退陣させるという意味で、株主にとっては歓迎すべき場合も多い。実際には敵対的買収は欧米でもほとんどなく、成功事例はさらに少ない。世界最大の企業買収ファンド、KKRの案件のほとんどは経営陣によるMBOです。
要するに、藤末氏は問題をまったく逆に見ているのです。持ち合いのような経営者の保身によって資本が浪費されていることが、日本株への投資が低迷し、日本経済が停滞している大きな原因です。民主党政権がそれをさらに悪化させる法律をつくったら、株価はさらに下がり、企業は倒産し、失業が増えるでしょう。公開会社法は、沈んでゆく日本経済の甲板で「デッキチェアをもっと労働者によこせ」と争う愚策というしかない。
コメント
>敵対的買収とは「株主の意向だけで決まる買収」
今回の政権交代も株主(国民)の意向によって旧経営陣(自民党)が退陣させられたわけですがw
マイクロソフトの株価はこの10年で30%しかあがらなかったし、 配当は年1%しかない。 10年前に売ればよかった。