増税は日本経済を再建する「武器」 - 池田信夫

2010年02月26日 06:17

インフレ目標のように、特定の数値目標を最優先して中央銀行の行動を制約することは、「平時」に政策決定の透明性や時間整合性を高める点では意味がありますが、最近の欧米のように金融仲介機能が損傷した場合には危険です。また日本のように「流動性の罠」に入った場合は、それ以上の「非伝統的金融政策」は副作用のほうが大きい。それよりマクロ経済全体を考えると、今の日本でもっとも切迫した問題は財政です。ギリシャを発端とした世界的な財政危機は、日本に飛び火しないとも限らない。


しかし鳩山内閣の増税についての方針はゆれています。その最大の原因は増税を打ち出すと選挙に負けるというポピュリズムですが、もう一つは増税が先行すると無駄を削減する圧力がなくなるという建て前論でしょう。これは小泉内閣が消費税を上げない理由にしたもので、それ以来、消費増税は先送りされ続けてきました。しかしこのように税を財政の帳尻だけで考えるのは古い発想です。税はうまく使えばインセンティブへの効果によって経済を回復させる効果をもつからです。

たとえば私が以前、アゴラで提案したように、消費税を毎年1%ずつ上げれば、ターゲティングなしでも人為的にインフレを起こすことができます。あるいは磯崎さんの提案する「マイナス金利」も一案でしょう。いずれも「奇策」といわれるかもしれないが、インフレ目標と違って効果が確実であまり副作用がないので、考慮には値します。

他方、日本経済の停滞の最大の原因である投資の減退を是正するには、法人税の引き下げや投資減税も考えられます。法人減税によって企業の海外逃避が減り、対内直接投資が増えれば、経済が活性化して税収増になるという見方もあります。こうした税制改革は、財政再建のためというより個人や企業のインセンティブに働きかける政策です。

ケインズ理論によれば、減税より公共投資のほうが「乗数効果」は高いはずですが、最近の実証研究によれば、減税のほうが成長率に与える効果は大きい。これは需要を追加する効果より減税によって投資が増えるインセンティブへの効果のほうが大きいからだと考えられています。その影響は財政出動と違って永続的なので、意外に大きな効果をもつのです。

日本経済は手詰まり状態のように見えますが、財政支出に比べて税率が低いというのは、考えようによればインセンティブに働きかける「武器」をもっていることになります。欧州なみの15%程度に増税することは政治的にも不可能ではないので、これによって20兆円の税収増が可能です。また子ども手当のようなバラマキ福祉を撤回することは、政治的に歓迎されるででょう。これだけで5兆円が浮きます。この25兆円の「隠し財源」をうまく活用すれば、日本経済を建て直す役に立つのではないでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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