Appleに見る、ソーシャルメディアマーケティングの神髄とは- 小川浩

起業家として僕たちは日々、猛烈なストレスとプレッシャーに耐えつつ、新しいサービスの開発や市場の創造を実現するべく励んでいます。だからマーケティングの戦略を採択するにあたっては常に慎重にならざるを得ません。ベンチャーにとってマーケティング予算を浪費してしまうことは、自社の存亡に関わるからです。

拙書『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)に書いているように、企業はそれぞれの市場の中で、競合他社との生存競争を行っており、その競争に勝ち抜くための戦略と戦術こそがマーケティングの本質であると考えています。
これを戦争と呼ぼうが競争と呼ぼうが同じことであり、自国の安全と国益を守り抜くことが政治家の仕事であるように、経営者は自分の会社のステークホルダーを守り、成長していくことを考えねばなりません。そのための戦略と戦術こそがマーケティングと考えています。

『ソーシャルメディアマーケティング』の中で僕たちは繰り返し主張しているのですが、競争をなるべく避けたければ、セグメントを絞り込み、その中での市場リーダーになるしかありません。一番いいのは新奇性を持った市場を作り、パイオニアになることです(『革命戦』P142)。
しかし、いったんはその市場を独占したとしても、やがてその市場の旨味が知れ渡れば、必ず競合企業が市場を侵食してきます。つまり、結局は戦いに巻き込まれるのです。

『ソーシャルメディアマーケティング』は、孫子をモチーフに、企業が競争に勝つための戦略(と戦術もですが、ほぼ8割が戦略論です)を述べた本です。マーケティングを行う上で
・市場リーダー
・二、三番手の企業
・中小企業
・ベンチャーや新規事業部門
の4つのポジショニングによって戦略を分ける必然性を説き、そのうえでソーシャルメディアの用法に触れています。だから、『ソーシャルメディアマーケティング』は、ソーシャルメディアの使い方を論じた本ではなくて、ソーシャルメディアの普及後の基本的なマーケティングの在り方を書いたホンダと言ってもいいと思います。


我々は現在、ソーシャルメディアマーケティングという新しい手法を提案し、お客様のお役に立つためのソリューションを開発することに挑んでいます。本を書いたのもそのご提案をまとめるためです。(P154)ソーシャルメディアマーケティングとは、逆説ながら、ソーシャルメディアを使うマーケティング、という意味だけではありません。

むしろ、ソーシャルメディアを使わなくてもいい。

僕たちが考えるソーシャルメディアマーケティングとは、ソーシャルメディアが消費者の購買活動に大きな影響を与え始めている、という事実を認識した上で行うマーケティングのことです。つまり、ソーシャルメディア自体を使わなくても、ソーシャルメディアを味方に付けることができればそれでもいい、という考えの元にさまざまなアイデアを考案しています。

例を挙げましょう。
僕たちが考える、世界一ソーシャルメディアに愛されている企業の一つはAppleです。
しかし、Appleほどソーシャルでもなくオープンでもない企業は珍しい。CEOブログどころか、社員がオフィシャルなブログやTwitterで業務に関することを話すことも禁止されていると思われます。
スティーブ・ジョブズの考えや新製品は常に秘匿され、イベント等による発表当日まで伏せられています。(そもそもOSやAPIなどの公開も最低限の情報に限られている、非常にクローズドな文化を彼らは持ち続けています)
今後彼らがその方針を変えるかどうかは分かりませんが、少なくともこれまでのところ、やはりAppleはソーシャルメディア上で、多くのファンに愛され、世界中のクチコミを味方にしています。何か発表をすれば、その前後にものすごい数の情報がソーシャルメディア上を駆け巡ります。まるで刀を抜かずに相手を倒す剣豪のようです。

つまり、ソーシャルメディアを味方につけることと、ソーシャルメディアを積極的に使いこなすことは同じようで違うわけです。

ただし、この戦略はApple以外の企業にはなかなかマネのできないと考えるべきです。
だから僕は最近、このAppleを引合にだしたうえで、「Appleと同じような振る舞いをできますか?できないのであれば、積極的にソーシャルメディアとの関係を作っていきましょう、参加しましょう」と潜在顧客に対してお話をするようにしています。